政府は、2026年7月10日、「令和8年版(2026年度)観光白書」を閣議決定した。観光白書は、観光立国推進基本法に基づき、観光の状況や政府が講じた施策、今後の施策方針について毎年国会に報告するもの。今回の白書では、3月に閣議決定された「第5次観光立国推進基本計画」の重要な柱である「観光地・観光産業の強靱化」に関連し、宿泊業の人材・生産性に関する現状と課題、生産性改善と人材確保に向けた取り組みの事例を紹介しながら、「働いてよし」の観光産業の実現に向けた国の施策の方向性を報告している。
さらに、今後の重要課題として、一部地域への偏在を是正する「地方誘客の推進」と、住民生活の質を確保する「オーバーツーリズムの未然防止・抑制」を挙げ、持続可能な観光地域づくりに向けた方向性を示している。
以下、白書の主要なポイントをまとめた。
国内外の観光動向は好調、国内消費額は過去最高
第I部では、直近の観光動向がまとめられている。国連世界観光機関(UNツーリズム)によると、2025年の国際観光客数は15億2300万人(前年比4.0%増)で過去最高を記録。日本についても、2025年の訪日外国人旅行者数は4268万人(前年比15.8%増)と過去最高となった。国籍・地域別では欧米豪の割合が増加するなど多様化が進展している。また、訪日外国人旅行消費額も9兆4549億円(同16.4%増)で過去最高を更新した。
日本人の国内延べ旅行者数は5.5億人(同2.4%増)、国内旅行消費額は26.8兆円(同6.5%増)となり、インバウンドを含めた日本国内における総旅行消費額は37.6兆円(同9.6%増)に達し過去最高となった。ただし、延べ宿泊者数でみると6億5348万人泊(同0.8%減)と微減し、特に外国人宿泊者の約7割が三大都市圏に集中し、地方部は3割程度にとどまるなど、誘客の地域的偏りが課題として浮き彫りになっている。
宿泊業の人材確保と生産性の向上に向けた課題と取組み
白書では、「『働いてよし』の観光産業の実現に向けて~宿泊業の人材確保と生産性の向上~」と題して、宿泊業の構造的課題と解決策に切り込んでいる。
現状、宿泊業・飲食サービス業は全産業の中で人手不足感が非常に強く、他産業に比べて賃金水準が低く年間休日日数も少ない。業務量の増減調整が必要なことから非正規雇用の割合も高く、労働生産性は全産業の7割程度の水準にとどまっているのが実情だ。従業員に対する教育・研修の不実施率が高く、設備投資も低調であるなど、スキルアップや効率化への投資の遅れが指摘されている。人手不足によって、既存従業員の負担増、サービスの縮小、事業拡大の断念を余儀なくされる施設も出ている。
こうした課題を打開するため、白書では生産性改善と人材確保に向けた具体的な先進事例を紹介している。財務データ等の分析に基づき週3日の「固定休館日制」を導入し、売上が減少したものの利益率15%向上、若手人材の安定的確保にもつながった例や、生成AIを活用したデジタルマーケティング推進、外国人観光客のクチコミ分析や多言語翻訳、問い合わせ対応の効率化によって業務負荷を大幅に削減した事例などを紹介している。
白書は、宿泊業の人手不足解消には「有形・無形の投資や人材育成を通じて収益性・生産性を高め、繁閑差への対応力を強化し、その成果を賃金や待遇の改善につなげていくことが重要」と提言している。
今後、国として「第5次観光立国推進基本計画」に基づき、「国内交流・アウトバウンド拡大」「観光地・観光産業の強靱化」「インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保の両立」の3本柱で施策を推進する。7月に3000円へ引き上げられた国際観光旅客税によって、関連予算は前年度の490億円から1300億円へ大幅増額されている。白書では、2030年の訪日客6000万人・消費額15兆円の目標達成に向け、地方誘客の推進やオーバーツーリズムの未然防止対策などに重点的に充当される方針も示した。これにより、地域住民と観光客双方の満足度を高める「持続可能な観光地域づくり」を目指し、「住んでよし」「訪れてよし」に「働いてよし」を加えた、新たな観光産業の実現を目指している。