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ホテルに求められる「非接触」テクノロジーとは? コロナ時代に続々登場する新サービスを整理してみた【外電】

ここ数年、トラベル分野を賑わせたバズワードの一つといえば、「シームレス」。未来の旅行サービスの理想形として、国内外で語られてきたが、コロナ危機で旅行ビジネスも、消費者が求めることも一変してしまった。

引き続き、シームレスな顧客体験は大切だが、にわかに重要度が急上昇しているのが「コンタクトレス」や「タッチレス」だ。いずれも「非接触型」の意味で、手や体が触れることの見えないリスクに人々が敏感になり、物理的な接触なしで済むサービスが、消費者からも企業からも、かつてないほど求められている。

コンタクトレスを実現する技術ソリューションは、すでに何年も前から開発されており、世界各地のホテルでデジタルでのチェックインやルームキーが実用化されて久しい。最近では、客室内での音声デバイス利用もある。だがコロナ危機をきっかけに、世界ではこうした変化が一気に加速しており、旅行分野に特化したコンタクトレス・テクノロジーを専門とするサプライヤー各社は忙しい状況となっている。

タッチレス・テクノロジーとは

「とにかく、ものすごい勢いで様々なことが激変中で、ホスピタリティ産業はパニックの連続。迅速な決断を下し、素早いオペレーションを実現できるパートナーと手を組む必要がある」と話すのは、シンガポールを拠点とするスタートアップ、Vouch社のジョセフ・リンCEOだ。同社はボットのデジタル・コンシェルジュをホテル向けに製造している。

リン氏は目下、「人材確保を急いでいる」ところ。現在のチームは、シンガポールとインドネシア合計で16人だが、パンデミック以降、需要に追いつけなくなっている。

「コロナ以前、ホテルやホテルグループ向けの営業サイクルは、半年から一年かかった。ところが今や2週間もあれば、CEOに会い、プレゼンを行い、承認を得るところまで進むようになった」(リン氏)。

Vouch社が手掛けるデジタル・コンシェルジュ・システムは、ホテルがゲストから受けるあらゆる質問や問い合わせに対応できる。例えばタオルの追加、ルームサービスの注文、スパの予約など。宿泊客は、客室内の電話の受話器を取り上げたり、ロビーで列に並ぶ必要がなくなる。自分の携帯端末からボットにアクセスし、QRコードをスキャンするか、NFC(近距離無線通信)タグの近くに携帯を近づけるだけ。Vouch社がホテルのブランドに合う形で開発する。

ボットの機能は、必要に応じて随時アップデートも可能だ。一例を挙げると、コロナ危機下のシンガポールで、ラグジュアリーホテルの一つ、パンパシフィック・シンガポールでは全790室の滞在客を対象に、健康状態をモニターする必要に迫られていた。そこでボットに、健康状態のセルフ・レポーティング機能を追加。人数を縮小して営業しているなかで、限られた従業員に負荷をかけることなく、具合が悪くなったゲストの健康状態をトラッキングできる仕組みを整えた。

宿泊客と従業員、両方の健康状態をチェックすることが、ホテル業における大問題になるとは、数か月前まで誰も予想していなかった。だが世界各地でホテルに人が戻りつつあるなか、今や最優先事項となっている。こうした状況下で新しく開発された非接触型の体温測定キオスクが、IntraEdge社から今年5月に登場した「ヤヌス(Janus)」だ。(ヤヌスとは、神話に出てくる出入り口の守護神)

同キオスクは、ゲスト向けにホテルのロビーに設置したり、従業員向けにオフィス内に設置したりできる。体温測定に必要な時間は3~5秒。華氏0.1度までの精度で計測可能だ。その後、ユーザーに「イエス」「ノー」を表示する仕組みだが、ホテルで利用する場合、ゲストに提示する内容などは、各ホテルで決められる。体温データがキオスク内に保存されたり、ホスト企業に送信されることはない。

「ヤヌス開発では、プライバシーを何よりも尊重しつつ、個人の体温を測定すること、その際、できる限りの利便性と安全性を確保することを目指した」とIntraEdge社長のダン・クラーケ氏は説明する。

「我々が直面しているニューノーマルにおいて、今までと同じ『ノーマル』は一つもなくなるのかもしれない。だがヤヌスを通じて、再び動き出した生活やビジネス環境にポジティブな変化をもたらすことができると確信している。プライバシーに配慮しながらコンタクトレスで安全なソリューションを提供できるからだ」。同社では、複数のホスピタリティ企業との間で、この新しいキオスク活用に向けた協議を進めているところだ。

同様に、Guestline社でも、ホテル向けの新しいプロダクト開発が進行中だ。同社はこれまでプロパティマネジメントシステム(PMS)、流通チャネル管理、予約エンジン、決済ソリューションなどのツールを手掛けてきたが、今、取り組んでいるのはデジタルのゲスト登録システムだ。

「ゲストが到着前に、細かい情報の登録する仕組みで、これをホテルのPMS(施設のマネジメントシステム)内に直接、アップデートできる仕様にする。ホテルに到着したら、カギを受け取ってすぐ、客室へ直行できる」と同社のシニア・プロダクト・マネジャーのハムザ・ハフェージ氏。

