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コロナ後を見据えた旅行トレンド考察を取材した、注目すべき5つのテーマ - 地方都市の発見から滞在期間の長期化まで

マリオット・インターナショナルは、「旅行とイベントの新しい未来へ」をテーマとしたオンラインイベントを開催した。ロイヤリティプログラム「Marriott Bonvoy (マリオット・ボンヴォイ)」の取り組みや旅行トレンドの洞察のほか、パネルディスカッションを行い、ポストコロナの旅行について意見交換を行った。

スーパーアプリに進化するMarriott Bonvoy

マリオット・インターナショナル・アジア太平洋マーケティング・ロイヤリティ&パートナシップ担当副社長のジュリー・パルサー氏は「顧客との強い関係性を構築していくためには、あらゆるタッチポイントでそのニーズを深く知ることが大切」と話し、ポストコロナに向けてロイヤリティプログラム「Marriott Bonvoy」を強化していく考えを示す。

パルサー氏は、ロイヤリティプログラムの成功例としてナイキの取り組みを紹介。ナイキは、パンデミックのなかで、「ナイキ・メンバーシップ」会員を7000万人増やしたという。その成功の裏には、商品の検索・購入といった単純なサービスに加えて、新しいエンゲージメントの方法として、独自化、パーソナライゼーション化、販売のオムニチャネル化を進め、無料のトレーニングクラスなどの特典を加えたことにある。

そのうえで、パルサー氏は「ナイキの成功から分かるのは、ロイヤルティプログラムには、これまでの報酬やポイント獲得の達成感だけでなく、その企業への『LOVE』が求められる」と指摘。そのために次世代に求められることとして、「R」「E」「A」「L」というキーワードを挙げた。

Rは、「Rewarding (お得感)」。Marriott Bonvoyでは、例えば、中華圏で会員だけの特典を提供する「メンバーデー」を設定している。

E は、「Easy (手軽さ)」。マリオットは、ウェブチェックインを強化し、スマホ上でモバイルキーを提供することで、カスタマー・エクスペリエンスを向上させた。

Aは、「Aspirational (願望)」。新しいプログラムを提供することで、会員のニーズを満たしていく。マリオットは今年4月からウーバーと提携。ウーバーライドやウーバーイーツを利用するとBonvoyポイントが貯まるサービスを始めた。また、「Work anywhere with Mariott」ではワーケーションのニーズにも応えている。

Lは、「Like me (パーソナライゼーション)」。子供連れの家族向けの特別プログラムなど、セグメントに合わせたサービスを提供しすることで、満足感を高める取り組みを進めている。

「今後もデジタル機能を拡張していく。多くの企業とのパートナーシップを組むことで、会員に対してマリオット以外のプログラムで多くの利益を提供できるようにしていく」とパルサー氏。Marriott Bonvoyを、顧客を囲い込むロイヤリティプログラムの機能を超えて、トラベルプログラムとして「スーパーアプリ」的な機能に進化させていく考えだ。

Marriott Bonvoyについて説明するパルサー氏アフターコロナの5つの旅のトレンド

アフターコロナの旅行トレンドについては、マリオット・インターナショナル・アジア太平洋ブランド・マーケテイング&ブランド・マネージメント担当副社長のジェニー・トォー氏が説明。アフターコロナに向けて注目すべき5つのテーマを挙げた。

まず、「地方都市」。世界的に海外旅行が困難ななか、国内旅行では地方都市が好まれ、例えば、ニュージーランドでは大都市のオークランドではなく、ウェリントンへの人気が高まり、中国でも地方都市で新たな中国を発見する動きが出ているという。

2つ目が「目的のある旅」。特に、環境に配慮した、あるいはその保護を支援する旅の意向はパンデミック前よりも強まっていると説明した。

3つ目が「現実逃避的な旅」。コロナ禍でのストレスを癒やしたい旅行者は多く、特に自然保護区や国立公園などへの関心が高まっている。また、マリオットが行った調査では、4人に3人がストレスを緩和する旅行を望んでいると回答したという。

4つ目は「カリナリー・ツーリズム」。食は伝統的な旅の素材だが、コロナ禍でその意向がさらに強まった。その背景として、外食や会食の制限が背景にあると見られると分析する。

