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変化する南仏マルセイユ、再開発で進むホテル開業と民泊、新しい観光都市への歩みを聞いてきた

南仏リベエラの中心都市マルセイユは新しい観光都市として生まれ変わっている。しかし、2016年7月にニースで発生したテロは、マルセイユを含めた南仏コート・ダジュール全体のイメージダウンにつながり、日本人を含めアジアからの旅行者は急減し、現地の観光産業にも影響を与えた。

それでも、「昨年暮あたりから日本人旅行者は回復基調」とマルセイユ観光局レジャープロモーション担当のシリル・サボヤ氏は明かす。いまマルセイユのレジャー市場はどうなっているのか。地域振興に欠かせない観光客をへの対応を、今後の戦略と合わせて聞いてみた。

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昨年11月以降、日本旅行者は回復基調

インタビューに応えるマルセイユ観光局のサボヤ氏

サボヤ氏は、昨年7月にニースで発生したテロの影響について、「8月にはすでに市内のホテルは満室となった。日本、中国、アメリカなど国際市場でのキャンセルが大量に発生したものの、その大部分がフランス国内やヨーロッパ各地からの旅行需要で埋められた」と説明し、「ホテル側が大量の間際予約に驚いたほどだった」と明かす。

日本市場については、テロ以前の4月~6月までは前年比増で推移していたものの、7月以降は激減した。それでも、「昨年11月以降はV字回復している」という。

これは、マルセイユ市内の観光案内所を訪れた旅行者をカウントしたもの。個人旅行客(FIT)が主体となるが、観光局では市場回復のひとつの指標になるものとして今後の回復そして成長に自信を示す。今後、より正確な旅行者統計をとるために、今春からホテルや空港のデータを合わせた数字をまとめる計画だという。

2015年のデータではマルセイユにとって日本は第9位の国際マーケット。アジアでは依然としてトップにあるため、観光局では重要なマーケットとして位置づけているという。そのため、日本市場のテコ入れにも積極的だ。

昨年12月には、東京と大阪で旅行業界向けのワークショップも開催した。サボヤ氏は「日本の旅行会社とも意見交換したが、南仏への旅行者回復に手応えを感じた」と振り返り、「マルセイユには、日本人が旅先として選ぶだけの素材はある」と強調した。

欧州文化首都選出で開発プロジェクト加速、観光都市として進化

マルセイユの都市開発でターニングポイントとなったのは、2013年に欧州文化首都に選ばれたこと。それによって再開発プロジェクトが加速。観光都市としての価値を高め、地域の活性化が加速した。

サボヤ氏によると、2014年には日本の大手旅行会社が視察に訪れ、その変化ぶりに驚いたという。「マルセイユはフランスでも新しい観光デスティネーションになっている」ことから、国際市場でのアピールを強化しているところだ。

再開発プロジェクト「ユーロ・ビジネス・メディトラニアン」は20年ほど前からスタートし、かつて倉庫街だったウォーターフロントからマルセイユ駅付近にかけて開発が進み、現在も進行中。その一貫として、5つ星「インターコンチネンタルホテル・デュー」が2013年にオープン。さらに、数年後には海岸沿いにビラ・タイプの高級ホテルなどの開業を控える。

加えて、日本の「東横イン(263室)」も今夏にオープンする予定。ヨーロッパではフランクフルトに続いて2番目、フランスでは初進出となる。

「マルセイユは、クルーズが寄港するなど地中海観光では重要な町。日本市場をターゲットにしているのではなく、世界中のバジェットトラベラー(予算重視の旅行者)を呼び込むための訴求力になる」とサボヤ氏は説明する。

旧港周辺も開発が進む。丘の上に建つのがマルセイユのランドマーク「バジリカ寺院」フランス第二の都市ながらも、海岸線は美しい紺碧の地中海日本人の利用も多い5つ星「インターコンチネンタルホテル・デュー」

旅行ニーズが多様化するなか、民泊は重要な存在

マルセイユ観光局はいわゆる民泊も重視している。「旅行者のニーズは多様化しており、それに合わせて観光におけるシェアリングエコノミーがマルセイユだけでなく全仏で広がっている」とサボヤ氏。観光客誘致の手段のひとつとして民泊は無視できない存在になっているという。

また、マルセイユ当局は昨年、民泊プラットフォームを利用するホストにもホテル同様に宿泊税を課すこと決めた。この一部が観光局のプロモーション予算の財源になることも、民泊推進の背景にはあるようだ。

現在マルセイユのホテル部屋数は約8000室。一方、Airbnbをはじめとする民泊の部屋数も約8000室だという。サボヤ氏は、「旅行者はこれまで以上に現地でのローカル体験を求めている」と話す。さらに、Airbnbが新たに提供を始めた現地体験プログラム「トリップス」についても、マルセイユではまだ展開されていないものの、「旅行者誘致にとっておもしろい素材」との認識だ。

マルセイユらしい現地体験プロダクトも豊富

サボヤ氏は、その現地体験プロダクトについても言及。「マルセイユらしい体験も豊富」とアピールする。そのひとつが、2016年に世界文化遺産に登録された「ル・コルビュジエの建築作品」。マルセイユにはそのひとつ「ユニタ・ダピタシォン(集合住宅)」がある。その内部を巡るガイドツアー(英仏語のみ)が午前と午後に提供されており、「新しいプロダクトとして日本人にも訴求力は高いのではないか」と期待を寄せる。

このほか、マルセイユ石鹸の工房見学と石鹸作り体験、オリーブオイルの試飲体験、電動自転車やセグウェイでの市内観光ツアーなど観光都市としての魅力を深掘りできるプロダクトは多い。昨年11月には、観光アプリ「シティパス・マルセイユ」もリリース。日本語バージョンもあるため、「FITだけでなく、グループでも役立つツール」と活用を勧める。

スタイリッシュなユニタ・ダピタシォンの内部マルセイユ石鹸作り体験。ルイ14世が1688年にオリーブ油以外の油脂の使用を禁止したというから、その歴史は古い自転車ツアーに参加すれば、違った角度からマルセイユを楽しめる

日本からの直行チャーターにも期待

選ばれる観光デスティネーションとして進化を続けるマルセイユだが、日本市場では課題もある。そのひとつがアクセス。現在日本とマルセイユを結ぶ直行便はないが、サボヤ氏は「チャーター便誘致に力を入れていきたい」と観光局としての戦略を明かす。

韓国も同じように直行便はないが、2013年に大韓航空がニースに、マルセイユには2014年に3便、2015年に4便、2016年に8便、それぞれチャーター便を飛ばしたという。「マルセイユはプロバンスの中心にあるため、南仏だけでなくスペインやイタリアへの周遊でも優位な位置にあることが決め手となった」とし、「日本でもチャーター便による商品造成は可能性があるのではないか」と今後に期待をかけた。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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