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名古屋鉄道(名鉄)のMaaS戦略、中部エリア全体と狭域の2方向で展開する狙いを聞いた -ナビタイムモビリティ勉強会

ナビタイムジャパンが開催したオンラインセミナー「モビリティ勉強会~名古屋鉄道編~」で、名古屋鉄道(名鉄)経営戦略部総合企画担当課長の山口啓輔氏が、同社のMaaS戦略を説明した。

名鉄では公式アプリ「名鉄Touch」に代え、2022年3月26日からMaaSアプリ「CentX」を開始。沿線地域である愛知県、岐阜県、三重県を対象に、経路検索や特急券などのチケット購入・決済をはじめ、地域の交通や生活、観光など、地域住民にとって利便性の高いサービスをシームレスに繋ぐサービスを開始した。全国を網羅するのではなく、「エリア版MaaS」として中部圏に根差し、地域のための公共交通の利用促進と地域活性化を目指すという。

エリアにフォーカスした理由について山口氏は、グループ経営ビジョンの使命「地域の価値向上に努め、永く社会に貢献する」が根幹にあることを説明。そのうえで、「関東圏や関西圏では複数の民鉄が同じ地域内を走っているが、中部圏は当グループが鉄道やバス、タクシー、カーシェア、シェアサイクルなど、多様な手段をフルラインナップで展開しており、面でアプローチできるの強みがある」と説明した。

ただし、エリア限定といっても、中部圏全体を見れば広域である。そこで名鉄では、「市町村単位などエリア内の狭域で、地域の実情にあわせた「マイクロMaaS」を展開。中部圏全体をフォローするCentXと、圏内の地域のマイクロMaaSを連携させる。さらに、CentXはさらに広域の全国で展開するMaaSとの連携も視野に入れている。

エリア版とマイクロ版のサービスを充実させ、全国版のMaaS事業者に提供する。連携先となる全国のMaaS事業者からは、中部圏への送客を期待する。山口氏は、「地域の方々と地域のためのMaaSを作り上げる。そうすることで、様々な利用客に便利な世界を作っていく」と、名鉄が描くMaaS構想を説明した。

左から)名鉄の山口氏、ナビタイムの森氏。モデレーターを務めたナビタイム交通データ事業部副部長の永森氏

他のMaaSとの接続を前提にした新発想

山口氏の説明の後は、CentXと連携するナビタイムのMaaS事業部部長の森雄大氏が、CentXにおける経路検索と利用動向を説明。その後、山口氏と森氏が視聴者の質問に答える形で、名鉄のMaaS構想を深掘りした。

このなかで森氏は、CentXが他のMaaSとの接続を前提としていることに「ある程度の広域性を追いながら、他のサービスとの接続を設計に入れている。CentXが持ち込ん新しい考え方」と、名鉄のMaaS構想の特徴を説明した。

また山口氏は、エリア版のCentXはスマホにダウンロードするネイティブアプリでの展開だが、マイクロ版はウェブブラウザにも対応することを説明。CentXのチケット予約決済をウェブベースで作ることで共通基盤を持たせ、持続可能な形で展開できる設計とした。実際、2022年初頭に実施したマイクロ版MaaS(岡崎市での観光型MaaS)では、ターゲットの観光客が来訪時で気軽に利用できる必要があることを踏まえ、ダウンロードが不要なウェブブラウザで展開したという。

山口氏は、「ネイティブアプリはダウンロードが必要だが、プッシュ通知などユーザーとのコミュニケーションが活発にできる利点がある。アプリとウェブの特徴にあわせ、ターゲットに応じてプラットフォームを変えて提案していく」と説明した。マイクロ版はデジタルに不慣れな高齢者の多い地域での展開も想定しており、「居住者をターゲットにしたMaaSでも、アプリよりウェブのほうが使いやすい場合もある。地域のニーズに対応する」と話した。

これについては森氏も、「目的次第。目的によって最適な媒体が決まる」と言及。そのうえで、「今まではユースケースで使い分けることはあったが、名鉄では地域によるのユーザーのデジタル習熟度の差も想定して織り込んでいるのが新しい」と評した。