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旅行計画時の「比較疲れ」は回避できるか? グーグルの旅行事業担当者がデジタルマーケティングのポイントを解説【外電】

私の場合、休暇について一番ストレスを感じるのは、外出先を選ぶことだ。温暖な気候のところに行きたいが、日焼けは子供たちの肌によくない。妻と私は異文化も体験したいが、子供たちは楽しめるだろうか。美味しいものが食べられる店を探したい(これは主に私の希望)。妻は、特に美味しいアイスクリームがあるかどうかが重要だという。

考えれば考えるほど、家族みんなが満足する場所を探すのは至難の業だ。おそらく他の人も、旅行をプランするときは同じような想いをしているはずだ。では、旅行業界や観光地側の状況は、どうなっているのだろう?

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。執筆者は、グーグルUK 旅行担当責任者 フィンバー・コーンウォール氏(Finnbar Cornwall)。

ネット検索にかける時間が長期化、旅行者の6割が「もっとパーソナライズできないか」

私が勤めるグーグルでは、バックパッカー向けに世界中の宿泊施設を紹介している「ホステルワールド」と共に、最近の旅行にありがちな問題点を調査している。

消費者は指を少し動かすだけで、膨大な数のデスティネーションや多種多様なサービスなど、幅広い選択肢にアクセスできる。それだけに、企業側が狙いを定めている顧客層に、ぴたりと的を当てることが難しい時代だ。

旅行業界におけるデジタル革命は大成功し、誰もが選択の機会を手にするようになったが、意思決定はむしろ以前よりも難しくなってしまった。こうした「比較疲れ」とも呼べる状況は、旅行各社のデジタルマーケティングに、どのような影響を与えているのか?

さらにグーグルはマッキンゼーと共同で調査を行い、デジタル革命が旅行に及ぼしている影響について、より詳しく探り出そうと試みた。30万以上にのぼる旅行関連のキーワードを使い、様々なデバイス経由で検索して集めたデータを匿名化して集計・分析。そこにはパラドックスが浮かび上がった。旅行を計画している人が、宿泊施設を決めるまでに費やす平均時間はなんと36日間。その間のタッチポイントは、複数のデバイスやウェブサイトなど、平均45か所におよんだ。

別のリサーチ結果では、旅行者の55%が「購入を決めるまでに、あまりに多くの旅行情報ソースをチェックしなければならない」と感じていることが分かった。

Netflix(ネットフリックス)やSpotify(スポティファイ)といった一部の企業では、こうした問題を解決するべく、コンテンツのキュレーションに着手して利用者側の負荷を減らそうと動き出している。同じことは、旅行業にも当てはまる。旅行者の60%は、旅行各社から送られてくる情報について、「過去の利用履歴などを参照して、もっとパーソナライズできないものか」と感じている。

そこでイノベーションの次の一手を考えるなら、例えば「パック・ボット(PackBot)」なんてどうだろう。旅行の前に、私の代わりにスーツケースをパッキングしてくれるロボット。前回の旅行の時、私が使ったもの(あるいは使わなかったもの)のデータをもとに、私のかわりに荷造りしてくれる人工知能だ。

だが利用客は、一つの旅行会社で必要なものをすべて揃えてくれるとは限らない。そうなると、状況はやや複雑だ。昨今の消費者は、膨大なオプションがあるがゆえに、検索を繰り返し、あちこち調べまくる。2018年実績では、宿泊施設を検討する際、31%が検索エンジンを起点に行動を開始していた。この数字は、2017年実績(23%)より増えている。

旅行先を決めていない消費者がもたらす”チャンス”も

ライバルの旅行各社に先駆けてこうした問題を解決するためには、検索する利用者に対して最適な解を最適なタイミングで届けられる対応能力が必要だ。その際、マシンラーニングを活用することで、膨大な作業を省力化し、自社のターゲット客層にしっかりと語りかけることができる。

ホステルワールドの取り組みは、格好の事例と言える。同社では、グーグルのダイナミック・サーチ・アド(動的検索広告、DSA)を効果的に活用することで、顧客獲得コストを下げると同時に、取扱いデスティネーションや施設数の拡大にも成功している。

