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星野代表が語るビジネスホテルの商機と勝算、星野リゾートが新展開する「都市観光ホテル」を第4のブランドに

星野リゾート代表の星野佳路氏は2017年4月4日の定例プレス発表会で、新たに参入する都市観光ホテルの全体方針を語った。

現段階で星野氏は、「ビジネス客は考えていない。都市に宿泊する観光客用のサービスを作る」と語り、あくまでもターゲットは観光客中心とする考え。「観光客がワクワクする都市ホテルとするのが、星野リゾートらしいアプローチで参入するポイント。多様なホテルが存在するマーケットに新たな軸で入り、差別化していく」と勝算を示し、「星のや」「リゾナーレ」「界」に続く第4のブランドを作っていく意向だ。

星野リゾート代表の星野佳路氏

星野氏は都市観光マーケットについて、「ビジネスホテルに宿泊する観光客が相当数いる」と改めて潜在性を強調。観光庁の宿泊旅行統計によると、日本人の延べ宿泊者のうち、ビジネスホテルとシティホテルの宿泊者数は全体の約6割に及ぶ。星野リゾートの調査では、その4~5割が観光目的の訪問客と推計しており、全宿泊者数の約3割になると説明。「我々が展開してきた旅館やリゾート市場よりも大きいマーケット」とみる。

また、通信環境の向上によって減少するといわれる出張需要に対し、都市観光は経済成長する新興国の旅行者の増加により、今後も成長が見込まれている。星野氏は「訪日客の訪問都市のトップ3も東京、大阪、京都で都市観光」と語り、「このマーケットを放置するわけにはいかない」と、参入理由と意欲を示した。

同社の調査によると、ビジネスホテルを利用する観光客は「便利さ、自由さ、予算」の3つの点で満足をしているが、「観光気分は下がる」と回答しているという。これを受け星野氏は、「既存のホテルとは明確に違った形態やサービスを取りうる」とし、観光客に特化した客室仕様やサービス等を考えていく予定。

例えば、先ごろ発表した大阪・新今宮での都市観光ホテルプロジェクトでは、3~4名の宿泊が可能な客室を多く設ける計画。そのため、「客室単価は確実に上がる。これは経営的に大切なポイント」と、観光客をターゲットとすることで収益性が上がることも強調した。ただし目標の稼働率や客室単価は、「マーケットが決めることで想定していない」という。

大阪・新今宮の都市観光ホテル 外観イメージ

都市ホテルの課題解決でチャンスに

具体的なサービスやブランド化の決定などについては、4月1日に開業した旭川グランドホテルを舞台に作り上げ、10月に発表する予定。星野リゾートでは同ホテルを、都市型観光ホテルの第1号案件としている。

その理由について星野氏は、「日本の地方にある典型的な都市ホテルであり、典型的な課題を抱えている」と説明。同ホテルでは「宿泊」「婚礼」「宴会」「レストラン」の4部門の事業部がぞれぞれ採算を目指して運営していたが、現在は各部門の専門の競合相手に攻め込まれ、どの部門も「若干負けている」状況。これが、多くの地方の都市ホテルが抱える課題でもあるという。

これに対し星野氏は、各部門が補完し合い、強めあって、宿泊者ファーストのホテルを目指した事業再編とサービスの再設計をすることで、「結果的に、観光客に喜ばれる都市ホテルのサービスになる」と考える。

都市観光ホテルの第1号案件「旭川グランドホテル」のツインルーム:星野リゾート提供

その方法として、同ホテルでは施設が目指すべき方向性を明確化するための「コンセプト委員会」を発足。ホテルのスタッフが部門の壁を越えてチームを作り、現状整理とサービスのあり方、将来像を策定する。その実現に向けて必要な投資を行なう計画だ。この過程で、「都市観光ホテル全体のステップが掴める」としている。

なお、大阪・新今宮のプロジェクトについては、4月24日に大阪で公式発表する予定。

大規模改装、オープンの施設が続々、施設の新築に意欲

発表会ではこのほか、「星のや」「リゾナーレ」「界」の各ニュースを発表。特に今回は、4月13日にオープンする「界 アンジン」や、4月22日にリニューアルオープンする「リゾナーレ八ヶ岳」、12月21日に再開業する「界 アルプス」など、新築や大改装のニュースが目立った。

「リゾナーレ八ヶ岳」は3か月の全館クローズで約15億円をかけた改装を実施。また、「界 アンジン」は「星野リゾート アンジン」をクローズして建て替えた。「界」ブランドで新規開業し、「界 アルプス」は2016年3月末からクローズし、建て替えを行なっているところ。

リゾナーレ八ヶ岳。大改装で「ワインリゾート」を進化。写真はワインスイート:星野リゾート提供

こうした新築、大改装の動きについて星野氏は、「しっかり収益が出るパターンを作れれば、今こそ新築に行くべき」と主張。その理由は2つ。1つは耐震性、もう1つは顧客の変化だ。星野氏は、「日本のホテルの多くが高度経済成長期やバブル経済期などに新規投資されたもので、建築から30年以上が経過している」と現在のホテルの問題を指摘。特に顧客の変化では、「客室の広さや設備のあり方が、今の顧客の要求に応えられないことがある」という。

星野氏は、「大改修の資金調達ができるくらいの収益率に自信を持っているし、投資家に見せられる実績もある」とし、「今後5~10年を考えれば、一旦クローズをしてでも新築を手掛けるべき」と強調。東京五輪開催に向けた建設コストの上昇がネガティブ要素と認識するが、「今後コストが下がっても悔いがない選択になる」とも語った。

界アンジンのサンブエナデッキ:星野リゾート提供

取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)