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無謀な登山者の救助費用は誰が負担すべきか? 米国で議論が活発化、自然保護区での救助要請が増加の一途

写真:dpa(ロイター通信)

米国ワシントン州セントヘレンズ山周辺の自然保護区における救助要請件数は増加の一途をたどっている。同時に、無謀な行動が多すぎるとの批判も増えている。

21歳の男性は、カヤックで滝を下り、脊髄を負傷した。54歳の女性はセントヘレンズ山で滑落し、雪に覆われた斜面を転げ落ち、岩にぶつかり頭部を負傷した。彼らの救助活動は、人里離れた山岳地帯でおこなわれ、いずれも6時間にわたるものとなった。

そのような中、ワシントン州スカマニア郡の保安官事務所によると、同郡で新たな郡条例を制定する動きがある。「捜索救助要請を受けた際に、無謀または過失のある行動が認められた場合」に告発できるようにするというものだ。

サマー・シャイヤー保安官は声明の中で、「郡の財政負担を減らしつつ、現在、目撃されているような行為を抑止するための創造的な方法を見つける必要がある。この条例は、まだ計画段階だが、リスクを冒す人々に対して抑止力となるだろう」と述べている。

保安官事務所によると、スカマニア郡では今年の5月の捜索救助活動の件数が前年同月比で急増。救助活動完了までに4時間から9時間を要するものもあったという。

ユタ州南部では、ガーフィールド郡保安官事務所が、最も辺鄙で困難な峡谷の一部で入域許可の取得を義務付けると発表した。理由は「捜索救助活動の大幅な増加」だ。

全米の国立公園での捜索救助活動の件数は年間数千件にのぼり、2023年には3308件に達した。その対象には、両親と離れ離れになった子どもから、バックカントリーで迷子になったハイカーまで様々だ。

救助費用請求の法制化も

無責任なハイカーに救助費用を負担させるという案は、以前から提起されてきた。

ニューハンプシャー州では、救助費用の負担を軽減するために、1人25ドル(約3600円)、1家族35ドル(約5040円)の「ハイクセーフカード」を導入した。しかし、今年1月中旬に発生したハイカー2人の遭難事故では、2人とも「ハイクセーフカード」を購入していなかった。遭難の原因は「予報されていた気象条件の変化への備えが不十分だった」ことだと判明した。

2013年、カリフォルニア州オレンジ郡のトラブコ・キャニオンで発生した若者2人の遭難では、遭難者の車の中から違法薬物が発見されたことから、郡政府は16万ドル(約2300万円)の救助費用の返還を求めた。しかし、2015年にこの請求訴訟は却下。オレンジ郡消防局が2人の捜索に費やした5万5000ドル(約790万円)の返還を求めた申し立ても却下した。

これを受けて、カリフォルニア州議会は法律を改正。政府関係者が一定の条件の下で救助活動に対する費用の返還を請求できるようにした。しかし、救助された人が支払う余裕がない場合は、郡は費用を徴収できない。また、救助された人が重罪で有罪判決を受けた場合を除き、1万2000ドル(約173万円)を超える金額を徴収することはできない。

救助費用の請求に反対の声も

捜索救助団体の中には、救助を必要とする人々に料金を請求するという考えに反対する団体もある。米山岳救助協会は、「料金請求を恐れることで、捜索救助の要請を躊躇させるべきではない」と述べている。

同協会は2009年、米国の山岳地帯で人命救助を行うサービスの大部分は「捜索救助活動に参加するために自分の時間を犠牲にする、無給のプロの救助登山隊によって提供されている」との見解を表明した。

当時、山岳救助協会会長を務めていたチャーリー・シマンスキー氏は声明で、「典型的な捜索救助活動は数時間で終了し、その大半は無給のプロのボランティアによっておこなわれるため、コストは概して非常に低い」と話している。

コロラド州捜索救助協会は、「確かに、救助チームには過剰な負担を強いられることがあり、初心者が疑わしい状況で通報することもある」と話す一方、「しかし、それでもなお、サービスに料金を課すことが解決策だとは考えていない。人は料金を請求されると思うと、救助隊への通報を遅らせたり、意図的に回避したりすることがよくある」と続けた。

※ドル円換算は1ドル144円でトラベルボイス編集部が算出

※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。