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建設費高騰で変わる日本のホテル開発、新築から既存物件の再生へ、長期滞在にも商機 ―AHICEレポート

ホテル業界では、諸コストの高騰などによって既存物件のコンバージョンが増加している。ライフスタイル系ブランドや長期滞在型への移行、宿泊者の多様化するニーズへの対応なども求められている

2026年9月、グランドプリンスホテル高輪で開催された第3回日本・極東アジアホテル産業カンファレンス(AHICE)では、国内外のホテルや投資関係者が集まり、多岐にわたる議論が展開された。

同イベントは2010年に豪州でスタート。ホテル産業をオペレーションと投資の両面から展望するアジア太平洋で最大規模のフォーラムで、主催は旅行メディア「トラベル・ビジネス・メディア」。今年のAHICEには、前回を上回る350人が参加した。

※写真(上):イベントの様子。英国ファッション界のイノベーターで、ホテル廃品や軍服などのアップサイクルに取り組むスチュアート・トレバー氏らも登壇した

ニーズは多様化、長期滞在レジデンスに商機か

様々なトピックに関する講演およびパネルでは、登壇者各氏がそれぞれの取組みなどを交えつつ、日本市場のこれからを展望した。

IHG ANAホテルズグループ日本地区CEOのアビジェイ・サディリヤ氏は「日本のホテル市場は独立系が圧倒的多数で、グローバルブランドのシェアは5%ほど。市場は十分にある」との見方だ。なかでも東京は「インバウンド需要と日本人高所得層の両方が揃う、完璧な高級ホテル市場だ。高級車が売れる都市は、高級ホテルも必ず成功する。東京はその典型」と評する。

マリオット・インターナショナルの日本地区ラグジュアリー担当エリア・ゼネラルマネジャー、カルロス・タレーロ氏は、「大阪は苦戦しているものの、東京は前年比で成長中だ。京都は、ADR(客室単価)の伸びによる成長が続いている」と話す。京都市では今年3月、宿泊税が導入されたが、その影響は感じられないという。

今後、2~3年の日本市場の展望について、アコーのアジア地区ラグジュアリーブランド最高開発責任者、ローラ・モーヴァン氏は「特にラグジュアリー市場で、多様化と価値向上が進んでいる。当社では、韓国、シンガポール、東南アジア諸国が大きく成長しており、リピート率も非常に高い。こうしたリピーター層向けに、流通の見直しだけでなく、商品(プロダクト)自体のアップデートが必要」との考えで、具体的には、地方の第二、第三都市での新規開発、ウェルネス、ストーリー性の強いブティックホテルによる新しい価値提供を挙げる。

パンパシフィックホテルグループの開発責任者、ケイト・ロウ氏は、「当社ブランドが得意とするデザイン、雰囲気、感情価値を重視したライフスタイル領域は、日本ではまだ十分に開拓されておらず、特に主要都市での成長余地が大きい。ローカル文化やコミュニティを感じられる空間づくりを重視しつつ、より多様な滞在ニーズに応えていく」と話した。

ラグジュアリー市場において、ビジネスチャンスがあるものとして度々、挙がったのは、「家のように過ごせるホテル」、「ホテル並みのサービスがある長期滞在レジデンス」だ。

レストラン事業からスタートし、現在は世界で46軒の宿泊施設を展開するノブ・ホスピタリティのアジア太平洋地区ディレクター、リー・リン氏は、“ホームカミング”となる日本での進出先について、「レストランが常に繁盛する都市であること」に加えて、同社ポートフォリオの大半を占める高級分譲レジデンスを開発側が求めているかどうかを挙げた。

ブランド分譲レジデンスは、開発者の資金調達を劇的に楽にするなどのメリットがあり、海外旅行者からの需要も高いという。同社の場合、利用者は海外に保有するレジデンスに「年間2〜3回は戻ってくる。カイロでもノブ・レジデンスはすぐに完売した。同じことが日本の主要都市でも起こるはずだ」と見る。

