回復の兆しが見えてきた日本人のフランス旅行、南仏マルセイユの観光地を実際に訪れて見てきた【写真】

2015年11月のパリ同時多発テロに続き、2016年7月にもニースでテロが発生したことで、日本人は「フランスは危ない」という印象を強く持ってしまった。欧州全体への旅行者減にもつながり、地域を活性化させる大きな役割を果たす観光業界は打撃を受けたが、ようやく今年に入って回復の兆しも見え始めている。

それでも、依然として「フランスに行ってくる」と言うと、「気をつけて」という返事をもらうことも多い。実際のところ現地はどうなのか。ニースのテロでダメージを受けたと言われる南仏を訪れてみた。

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観光都市として進化するマルセイユ、契機は欧州文化首都

年間300日は晴れると言われる南仏リビエラ。2月のマルセイユの太陽も元気だった。快晴のもと旧港を歩いていると、「一体何に気をつけろというのか」と苦笑してしまう。

「フランスでは、日常生活を普通に送ることで、テロには屈しないという姿勢を示すんです」と話すのは現地ガイド。警戒して自粛するのではなく、いつも通りに旧港の市場で買い物をし、カフェでくつろぐ。考えみれば、東京でも局所的に凄惨な事件は起こるが、日常生活は続き、旅行者もその一部を共有する。

「フランスは特別『気をつけて』と言われる旅先ではない」。マルセイユのランドマークであるノートルダム・ド・ラ・ガルド・バジリカ寺院から煉瓦色の屋根が連なるマルセイユの街を見下ろしながら、そう思った。

マルセイユ旧港。丘の上に建つのがバジリカ寺院

マルセイユといえば――、フランス第二の都市、ブイヤベース、マルセイユ石鹸、フランス国家「ラ・マルセイエーズ」(もともとはアルザス地方の唄のようだ)、そして今でいうとオリンピック・マルセイユで活躍する酒井宏樹選手くらいしか思い浮かばず、観光都市としてのイメージはなかった。

ところが、洗練されたウォーターフロントを歩いて、旅行者を惹き付ける素材も多いと気づいた。地中海沿いには「プロバンス美術館」「ヨーロッパ地中海文明博物館(MuCEM)」「セント・ジーン要塞」が続き、大通りに入れば、「レ・テラス・デュ・ポー」や「レ・ドック・ヴィラージュ」といった最先端ショッピングモールも近い。

マルセイユが観光都市に変貌するターニングポイントとなったのは、2013年に欧州文化首都に選ばれたことだ。フランス国内では、パリ、アヴィニョン、リールに次いで4番目。これをきっかけに投資が各方面から集まり、ウォーターフロント開発、インターコンチネンタルホテル・デューをはじめとするホテル開発が進んだ。

現在も都市開発プロジェクトが進行中。マルセイユ観光局のシリルさんは「これで、自信をもって世界に向けて観光プロモーションができるようになった」と話す。

旧港の魚市場はマルセイユを象徴する光景趣のあるバロン・デ・ゾフの港。ここにはブイヤベースが有名なレストラン「シェ・フォンフォン」があるモダンなウォーターフロント。奥に見えるのが「ヨーロッパ地中海文明博物館」

世界遺産ル・コルビュジエの集合住宅、Airbnbにもリスティング

さらに、マルセイユに観光客を呼び込む要因となったのが、2016年7月に近代建築の巨匠ル・コルビュジエの建築群が世界文化遺産に登録されたことだ。日本でも国立西洋美術館本館が含まれることから大きな話題になったが、マルセイユにはユニテ・ダビタシオン(集合住宅)「ラ・シテ・ラディユーズ」がある。

外から眺めると、画一的に並んだ部屋の側面に塗られた青、黄色、赤、茶色などの色彩が、ピエト・モンドリアンの「コンポジション」を彷彿させる。その機能美を凝縮したような単純なパターンは、建築物というよりもコンテンポラリーアートそのものだ。

世界遺産ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオン。もそもそ第二次世界大戦の後、難民のために造られた

各部屋の天井は身長183cm(手を伸ばした状態で226cm)を目安に設計されたという。内部は、一般住宅のほか、店舗、郵便局、保育園、体育館、ホテル(21室)があり、2013年にはアーティストギャラリーMAMOもオープン。建物自体を村という生活空間として位置づけているため、フロアーを階という呼び方ではなく「通り」と呼んでいる。

現在、午前と午後に英仏語の見学ツアーがあり、店舗通りや屋上施設のほかアパルトマン1戸を内覧することが可能。ちなみに、1戸(110㎡)の価格は34〜37万ユーロ(約4,000万円〜4,400万円)。民泊Airbnbのリスティングにのっている部屋もある。

住居はデザインと機能が見事にマッチ。そのモダンさは今でも色褪せていない

変わらない旧市街、路地の魅力は今でも

マルセイユはコンパクトな町だ。開発が進むウォーターフロントと旧市街バニエ地区も隣同士。進化するマルセイユから変わらないマルセイユへと時空を超える散策は、この港町の観光の醍醐味のひとつだ。バニエ地区は、フランス最古の町マルセイユのなかでも、さらに古い界隈。もともと漁師たちの居住区で、入り組んだ狭い路地では洗濯物がなびく風景が今でも見られる。

古い家屋を再利用したカフェや雑貨ショップが点在する一方、壁には独特な画風のグラフィティも描かれ、路地を迷いながらブラブラしていると、唐突に1670年に建てられたバロック様式の旧施療院(現在は考古学/先住民博物館)に突き当たる。路地の魔力はマルセイユでも同じ。その雑多な空間に身をおくと、旅のワクワク感がますます刺激される。

ノスタルジックな空気が漂う旧市街バニエ地区バニエ地区には思わず足を止めてしまうショップも点在

クストーの愛したカランク、今も変わらない地中海の自然

マルセイユ市街から東へ車で20分ほど、複雑に入り組んだ入江が続くカランク国立公園に足を伸ばしてみた。ここは、海洋ドキュメタンリー映画の金字塔『沈黙の世界』で有名になった海洋学者ジャック=イヴ・クストーが最初にダイビングを行い、古代遺跡を発見した場所として知られている。

今回訪れたのは、入江のひとつ「ソルミュー」。白い岩肌の山をひとつ越えると、エメラルドグリーンの海が広がる絶景が目の前に広がった。クストーは、数々の偉業を残して1997年にこの世を去ったが、入江のさらに奥に佇む小さな漁港を歩いていると、赤いニット帽をかぶったクストーがふらりと現れても何の違和感もない。そう思わせるほど、カランクの時間はゆっくりと流れていた。

時間がゆっくり流れるソルミューの小さな漁港

カランクは、マルセイユから気軽に訪れることができることから、地元の人たちにとっては憩いの場所になっているようだ。旅行者にとっては南仏のローカルな雰囲気を体験できる場所。地中海の恵みはブイヤベースだけでなく、風光明媚な景勝も創り出している。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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