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世界最大手エクスペディアが明かすマーケティング手法、3つの課題へのアプローチとは?

世界取扱高4兆円強、月間ユニークユーザーは31か国・約6500万人を誇る、世界最大手のオンライン旅行会社エクスペディア。「モバイル&ソーシャルWEEK」で語られた同社のマーケティング手法は、効果を最大化していくための絶え間ない緻密さが光る。“価格・簡易予約・豊富な選択肢”の“賢い旅、エクスペディア”を浸透させた今、次は「旅行会社というよりも、テクノロジー企業としての優位性をコミュニケートしていく」という。



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ストを繰り返し、「勝ち組」を探す

テクノロジー企業の哲学をマーケティングに

下記は、エクスペディア・ジャパンが当日予約を訴求した「国内ホテル予約」でテストマーケティングするクリエイティブ。キャッチコピーは「スマートな今夜のHOTEL予約」で、「H」はハートマークで囲まれている。そして画像は2つテストされた。ひとつはバーのカウンターで髪の長い女性が体を寄せる相手が人間の男性のパターン(左)。もうひとつはエクスペディアのクマのキャラクター「エクスベア」(右)の2つのバージョン。どちらの方がパフォーマンスが良いのかーー?

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答えは左の男性の方。「エクスベア」のアイキャッチもあるが、人間の男女の方がリアル感があり、より注目をひくようだ。

エクスペディア・ジャパンではこのようなA/Bテストを「日々、何百件、何千件」の頻度で行なっている。マイクロソフトの旅行部門が前身のエクスペディアには、現在も全世界で1000名のエンジニアが従事しており、「コンバージョンを0.001%でも上げようとする、テクノロジーカンパニーとしての哲学がある。それをマーケティングや広告にも行なう。写真やキャッチでパフォーマンスが変わる」と、マーケティングディレクター北アジアの木村奈津子氏はいう。

クリックのボタンやプライスタグなどの色やフォントを一つ一つ変え、何回もテストを繰り返すと、幾多の組み合わせの中から“勝ち組”が見えて、最適化されていく。「思い込みではなく、思いついたものをテストしてデータを検証することがマーケティングにも重要」と強調する。



▼キャンペーンは「クリエイティブと内容がすべて」

意識調査の結果を分かりやすいインフォグラフィックで公開し、需要を喚起

「国内ホテル予約」を「スマートな今夜のHotel予約」として訴求するのは、取扱の中心がシティホテルであるため。訪日客を想定した主要都市のホテルを日本市場でアピールする方法として、カップルをターゲットとし、男性に向けて「ディナー後のバーで『今日はどうする?』となった時に、モバイルアプリでサッと近くのシティホテルをスマートに予約すると、女性がついてくるかもしれません」と、ユーモアを交えてアプローチする。

同時に、市場調査を行ない、約7割の女性が、ラブホテルでなくシティホテルに連れていってくれると男性のポイントが上がるというインフォグラフィックスもプレスリリースし、新規需要の喚起とメディアやSNSなどでの波及もはかっている。


▼Eコマース企業のマーケティング課題にも対峙

3つの課題に対して売上に繋がるブランディングと広告開発スキームを

緻密なテストマーケティングができる背景には、世界最大手の潤沢な予算がある。そう思うかもしれないが、木村氏によると、売上を時間ごとに見るほどシビアに結果を求めるようになったEコマース企業では、マーケティングだけで広告予算を確保するのは難しい。常に以下の3つの課題に対し、売り上げに繋がるブランディングと広告開発のスキームを考えているという。

  1. ブランディング(長期的視点)と売上げ(短期的視点)のバランス

  2. 低予算でのシェア拡大・新規顧客開拓

  3. 差別化要素の確立とシェア拡大・新規顧客開拓

(1)の課題には、セールなど直売キャンペーンの広告展開にエクスペディア・ジャパンのキャラクター「エクスベア」も交え、クマの愛嬌で情緒的なエンゲージメントを訴求。直売とブランディングの双方の展開を図っている。同時に、「すぐに旅行の予定はなくても、3か月・6か月後の実売に繋げられる策を打つ」。モバイルやPCにキャンペーンページを開設し、キャンペーンを見てキーワード検索した人に向けて、インセンティブを付けてメール登録やアプリダウンロードを促進する。