IHG ANAホテルズグループ日本地区CEOのアビジェイ・サディリヤ氏

逆風は施工費高騰による利益圧迫

日本におけるホテル開発の課題は建設コスト高騰だ。投資環境についてのパネルでは「2024年頃に参入した海外投資家は非常に成功しているが、今後、10%以上のリターンを目指すには、より積極的なテコ入れが不可欠」(アクス・マネジメント・パートナーズCEO兼マネジングパートナー、ゲリー・クウォーク氏)、「予算比50〜100%オーバーとなり、キャンセルや延期、再設計となるプロジェクトが相次いでいる。地方では施工業者が限られるため、その確保も大変で、価格交渉の余地すらない」(パシフィックホテルズGKのCEO、セス・サルキン氏)といった声が相次ぐ。

パンパシフィックホテルグループCEOのチョウ・ペン・サム氏も、「東京以外の地域で成長しようとすると、最大の課題は建設コストの高騰。労働力も不足している」と指摘。「新築は非常に難しいため、既存建物を取得して改修する方が合理的。計画から完成まで、通常の倍以上、5〜6年かかるため、その間の保有コストも利回りを圧迫し、投資回収を厳しくする」という。

こうした投資環境下で活発化しているのが、ミッドスケールのカテゴリーにおける外資ブランドへのコンバージョンだ。もともと日本には、一定以上の建築標準は備えているものの、ブランド力は弱い独立系や中小規模のホテル群が少なくないことも一因のようだ。

IHGでは8月末、京都の既存ホテル12軒を同社のコンバージョン向けブランド「ガーナー」にリブランドする計画を発表した。「ガーナーは2023年の登場以来、世界で急成長している手ごろな価格ながらデザイン志向のブランドで、ADR(平均客室単価)が20%、あるいは40%上昇するケースもある。資本回収が難しいと言われるミッドスケール領域での成長余地は非常に大きい」とIHG・サディリヤ氏。日本市場の宿泊客室数は約180万室、そのうち約90万室がミッドスケールのカテゴリーであるため、ガーナーや下位ミッドスケールブランド「アビッド」などへのリブランド需要は多数、存在すると手応えを感じている。

同様に、アコーでも今年は契約した客室の70%が既存ホテルのコンバージョンで、「新築よりも既存物件の再生が圧倒的に増えており、国内ホテル市場の構造変化がうかがえる。我々もこの流れに合わせてブランド戦略を調整している」とアジア地区最高開発責任者のアンドリュー・ラングドン氏は話し、長期滞在型を組み合わせたモデルなどで、オーナーの収益改善につなげたい考えだ。

一方、上位クラスのホテルについては「バランスを取る必要はあるが、(時代遅れにならないように)需要の高いベンチマークを満たすプロダクトが必要」とマリオットのタレーロ氏。アセットライトを標榜する同社が世界で展開する1万軒以上のなかで、固定資産に出資しているのは15軒以下、そのうちの3軒は日本、うち2軒が東京にあるという。

パンパシフィックホテルのチョウ氏も「グループ58軒のホテルのうち40軒で、過去7年間に改修・再設計などを実施している。ブランドの価値を高めるためには、ハードとソフト、両方が重要だ。料飲部門も利益率は20〜25%と決して高くはないが、ホテル体験の魅力アップに欠かせない。宴会場もLEDや最新音響設備を導入し、体験価値を高めている」と話す。

人手不足や離職率の改善に向けたテクノロジーも

コスト増と並び、ホテル業界が抱えるもう一つの悩みは人手不足や離職率だが、西武・プリンスホテルズワールドワイドでは「毎年500人を超える新卒社員を採用し、年間離職率を10%未満に維持している」と代表取締役社長 社長執行役員の金田佳季氏。宿泊客の嗜好などの情報をホテル間で共有するためにテクノロジーを活用する一方、自社内での人材育成を重視しており、ホテル業における将来のキャリアパスが描けることが同社の強みと話した。

そのほか、複数のホテル間で業務を分担するクロスプロパティ運営、日本の「特定技能制度」の業種別受け入れ人数枠の拡大などが解決策として話題にのぼった。

イベントでは、こうした課題解決に向けた新しいソリューションを提供するテック企業によるプレゼンテーションもおこなわれた。適材適所の人材配置により社員定着率の向上をサポートするインフォーの「タレント・サイエンス」は、導入後に定着率が15%向上したケースもあるという。トラストユーは、プライベートデータを加えて接客をパーソナライズするAIソリューション、ヴィングカードはルームキーをモバイル配信し、フロント業務を軽減する「ワンキーズ」を紹介した。

トラストユー日本法人の代表取締役、大槻久慶氏が登壇