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アマゾンのタビナカ事業の行方を考えた、簡単ではないリアル体験ツアーに進出できるのか【外電】

アマゾンがバーチャル体験ツアーをソフトローンチした。ジェフ・ベゾスCEOは間違いなくオフラインのツアーやアクティビティにまでビジネスを拡大し、ライバルたちのビジネスを奪いに来るだろう。

タビナカ予約の世界的プレイヤーである「ゲット・ユア・ガイド」、「ヴィアター」、「クルック」、「エクスペディア」、「ブッキング・ドットコム/ミューズメント」などは、今のうちに準備をしていたほうがいいかもしれない。

アマゾンだけでなく、ブッキング・ドットコム、エアビーアンドビー、バーボ(旧HomaAway)、ゲット・ユアー・ガイドの幹部も認めているように、オンライン旅行は実際には外から見ているよりも遥かに難しい事業だ。

バケーションレンタル、ホテル予約、ツアーやアクティビティなどに参入する難しさは、大手旅行会社も感じてきたところ。最初は魅力的に見えても、あとで苦い教訓を受けることになる。

アマゾンは2014年にホテル予約サービスを立ち上げ

アマゾンは、ホテル予約ビジネスで、ここ数年苦しい経験をしてきた。

何年にもわたって、ホテルのオンライン予約はブッキング・ドッコムやエクスペディアなどの大手OTAが、その成長を牽引してきた。だからこそ、アマゾンも2014年11月にこのサービスに進出したと言える。しかし、1年後、何の説明もなしにこのビジネスから撤退した。

当時エクスペディアのCEOだったダラ・コスロシャヒ氏は、2014年11月25日にCNBCの番組で、アマゾンの参入に歓迎の意向を示したが、当時ホテル予約を拡大するために、まず独立系ホテルとの契約を進めていたアマゾンに対して、比較的冷ややかに見ていた。

エクスペディアには20年先を行っているとの自信があり、コスロシャヒ氏も「エクスペディアは、世界中で30万軒以上のホテルを取り扱っている。どのような世界的プレイヤーであっても、この規模に追いつくには相当の時間が必要。だから、我々は今後の展開にも自信を持っている」と話していた。

欠点を認めるブッキング・ドットコム

ブッキング・ドットコムの幹部は、さまざまな発言や、その行動の中で、大規模な不動産管理会社が管理するバケーションレンタルをオンライン上で運用することは想像していたよりも難しいと認めていた。タビナカビジネスの構築についても同様だ。

スキフトが2015年にホーム・アウェイの共同設立者ブライアン・シャープルズ氏に取材したとき、彼はライバル会社に対して、「バケーションレンタルは、個人オーナーから別荘として貸してもらうが、その規模の点で、ホーム・アウェイに追いつくのは難しいだろう。このビジネスの壁は、人々が考えるよりもはるかに高い」と話した。彼は、2015年6月のゴールドマン・サックスの会議でもこの記事を引用して持論を展開した。

今年9月22日開催された「スキフト・グローバル・フォーラム」で、その記事について、ブッキング・ドットコムのグレン・フォーゲルCEOに尋ねると、「シャープルズの考えは正しかった」と認めた。フォーゲル氏は8月にも、ブッキング・ドットコムの弱みは、個人所有者のバケーションレンタルが不足していることを認め、こう続けた。「確かにバケーションレンタルのビジネスはますます難しくなっている。掲載にあっては、どのように施設を管理していくか、所有者と綿密に話し合わなければならいない。施設をサイトに掲載するコストが高くなってしまう」。

タビナカビジネスについても、同社は2018年にアクティビティ予約のFareHarborを買収したときには、エアビーと同様に非常に有望なビジネスだと見ていた。しかし、先年暮れからアトラクション部門の再構築に着手し、結局、TUIブランドのミューズメントにサイト運営を委託することにした。

同社幹部はやっと、タビナカビジネスは競合他社よりも遅れており、当初考えていたよりもはるかに難しいことだと気づいたのだ。

スタートアップを過小評価すべきではない

エアビーの株式公開の詳細についてはまだ公表されていないが、2016年に立ち上げた「Airbnb Experiences (体験)」を見ると、その中身が想像できる。ウォールストリートジャーナルによると、当初は利益が見込まれていたが、2019年は約10億ドル(約1050億円)の損失を出してしまった。タビナカビジネスは利益率が低く、最初は魅力的なビジネスだと思っていたスタートアップでも、撤退したところは多い。

タビナカビジネスは複雑だ。それは、アマゾン、エアビー、グーグルにとっても警戒すべきこと。ゲット・ユアー・ガイドの共同設立者でCEOのジョナサン・レック氏は、6月に行われたスキフト・フォーラム・ヨーロッパで、「タビナカビジネスでは、その複雑性を理解し、世界規模で事業を展開していくうえでは、多くのテクノロジーが必要になってくる」と話している。

レック氏は、タビナカでの同社とブッキング・ドットコムとの競合関係を、ストリーミングサービスでのディズニー対Netflix、音楽配信でのアップル・ミュージック対Spotifyに例えて、こう付け加えた。「若いスタートアップを過小評価し過ぎだと思う。彼らは、巨大で動きの遅い既存の会社に対して全力でぶつかっていく。まるで、ダビデとゴリアテの闘いのように。ダビデは、素早く、高い機動性をもって、ものごとを成し遂げていくのだ」。

アマゾンがバーチャル体験で何をしようとしているのかまだ見えないところも多い。現在リリースしているベータ版は、ツアーと商品販売との融合になるようだ。

もしアマゾンが本格的にリアルな体験を立ち上げるなら、アマゾンで買い物をする消費者に対して、その新たな挑戦を理解してもらう必要があるだろう。それは、トリップアドバイザーが、ホテルのレビューを見に来た旅行者に、ホテル予約をする場でもあることを理解してもらうことと同じことだ。

それでも、アマゾンの集客力を侮ってはいけない。

※ドル円換算は1ドル105円でトラベルボイス編集部が算出

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Hello, Amazon — Online Travel Is Harder Than It Looks