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新型ウイルスが観光に与える影響、世界各地の状況を整理した、回復時間の予測に温度差【外電】

写真:AP通信

AP通信が、新型コロナウイルスが世界の観光に与える影響についてリポートしている。米中貿易摩擦の緩和、それにともなう世界経済の成長、東京オリンピック・パラリンピックなどから、今年は世界の観光にとっていい年になるはずだった。しかし、中国での新型コロナウイルスの発生は、世界の旅行産業を混乱に陥れている。

本来旅行に出かけるはずだった何百万という人たちが家に留まらざるを得なくなっており、その損失は数十億ドルに及ぶ恐れがある。中国政府の発表による感染者数や死亡者数は日々増加するばかりだ。

航空データを提供するOAGによると、航空会社30社が中国路線の運航を取りやめ、すでに2月第1週だけで2万5000便ほどが運休した。ホテルのデータ分析会社STRによると、中国のホテル稼働率は1月最後の2週間で75%に急落した。日本と香港では、2隻のクルーズ船が足止めされ、計7000人以上が船内から出られない状態だ。

新型コロナウイルス発生以前、世界観光機関(UNWTO)は、中東と南米での経済の好転が、ブレグジットと米中貿易摩擦による不透明感を上回るとして今年の世界観光の成長率を3〜4%と予測。世界の旅行者数は前年の15億人を上回る見込みを示していた。

しかし、その成長予測も中国の旅行市場の継続的な成長が前提だ。中国では世帯所得の増加によって海外旅行ブームが到来。IHS Markitによると、2018年の海外旅行者数は約1億5000万人で、海外での消費額は2002年の154億米ドルから2770億米ドルに拡大したと見られている。

トラベルコンサルティング会社のForwardKeysは、中国人旅行者の減少はアジア諸国で深刻になっているという。通常、春節期間には中国人海外旅行者のうち75%がアジア諸国を訪れているからだ。

ディズニーは、香港と上海のディズニーランドの閉鎖が2ヶ月続けば、1億7500万米ドルの損失になると発表している。

また、タイのピパット・ラチャキットプラカーン観光・スポーツ省大臣はAP通信に対して、今年6月にかけて中国人旅行者から得られる収入は97億米ドル減少する可能性があると話した。

中国だけでなくアジアへの旅行を取り止める動きも出てきている。米モンタナ州のブライアン・ゲイヤーさんは、アラスカ航空で安い航空券を見つけ、2月中旬にスキーを楽しむために日本へ旅行する予定だった。しかし、そのフライトスケジュールでは北京での乗り継ぎ時間が14時間もあるため、やむなく旅行を中止した。中国にある程度滞在した場合、日本に入国、あるいはアメリカに再入国できるかどうか疑わしいからだ。

ピアニストのフリオ・エリザルデさんとバイオリニストのレイ・チェンさんは今年5月に中国国内6都市でコンサートを開催する予定だが、今は状況を注意深く見守っているという。エリザルデさんは、今後数ヶ月のうちに事態が好転すれば、開催の約束は果たしたいと話しているが。

一方、このまま航空会社は運休を続ければ、損害はさらに大きくなる。データ・コンサルティング会社のTourism Economicsは、今年、中国線の運休によるアメリカの航空会社の損失額は16億米ドルにのぼると試算している。

クルーズ会社もピンチだ。カーニバルとロイヤルカリビアンがすでにキャンセルした中国航路クルーズツアーは約20に及ぶ。多くのクルーズ会社が、出港の14日前に中国あるいは香港に滞在していた旅行者は乗船させないとしており、その影響は数千人にのぼると見込まれている。

マイアミのロイヤルカリビアンは、現在までのキャンセルによって2020年の売上の1%を失うことになると試算。中国での旅行規制が2月下旬まで続けば、その損失額は倍になる見込みだ。

新型コロナウイルス発生源から遠く離れた地域でも影響が出ている。オーストラリアは中国からの旅行者の受け入れを禁止。IHS Markitによると、昨年のオーストラリアへの中国人旅行者は140万人、その消費額は134億米ドルで、最大のインバウンド市場になっている。今回の入国禁止措置は、すでに山火事被害で大きな損失を出しているオーストラリアにとって、さらに大きな痛手だ。

イタリアでは今年50億米ドルを損失すると見込まれ、Tourism Economicsによると、アメリカへの中国人旅行者は28%減の200万人に落ち込み、航空券も含めた旅行関連の消費は前年よりも60億米ドル減少すると見ている。

まだ直接的な影響を受けていない地域へ出張する人の間でも心配は広がっている。White and Case法律事務所のある幹部は、今年南アフリカとブラジルに行く予定だが、最終決定はまだ保留している。彼は、そうした国々にはウイルス対策のシステムが確立されていないことを心配している。

一方、ニュージャージー州のリバティ・トラベルによると、アジア以外のデスティネーションでまだ目立ったキャンセルは出ていないという。アジア行きを予定していた旅行者は、キャンセルするのではなく、他のデスティネーションに行き先を変更しているようだ。

過去の感染症の場合と同様に、世界の観光はやがて回復していくだろう。しかし、その回復時間については分析が別れている。Tourism Economicsは、2003年のSARSを例にとり、アメリカへの中国人旅行者が以前のレベルに戻るには4年かかると見ている。また、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は、世界の旅行者数が元に戻るのはウイルス発生後19ヶ月かかるとの見立てだ。

ForwardKeysは、774人が死亡したSARSの場合とは異なる点もいくつかあると指摘する。SARS発生の発生は実際のところ中国、ベトナム、香港、シンガポールに限られていたが、メディアは東南アジア全体にウイルスが蔓延していると伝えた。その悪影響は、発生源から遠く離れたインドにも及んだ。

今回の場合、新型コロナウイルスの中心が中国武漢であり、そのため回復も早いだろうと理解している旅行者も多いようだ。SARSは、2001年の9.11同時多発テロの余波が残るときに発生した点も大きな違いだ。さらに、中国政府は今回、SARSのときよりもその対策をオープンにしている。