同社の広告は、グーグルのマシンラーニングが導き出すアルゴリズムに応じて、見出しの内容が変化する。アクセスしてきたユーザーそれぞれの問い合わせ内容に対応して、最適なランディングページが表示される仕組みだ。検索ページからやって来るユーザーに、できる限りの対応をしたい。

ホステルワールドでは、大きな難題に直面していた。旅行プランを考え始めたばかりの段階では、旅行者の82%が宿泊先について特に何も決めていなかったのだ(注:グーグルとIpsosメディアCTによる2015年調査)。しかし、逆にこれは大きなチャンスとも言える。ホステルワールドでは、検索をビジネスにつながるカギは、アクセスしてくる相手が誰なのか、何に関心があるのか、どんなコンテンツなら共感を呼べるのか、意思決定を促すにはどんな情報が必要なのか、を把握することだと考えた。そこで同社では、ダイナミック・サーチ・アドを使い始めた。

スタート以来、成約率は6倍に拡大し、クリック当たりコストは、一般的なキーワードを用いるジェネリックキーワード広告より30%ほど下がった。同社では今後も、デジタルマーケティングの最新事情に注目しつつビジネス拡大に取り組む考えだ。顧客が抱えるニーズを常に捉え、継続的に改善していくためだ。

顧客側が求めていることは幅広い。どんな選択肢を用意したらよいのか理解し、可能な限り手助けをすることから、オンラインサービスを使い勝手のよいものに最適化することまで。「ホテルや航空券の割引情報などをきっかけに、急に旅行を考えたことがある」という人が6割を占めたという結果もある(グーグルとフォーカスライトによる2017年調査)。モバイル端末での旅行に関する検索では、「今夜」「今日」などのキーワード使用が150%増を超える勢いで増えている(グーグル2017年調査)。こうした需要をつかむには、迅速な回答はもちろん、オムニチャネル対応も重要だ。

旅行会社に求められる「キュレーター兼アシスタント」機能

しかし、消費者がモバイルでの予約を望んでいるのに対し、旅行各社側の対応はいまひとつだ。当社とマッキンゼーの調査結果によれば、複数のデバイスを使うと、単一のデバイスを使った場合よりも、ネットサーチにかかる時間は5日間ほど長くなり、セッション数は55%増、デジタル・タッチポイントは45%増だった。

旅行各社のマーケティング担当者は、もっとオムニチャネル利用者への対応を真剣に考える必要がありそうだ。迅速で、直感的に分かりやすく、シームレスな対応が、デスクトップ、モバイル、アプリのすべてで展開できる体制は、最低限の条件だ。

さらにホステルワールドでは、スタンダード広告に少し手を加えて、相手の特定の関心事項に沿った内容にカスタマイズできるようになった。これは重要なポイントだ。なぜなら旅行というのは複雑で、心配事の多い買い物だからだ。靴を買うのとは違い、何か問題が見つかったからといって「このバハマ旅行、やっぱり返品します」とはいかない。旅行各社の関心はコンバージョン率アップに集中しがちだが、顧客が興味ありそうなアイデアや、相手をインスパイアする情報の提供など、創意工夫あるマーケティングが最も重要だ。

ホステルワールドと同じ問題を抱えている旅行各社に、私がアドバイスするなら、消費者の前に広がっている膨大な量の選択肢について想像してほしい、ということ。一体どれほどの情報の中を探さなければならないのか。悩める消費者には、キュレーター兼アシスタントが必要だ。要は、できる限り面倒な旅行の準備から解放してくれるようなサービスが求められている。

高性能なデータ解析に基づくレコメンド機能があれば、有能なアシスタントになることも可能だ。そんな旅行ブランドがあれば、真っ先にそこから予約してもらえそうだ。

マーケターが考えるべきことは、(1)利用者からの問い合わせにどう反応するのが一番良いのか、(2)ベストアンサーとぴったりなランディングページを用意するために、マシンラーニングをどう活用するべきか、(3)オムニチャネル利用者に、きちんと対応できているか、という点だろう。

現代の聡明なる消費者にアピールし、もっとシンプルに、気軽に旅行サービスを購入できるようにするために、いずれも必要不可欠なことだ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

原文:How Google helped unpack the stress from modern travel


著者:グーグルUK 旅行担当責任者 フィンバー・コーンウォール氏(Finnbar Cornwall)