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今夏、ドイツ人は旅行に強い意欲、クルーズ需要が拡大する予想、一方で旅費にはますます敏感に ―ITBベルリン

旅行見本市「ITBベルリン」は、今夏のドイツ旅行市場の動向を報告した。それによると、ドイツ人の旅行に対する消費マインドは堅調だという。その動向と、サステナビリティへの関心などITBベルリンのレポートをまとめた。

ドイツ旅行協会(DRV)の推計によると、ドイツ人が2025年に旅行サービスに費やす金額は総額約850億ユーロ(約14兆円)になると見込まれている。これは前年比で6%多く、特にパッケージツアーやオーダーメイドツアーを含む企画旅行市場の成長が力強いという。

2025年の旅行会社での商品購入額は、前年比約7%増の400億ユーロ(約6.6兆円)に達する見込み。特にクルーズ需要の拡大が予想されている。昨年の河川および海上クルーズの参加者は約380万人で過去最高を記録したが、今年はそれをさらに上回ると見込まれている。

3人に1人が夏休みの旅行計画で節約

今夏の旅行先については、地中海沿岸の温暖な地域が引き続き人気。早期予約数も増加傾向にあるという。また、幅広いオールインクルーシブツアーを提供するトルコは、特にファミリー層から人気を集めている。

しかし、ドイツでも航空券や宿泊費の上昇や景気低迷は無縁ではない。約4分の1のドイツ人が今年の休暇にもっとお金を使うと回答している一方で、旅行先を選ぶ際、費用にますます敏感になっており、従来から安価なブルガリアやチュニジア、物価上昇が緩やかなエジプト、知名度が低いバルカン半島などの予約が僅かながらも増加している。

ADACトラベルモニターの調査によると、ドイツ人の3人に1人が夏休みの旅行計画で節約を心がけており、長期の休暇旅行に出かけない割合は2022年の17%から32%に拡大している。

DRVのフィービッヒ社長は「価格上昇は消費者心理を冷え込ませ、個人世帯の可処分所得を圧迫している。経済の悪化が続けば、旅行行動にも影響が出るだろう」と警鐘を鳴らしている。

サステナビリティと現実、旅行業界の責任

価格が消費者の休暇の選択を左右する状況がますます強まっているなか、旅行中の二酸化炭素排出量や現地での交通手段の選択など持続可能性に関する関心は依然として優先順位が低い。ADACトラベルモニターによると、地元産品の購入に高い金額を支払う意思のある人はわずか20%程度だ。

一方で、災害や異常気象に関する関心は高まっており、回答者の18%が、休暇を計画する際に、森林火災、洪水、異常気象などの自然災害のリスクを考慮に入れると回答した。

多くの旅行者が、良心と現実の間で板挟みになっている。持続可能な行動の必要性に対する意識が高まっているにもかかわらず、現実にはほとんど反映されていない。旅行者にとって、気候変動対策よりもはるかに重要なのは、旅行先の魅力と費用。これは科学的に「態度行動ギャップ」と呼ばれる現象だ。こうした背景から、価格設定だけで旅行者に持続可能な旅行行動を選択させることは難しいだろう。

オストファリア高等音楽大学観光経営学のハインツ=ディーター・クワック教授は「持続可能性は需要によって左右されるものではない。旅行者ではなく、旅行会社が主導権を握るべき」と話す。持続可能なコンセプトを考案し、それを観光商品に組み込むだけでなく、企業のマーケティング戦略の一環として可視化することも重要だという。

また、旅行会社はオーバーツーリズムなどの問題にも対処する必要がある。クワック教授は、観光客の流れを規制し、望ましくない観光活動を抑止するデジタルソリューションは、環境保護と旅行先での滞在の質の向上に役立つとの見解を示している。

※ユーロ円換算は1ユーロ164円でトラベルボイス編集部が算出