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OpenAI会長ブレット・テイラー氏が語る旅行AIの未来、「デジタルの玄関口」は予約から滞在後まで一つの会話に

OpenAI会長でシエラ共同創業者のブレット・テイラー氏は、旅行業界におけるAI活用について、顧客サービスにとどまらず、予約、販売、タビマエ、タビナカ、タビアトまでを一つにつなぐ「デジタルの玄関口」としてAIエージェントが機能する可能性を示した。先ごろ、ニューヨークで開催された国際カンファレンス「Skift Global Forum」で、スキフトCEOのラファット・アリ氏との対談で語った。

テイラー氏がまず強調したのは、音声だけではなく、画像やテキストを組み合わせる「マルチモーダル」な体験だ。マルチモーダルとは、テキストのほか、画像や音声、動画など複数の形式の情報を組み合わせて理解・処理する技術を指す。

航空券の予約では座席表、リゾートホテルの予約では客室画像が重要になるとして、「音声はおそらく最も表現力があり、私たちにとって最も簡単なコミュニケーション手段だ。一方で、一枚の画像には千の言葉に相当する価値がある」と話した。

そのうえで、自社のウェブサイトやスマホアプリのように企業が顧客接点を自ら持つ場合、「話しかければビジュアルが返ってきて、入力すれば音声が返ってくる」ような体験を提供できると説明。「音声が実際に機能するようになったことは、生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)がもたらした新しい能力の一つだ」とした。さらに、米国の大手航空会社との取り組みが進んでいることにも触れ、そのサービスについて「公開されれば、私自身がこれまで見たなかで圧倒的に優れた予約体験になると思う」と語った。

予約から滞在後まで、AIエージェントを「デジタルの玄関口」に

テイラー氏は、AIの役割をインバウンドの顧客サービスだけに限定して考えるべきではないとの見方を示した。企業の経営トップが重視するのは成長であり、そこには予約、販売なども含まれると指摘した。

将来的には「すべての企業のAIエージェントが、その企業のデジタルの玄関口になる」と予測。企業側から顧客に働きかける場合でも、顧客側から問い合わせる場合でも、やり取りは分断されるのではなく、「一つの連続した会話」であるべきだとした。

ホテルを例にすると、予約時、到着前、滞在中、滞在後という複数の顧客接点がある。旅行者側から何らかの要望を伝えることもあれば、ホテル側からクロスセルやアップセルを提案することもある。テイラー氏は、これらは一つの会話であると同時に、より正確には「異なる部門が担当する一連の会話」だと説明した。

課題となるのは、「社内の“縦割り分断”を顧客体験に持ち込まない」ことだ。同氏によると、旅行会社、航空会社、ホテル、Uberのような企業では、予約を担当する部門とサービスを担当する部門が分かれていることが多い。しかし旅行者にとっては、そうした社内の部門区分は関係ない。

テイラー氏は、顧客をたらい回しにするような体験について、「AIの世界では、これは絶対に起きてはならない。そうなれば、実質的に自社の組織図を顧客に見せていることになる」と強調した。シエラ社では米経済誌Fortune(フォーチュン)が選ぶ成長企業「フォーチュン50」の約半数と取り組んでいるとして、大企業であっても、企業を代表する単一のエージェントを「デジタルの玄関口」として構築することは可能だと説明。「常に顧客ジャーニーから始めなければならない」と語った。

対談するOpenAI会長ブレット・テイラー氏(左)とスキフトCEOラファット・アリ氏

AIの安全性、「価値を得る権利」は安全確保が前提

対談では、AIをめぐる安全性についても議論が及んだ。テイラー氏は、「この技術は重大な影響を持ち、本当に新しく、非常に強力だ」としたうえで、安全性をめぐる議論は現実的なものだと説明。「安全にするには、安全性に焦点を当てなければならない。自然にそうなるわけではない」と述べた。

なかでも重要なテーマとして挙げたのが「アラインメント」だ。アライメントとは、一般的には「整合」「調整」を指すが、ここでは、AIモデルが開発者の意図や、モデルを利用する人の意図に沿って動作することを意味する。たとえば「ホテルの部屋を予約して」と依頼した際、予約自体は完了しても、その過程で利用者の価値観に反する行動をとれば、それもアラインメントの問題になると説明した。