さらに同社からは最近、販売現場向けプロダクト「EPoS」と、ウーバー・イーツやデリバルーなどフード宅配サービスに接続する「Deliverect」とをつなぐインターフェースも登場した。これによりEPoSを利用しているホテルは、館内レストランとルームサービスのデジタル管理に加え、ホテル外の利用客向けのビジネスも拡大できる。

ビーチにいる時も

旅行産業がコロナ危機に見舞われるずっと前に完成していたテクノロジー商品もある、その一つがビーチイ(Beachy)だ。サミット・ピープルズ・チョイス賞を受賞したほか、2019年のフォーカスライト・カンファレンスではトラベル・イノベーション賞(新興カテゴリー)で第二位だった。

ビーチイのプラットフォームは、地図のマッピング技術と予約・決済システムを一緒にしたもので、利用客はホテル内プールやビーチで使うラウンジチェア、ビーチパラソル、カバナなどを予約できる。もちろんすべて非接触で完了する。

同社のCEO、デビッド・スタンジ氏は「自由な発想から生まれた商品で、列に並ぶことも、支払いの手間や接触も不要」と話す。

「ホスピタリティ業界において、販売管理システムとPMSは最も遅れている。最新の店頭販売状況が分かるPMSもあるが、結局、紙のレシートが必要だったり、WiFiがない屋外環境では機能しなかったり。こうした問題を解決したのが当社の商品で、野外のプールやビーチ、砂の上でも問題なく機能する。セル方式の技術が、当社にとっては非常に重要」。

予約が可能になったことで、ホテル側は収容人数をコントロールしやすくなり、プールやビーチでのソーシャルディスタンスも確保できる。スタンジ氏のもとには7月、欧州各地から何百件もの問い合わせがあり、さらにそれを上回る数が米国からも寄せられているという。

ホテル各社が過去最悪のRevPar(稼働客室当たり収益)と格闘するなか、売上を増やすためにも、同プラットフォームは役に立つとスタンジ氏は考えている。

「プールデッキの一部を有効活用し、マネタイズする方法を作り出しています」(同氏)。

「例えば、当社が提供するデータを見れば、どのチェアに一番多く予約が入るかが分かる。これをもとに、こちらのチェアの利用料金は1日40ドル、こっちは20ドルと決められる。少なくとも場所について、どこが人気なのか明白になる」。同氏によると、顧客ホテルの中には、上質なタオルや限定の飲食サービスを特定のチェアとセットにして販売するようになったところもあるという。

社内オペレーション

ゲスト向けに各種サービスをコンタクトレス化するのと同時に、従業員向けにも、スタッフを感染から守る社内業務フローを実現しようと、ホテル各社はテクノロジー活用方法を模索している。

6月中旬、Nuvola社がリリースした新しい2つのツールは、いずれもステイクリーン(StayClean)戦略の一環で、2020年末までの期間は無料で利用できる。

一つ目のデジタルツール、「Nuvolaチェックリスト」は、継続的な安全対策とクリーニング業務の管理を支援するもの。例えば、この部分の清掃には、どのクリーニング用ソリューションを使えばよいのか、頻繁に利用されている部分は、どのぐらいの頻度で清掃するべきか、といったことが、スタッフに周知徹底される。もう一つの「Nuvolaチェックポイント」はQRコードを活用したソリューションで、ホテルの管理業務向け。利用が多い部分や場所の清掃状況について、いつ、誰がクリーニングを担当したのかトラッキングしたり、スケジュールを作成できる。

Nuvola社の創業者兼CEO、ファン・カルロス・アベロ氏は「我々の業界パートナーであるホテル各社は、施設を通常通りの状態に戻し、営業を続けるために、多くの新しい業務に追われている状況だ。チェックリストとチェックポイントは、従業員とゲストのために、安全でクリーンな環境を、短時間で効率的に整えるためのもの」と話す。

どのソリューションを導入するべきか考える前に、ホテルにとって悩ましいのは、ポストコロナ時代にテクノロジーをどこまで取り入れるべきかだろう。予算の問題もあるし、ホテルを利用するゲストがどう感じるかという問題もある。

「多くのホテルにとって、ポストコロナ期の課題は、生き延びること。キャッシュフローをなんとか維持し、負債をやりくりする手段を探している」とハフェージ氏は指摘する。

「最近、ホテル側からよく聞くのは、昔だったらあり得ない選択肢だが、ホテル滞在のあり方はこれから変わっていくのだという気づき。ただし、何もかもコンタクトレスにしてしまうべきだとは考えていない」。

「非接触型のサービスが、果たして本当に、これからの常識になるのだろうか?企業ブランドの理念を守り、ゲストに快適な体験を届けることも重要だ。様々な新技術の中から、どのテクノロジーを採用するのか、あるいは世界と旅行産業の復活を見守りつつ、もう少し採用を待つのか。これから多くのホテルが決断を下していくだろう」。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Touchless tech: How hotels are preparing for a post-COVID guest experience

著者:ミトラ・ソレルズ氏