5つ目が「デジタルノマドの増加」。リモートワークやワーケーションなどの広がりは、休暇のスケジュールを再考するきっかけになるという。仕事と休暇を組み合わせることで、滞在期間が長期化し、旅行者は滞在先をより深く知ろうとする傾向が出ている。

また、トォー氏は、今後の市場のカギを握る世代として、Y世代(1980~1990中盤)、Z世代(1996~2015年代中盤)あるいはデジタル・ネイティブ(C世代)を挙げた。この世代はアジア太平洋の人口の約50%を占める。さらに、重要なことは、この世代でプチ富裕層が出てきていること。トォー氏は、そのニーズに応えるホテルとして、高級でスタイリッシュな滞在を提案する「W」を挙げ、今年3月には大阪に日本初進出したことを紹介した。

5つの旅のトレンドを説明するトォー氏未来のカギはリアルコミュニケーションとサステナビリティ

パネルディスカッションには、香港とシンガポールから6人のパネリストが参加し、「旅行とイベントの将来」について、議論を展開した。そのなかで見えてきたのは、リアルなコミュニケーションの再評価とサステナビリティの重要性だ。

シンガポールのイベントエージェント「ジョージPジョンソン・シンガポール」副社長のアナ・パターソン氏は、パンデミックの中で、イベントにおけるテクノロジーとヒューマンとのハイブリッドについて考えてきたとしたうえで、「デジタルプラットフォームによって、ユニークな体験を共有できるようになったが、それは最も重要なことではない。私たちがパンデミックの中で学んだことは、ヒューマンタッチが大切なこと」と語った。そのうえで、イベントでは、リアルなネットワーキングの場を作る重要性に改めて気づいたという。

また、「ゴールドマン・サックス」アジア太平洋旅行担当エグゼクティブ・ディレクターのケンジ・ソー氏も、対面ミーティングの重要性は高まってくると指摘する。「出張の頻度は減るだろうが、それだけ1回の出張の重要性は増してくる。社員の支援の仕方も考えていく必要がある」と話す。そのうえで、出張の判断として、タイムリー、関連性、情報の3つの基準を示した。

香港の旅行代理店「シャーロット・トラベル香港」マネージング・ディレクターのシャーロット・ハリス氏は、ラグジュアリートラベルについて、パンデミック以前よりも、よりパーソナライズされ、キュレートされた旅が求められるとしたうえで、ヒューマンタッチなホスピタリティがさらに重要になっていると主張した。「たとえば、ホテルでのチェックインのときに『Welcome』ではなく、『Welocme Back』と言われると、特別感があり、ゲストの反応は違う」と話し、ヒューマンとしてのつながりを持てれば、リピーターが生まれるとの考えを示した。

パネルディスカッションには香港から3人、シンガポールから3人が参加サステナビリティについては、「香港ブルームバーク」トラベル・マネージャーのアンディ・ウィンチェスター氏が言及。旅行での重要性はさらに増しているとしたうえで、「出張の回数を減らすことが求められるかもしれない」と話した。また、旅行者の選択肢にはサステナビリティも入っていることから、検索や予約の情報として、価格やロケーションだけでなく、環境に対する取り組みも表示すべきだと主張した。

ゴールドマン・サックスのソー氏も、「多くの企業のトラベルマネージャーはグリーンな旅行への関心は高い」と発言。同社では数年前から脱炭素化の取り組みを進めており、社員の意識も高まっているとしたうえで、ホテル側も予約ツールなどで環境対策などの情報を提供し、旅行者の意識を高めていくべきとの考えを示した。

このほか、今後の旅行に必要なこととして、香港ブルームバークのウィンチェスター氏は、成田空港で始まった顔認証搭乗手続き「Face Express」を例に挙げ、「旅行者はシームレスな旅行体験を求めている」と指摘。その一環として、海外旅行再開に向けて、デジタル健康パスの普及も重要との考えを示した。

また、「マリオット・インターナショナル」セールス&マーケティング部門責任者のバート・ビリング氏は、旅行規制が続き、状況が目まぐるしく変化しているなか、マーケテイング活動が難しくなっている現状に触れたうえで、ザ・リッツ・カールトンを例に、「ホスピタリティ産業でこれから大切になってくるのは、顧客のポートフォリオの確認」と話し、これまで以上に顧客との接点を重視していく考えを示した。

取材・記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