今後、AIモデルの能力が人間の認知能力を上回るようになった場合に、どうアラインメントを確保し、維持するのかが研究の最前線になるとの認識を示した。「リスクがないと言うのは無責任だ。リスクは間違いなくある」とする一方で、世界の研究者がこの問題に取り組んでいることに自信を示し、「科学における多くのリスクへの解決策は、より多くの科学だと思う」と話した。

また、安全性を確保するうえでは、標準の整備と受容、透明性、第三者や外部による監査も重要だとした。テイラー氏は、安全性を「AI版のヒポクラテスの誓い」にたとえ、「まず害を与えないこと。安全でなければ、AIから価値を得る権利を得ることはできない」と語った。

一方で、安全性そのものがAI開発の目的ではないとも強調した。「目的は、AIがもたらす便益にある」とし、医療、金融アドバイス、教育などで高度な知能を広く利用できるようになる可能性に期待を示した。自身の子どもたちがAIを使って学習する事例にも触れ、音声AIが歴史の試験勉強でクイズを出したり、シェイクスピアの作品を読む学習を支援したりする例を紹介した。

AIが人間の仕事を代替するとの懸念については、ATMの普及を例に挙げた。銀行窓口係という仕事のあり方は変化したものの、銀行支店そのものがなくなったわけではなく、支店では別の仕事をする人が増えたと説明。背景には競争と自由市場があるとした。

企業がAIによって単純に利益率を高め続けられるわけではなく、競争によって価格が下がるか、あるいは新しい用途を考え出す企業が現れ、それを他社が追随する可能性が高いとの見方を示した。「AIの潜在的なマイナス面には慎重であるべきだと思う。しかし最も重要なのは、安全性を確保し、その便益を享受できるようにすることだ」と語った。

オープンウェイトの価値はどこに、AI導入は「想像より遅い」

テイラー氏はオープンウェイトモデルについても言及した。オープンウェイトモデルとは、学習済みのパラメータ(重み)を公開し、利用者が自社環境などで利用・調整できるAIモデルを指す。

企業がAIモデルを選択する際の論点について、オープンウェイトモデルが採用される主な理由として、コスト、データ主権、ファインチューニングの3点を挙げた。

このうちコストとデータ主権については、長期的には決定的な差ではなくなる可能性があるとの見方を示した。AI提供において、コストが主にかかるのは推論する処理作業だ。そのためオープンウェイトかクローズドかにかかわらず推論にはコストがかかるとして、「オープンウェイトモデルの方が提供コストが安いことが自明だとは思わない」と説明した。モデルの規模や性能によって価格が決まる面が大きいとの考えだ。

また、OpenAIでは、小型で安価かつ高速なモデルから、大規模なフロンティアモデルまで、利用者が求めるさまざまな価格と性能の組み合わせをAPIで提供することを目指していると説明した。

データ主権については、企業は自社データがモデル提供者の学習に使われないことを要求すべきだとし、クラウド業界と同様に契約で解決できる部分が大きいと指摘した。一方、独自データを使ってモデルを調整するファインチューニングには正当な価値があるとした。ただし、将来、非常に高性能なモデルを小型・低コスト化できるようになった場合に、幅広い用途でファインチューニングがどこまで重要であり続けるのかは「興味深い知的な問い」だとした。

それでも、「オープンウェイトモデルが存在することは重要であり、エコシステムにとっても重要だ」と明言した。

最後に、AIによって既存の業務ツールが急速に消えるのかとの問いに対しては、慎重な見方を示した。製薬業界を例に、AIによって新しい分子の発見が飛躍的に効率化したとしても、実験室での検証、臨床試験、規制当局の承認といった工程は残ると説明。一つの工程だけが大幅に効率化されても、サプライチェーン全体には別の制約があるとした。

「社会も経済も複雑で、動きは遅い。AIの導入は、私たち全員が考えているよりもずっと遅くなると思う」とテイラー氏。AIが驚くべき技術であることとは別に、産業や企業ごとに導入速度には差が生まれるとみる。Excelについても「非常に長い間、残るだろう」と話し、むしろ一部の経済領域がAIモデルをより速く導入できないことで、経済の中に予想外のばらつきが生まれる可能性に注目した。

取材・文 鶴本浩司