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2030年の観光地経営、人口減・高齢化市場の対応に必要な3つの取組みとは?

JTBF旅行動向シンポジウム:レポート

少子高齢化による人口減少の影響が免れない今後の旅行市場において、観光地はどのように観光人口を拡大していくべきか――。

公益財団法人日本交通公社(JTBF)の第23回旅行動向シンポジウムで、観光政策研究部次長の塩谷英夫氏は観光地の将来像を読むポイントとして「人口減少」、「インバウンドの増加」、「新しい技術の発達」、「緊縮財政化」を提示。2030年に向けた観光地経営には「80年代ツーリズム」、「FIT中心のインバウンド」、「スマート観光地」の3つの取り組みが必要と語った。


▼70歳以上、旅行を続ける十分な財力あり

JTBF観光政策研究部次長の塩谷英夫氏

塩谷氏はまず、この数年の国内旅行市場における変化として、旅行会社の利用率の低下と高齢者層のFIT化を指摘。貸切バスの利用率(2010年)を世代別に見ると、70代以上は31.5%で彼らが50代だった20年前(26.9%)よりも増えているものの、団塊世代の60代は16.2%で20年前(22.7%)よりも減少している。

ただし、収入・貯蓄面から見ると、70歳以上の高齢者は重要な市場と位置付けられる。70歳以上の平均貯蓄額は2197万円で、60代の時(10年前)の2319万円から大きな減少はない。年間収入は約100万円減少しているものの、世帯人員は減少することから、塩谷氏は「世帯人員1人当たりの貯蓄額は多い。旅行をするのに十分な貯蓄・収入がある」と断言。宿泊費の年代別シェアを見ても70歳以上は25%、60歳以上に広げると約6割に達するといい、高齢者層の取り込みが今後の旅行市場に欠かせないことを示した。


▼80代以上の人口が70代を上回る時代に

国立社会保障・人口問題研究所は、日本の人口は2010年の1億2800万人から、2025年には1億2100万人と700万人減少、2030年には1億1700万人で1100万人減少すると推計している。

塩谷氏がこれに日本観光振興協会の資料「平成23年度観光の実態と志向」をあわせて試算したところ、国内宿泊観光発生量(年代別の積み上げ)は2030年に全国1億930万人回となり、2010年より1200万人回減少。ただし、70代、80歳以上は増加する見通しだ。人口構成でも2030年には80代以上の人口が1570万人となり、70代の1380万人を上回る。

しかし、旅行発生量では70代の方が多いという。高齢者1人当たりの旅行回数は年代が高いほど減少するという観光庁の調査結果もあり、塩谷氏は「現状のままでは市場はしぼむ」と早急な対応を促す。

オピニオンリーダー層調査の「80代になっても旅行をしたいか?」の問いでも、年代が高いほど意欲が低下する結果となったが、それでも60代の半数以上が、今以上または同様の頻度で旅行をしたいと回答。「80代になったときに国内宿泊旅行をするうえで必要性が高いもの」の問いでは、「独身高齢者向けツアー」、「観光バスの低床化」といった団体ツアーへの要望と、「観光地や駅のエレベーター充実」、「シニア向け遊歩道」などFIT向けの要望が多く上がっており、塩谷氏は「80代ツーリズムの成立には団体ツアーとFITの両面の施策が必要」と述べた。


▼日本人の減少をインバウンドが相殺

塩谷氏の試算によると、日本人と外国人の延べ宿泊数の合計は2012年の4億3900万人泊に対し、2030年は4億5000万人泊と緩やかに増加。しかし、外国人比率は6.0%から17.1%に上昇しており、塩谷氏は「日本人の旅行量の落ち込みをインバウンドが相殺する形で進行する」との成長シナリオを示す。

これを地域別にみると、2012年より増加するのは関東(10.1%増)、近畿(9.8%増)、北海道(4.5%増)。いずれも外国人比率が2割を超える予想だ。さらに都道府県別でみると、1位は東京で2012年よりも24.3%増加。外国人比率は39.6%となり、2030年の東京都の宿泊数は増加する上に2.5人に1人が外国人になる見込み。次いで、京都府が18.9%増、大阪府が16.8%増と続き、ゴールデンルートや北海道、九州北部など、現在訪日客に人気の旅行地では将来的な総宿泊量は増加するとの見通しだ。

逆に、現在の外国人比率が高くない地方圏について塩谷氏は、「外国人を増やす方策を講じなければ、総宿泊量がマイナスになることがシミュレーションに出ている」と注意喚起し、訪日客を取り込む早期の対応を促した。


▼緊縮財政の時代、観光地もスマートシュリンク

このほか塩谷氏は、今後の観光地経営を取り巻く環境変化として、観光資源・観光インフラ保全財源の欠乏と公共交通機関の経営悪化、交通インフラ・技術、ICTの進化等を提示。「観光地もスマート化する必要がある」と述べた。都道府県の観光費が減少し、自主財源の確保が課題となっている現在においては、都市計画や交通計画と連動した観光計画も不可欠だという。

例えば都市計画ではスマートシュリンクや減築といった低コスト、効率化が国内外で広がっており、観光分野でも休業施設等の再利用や空き地化など経営効率化が求められるようになると説明。また、交通では効率運行のためのルートの絞り込みが進む一方で、高齢者や訪日客、地元客が共用できる公共交通に変わる必要性も指摘する。

さらに、現在技術開発が行なわれている無人循環バスや無人送迎バスといったロボットカー、歩行ロボ、歩行アシスト等も、「観光地側に投資が必要になるが、高齢者も比較的に自由に観光ができるようになり役に立つ」と述べ、新技術開発を視野に入れた観光計画も考慮すべきとの考えを示した。