(2)の低予算に対しては、少ない広告量で効果を倍にする方法の一つとして、一般メディアやSNSなど、費用がほぼ無料のチャネルでバイラルな広がりを狙う。例えば国内ホテルのスタートでは、1円セールキャンペーンを実施。最低価格保証とあわせてニュース性があると見込み、記者会見とプレスリリースの発信でメディア露出を図ったところ、SNSでも記事が拡散した。あわせてバナーやSEM、新聞広告等も強化しており、当時のの検索流入は倍以上に跳ね上がった。「通常の広告投下だけでは見られない現象だった」という

(3)の差別化では、サイトの機能性向上に取り組むテクノロジー会社であることを、ユーザーのベネフィットとして打ち出す。2013年にリリースしたモバイルアプリでは、日本では「海外航空券とホテルを一括して予約できる唯一のアプリ」として、機能面を前面に広告を展開。Youtubeで流す30秒のクリップは2つのパターンで、「エクスベア」が「超簡単」、「超便利」なアプリをアピールしている。

なお、グーグルのデータによると、日本での旅行関連キーワードの検索はスマートフォンがPCを上わり、「PCの2倍になるのは時間の問題」。「旅行サイトとしてスマートフォンに移行し、マーケティング戦略に取り組んでいくことが課題」とし、今後もモバイル展開を重視していく方針だ。

【モバイルアプリの動画・旅行アプリダンス簡単予約編 】(動画)

【モバイルアプリの動画・旅行アプリダンスこれで安心編 】(動画)



▼エクスペディアの課題と「エクスベア」誕生理由

マーケティングディレクター北アジアの木村奈津子氏

エクスペディア・ジャパンでは当初から、マーケティング活動が順調だったわけではない。実は2010年、日本進出3年目でも日本において10%というブランド認知度の低さを課題としていた。海外旅行経験者に限ると30%に広がるが、エクスペディアに対するイメージや愛着する感情は少なかったという。

まずはブランディングの要否から検討し、エクスペディア・ジャパンでは「必要」と判断。日本人にとって海外旅行は、年に1、2回の希少かつ高価な買い物であるため、旅行サイトの選択には(1)信頼性、(2)安価、(3)豊富な選択肢、(4)、誰もが知っている(から信頼できる)、(5)予約が簡単、の5点が指標となり、このうち「(1)と(4)の“信頼”はブランディングで認知を高めなくてはならないポイント」と捉えるからだ。

そこで、情緒的なエンゲージメントの向上を目的に「エクスベア」を導入し、ブランド改革に着手した。自由な海外旅行を好み、いいホテルを安く購入したいFITをターゲットに、「かしこい旅、エクスペディア」としてブランドバリューを明確化。エクスベアの「普段はめんどくさがり屋だが賢さも併せ持ち、自由を愛する」というキャラクター設定で、3つの機能的バリュー「価格・簡易予約・豊富な選択肢」を打ち出した。その効果は、現在、読者が肌で感じているものである。


参考情報:エクスペディアとは

エクスペディアのマーケティング手法を学ぶにあわせ、その基本となる企業情報・ビジネスモデルを改めて押さえておきたい。

エクスペディアは1996年にマイクロソフトの旅行部門として発足し、1999年に独立。日本では2006年11月に海外ホテル予約でサービスを開始した。木村氏はエクスペディアの特徴を、世界29万軒のホテル、400の航空会社、340万のツアーを扱う「デマンドとサプライをリアルタイムで結ぶプラットフォーム」と説明する。

現在はグローバルでモバイルに力を入れており、2011年にはフライトアプリ「フライトトラッカー」で有名なアプリ制作会社Mobiataを買収。2013年にはエクスペディアのモバイルアプリの提供も開始した。

(トラベルボイス編集部)