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2030年冬季五輪が開催される仏アルプス地域の観光戦略を聞いてきた、環境配慮の取り組みから、住民との合意形成まで

2030年の冬季五輪・パラリンピックは、フランスのアルプス地域で開催される。この地域で開催されるのは、1924年のシャモニー、1968年のグルノーブル、1992年のアルベールビルに続いて4度目。過去の開催経験が生かされると期待される一方で、五輪を取り巻く環境は変化している。

2030年に向けて、この地域の露出が高まり、開催前から観光客の増加も期待されるなかで、どのような準備を進めていくのか。会場となるオーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地方観光局のローラン・コルミエ局長に、ランデブー・アン・フランスの会場で聞いてみた。

環境への配慮や住民との合意形成に注力

コルミエ氏は、2030年に向けて、4回目の冬季五輪開催となることから「95%は既存のインフラを活用できる」と話す一方で、課題も口にする。その一つが、観戦者や観光客のアクセスだ。

リフトの近代化や大型化など施設の改善に加えて、今日的な課題として、環境の配慮から地域内へのガソリン車でのアクセスに気を配る。現在、グルノーブルを中心とする周辺地域の宿泊施設は、およそ計10万床を提供しているが、現状でも毎週土曜日には、観光客が集中し、アクセスで課題を抱えていると明かす。

「気候変動への対策として、来場者や観光客に対して、できるだけ車を避けて、鉄道でのアクセスを促していく必要がある」とコルミエ氏。その一環として、今後さまざまなアクセスを訴求するデジタルキャンペーンも展開していくという。

また、次世代へのウィンタースポーツの啓蒙も必要との考えを示す。欧州でも、スキーヤーの高齢化やスキー人口の減少が続いているという。冬季五輪への理解を進め、大会に向けて機運を上げていくためにも、「若者の関心の高まりが重要」と強調。2030年に向けては、地元のスキークラブなどと協力しながら、新しいウィンタースポーツ文化を醸成していく方針を示した。

さらに、コルミエ氏は、五輪開催に向けて地元住民との合意形成も必須との考え。「フランス・アルプス地域の多くの村々は、長年にわたって観光と住民との共存を模索してきた。山々はアウトドア博物館ではない。住民と観光客が対立しないこと。それが大きな目標だ」と力を込めた。

地域でオーバーツーリズムが発生しているという認識はないものの、「五輪クラスの大規模な大会は、他のイベントとは異なる対応が求められる」とコルミエ氏。「世界中から観戦者を温かく迎えるためには、住民参加の五輪にしなければならない」と続けた。

コルミエ局長へのインタビューはランデブー・アン・フランスの会場で行った。

夏季シーズンの集客にも注力

このほか、コルミエ氏は、アルプス地域では近年、夏季シーズンの観光コンテンツ開発に力を入れてきていることにも言及。現在、フランス・アルプス地域の観光収入は、オーヴェルニュ・ローヌアルプ地方全体の約40~45%を占め、全体の収入約220億ユーロ(約3.6兆円)のうち、90億ユーロ(約1.5兆円)が冬季シーズンだという。

コルミエ氏は「冬季は多くの雇用を生んでいる。ホスピタリティ産業にとっては重要なことだが、持続可能な観光地にしていくためには、夏季の集客も大切になってくる」と指摘し、夏の観光コンテンツの開発やプロモーションを今後も進め、マウンテンリゾートとして通年での集客に力を入れていく方向性を示した。

そのうえで、夏季のコンテンツとして、スイス・ジュネーブからフランス・アルプス地域を抜けて地中海に至るサイクリングコースを挙げ、スポーツツーリズム・デスティネーションとしての価値を高めていきたい考えを示した。

日本市場向けには「食」や「自然」をアピール

日本市場向けには、オーヴェルニュ・ローヌアルプ地方は、ブルゴーニュ地方とプロヴァンス地方とともにガストロノミーツーリズムとして「美食の渓谷」をプロモーションしてきた。コルミエ氏は「食は日本人旅行者にとって大切なコンテンツ」として、今後も訴求してく考えだ。

また、中心都市のリヨンは、日本でも人気の高いポール・ボキューズの本拠地。2年ごとに開催される世界最高峰の料理コンテスト「ボキューズ・ドール(Bocuse d’or)」が開催されるなど「美食の街」として知られる。さらに、コルミエ氏は、リヨン独自の大衆ビストロ「ブション(Bouchon)」も、「リヨン文化を楽しめる場所」として日本市場に紹介していきたいと付け加えた。

「美食の街」リヨンに点在する「ブション」。

このほか、オーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地方はフランス南東部独特の自然が広がることから、ハイキングなどアウトドア・アクティビティの訴求も強めていきたい考え。現状でも日本人のフランス旅行はパリとモンサンミッシェルが中心だが、「食とアウトドアを組み合わせながら、4~5日の滞在を促してけるようにプロモーションを進めていきたい」と意欲を示した。

※ユーロ円換算は1ユーロ162円でトラベルボイス編集部が算出

トラベルジャーナリスト 山田友樹

取材協力:フランス観光開発機構(Atout France)、オーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地方観光局