
カナダ最大の旅行商談会「ランデブーカナダ2025」が、マニトバ州ウィニペグで5月に開催された。世界10か国からバイヤー405名、メディア23名、カナダ全土からセラー858名が参加し、期間中は4万8000件におよぶ商談がおこなわれた。
イベントでは、同局が新ブランド「Canada, Naturally.」を発表。カナダで日常的に出会うことができる「心温かい人々(Open-hearted people)」、「新鮮な視点を受け入れるオープンな心(Open minds)」、そして「広大な空間(Open Spaces)」の3つの「オープンネス」を表現することで、地域の自然や文化に関心が高く、新しい体験や学びを求めるハイエンゲージドゲスト(Highly Engaged Guest)に訴求する。
カナダ観光局の調査によると、カナダのターゲットゲストの65%は、他の旅行者よりもユニークで本物だと感じられる目的地を探す傾向があり、加工されていない体験に魅力を感じているという。このことから、新ブランドの展開で本物のつながりを求める旅行者にアプローチをしていく考えだ。
2024年の成長戦略「A World of Opportunity」に基づいて策定された新ブランドは、カナダのデスティネーションとしての世界的な地位を強化するためのステップという位置付け。2030年までに年間の観光収入1600億ドル達成を目指している。「長期的な需要を構築するためには、カナダがターゲットゲストの心に深く響き、競争の激しいグローバル市場で差別化できる目的地であることが必要」と、カナダ観光局CMOのグロリア・ロリー氏は述べた。
新ブランド「Canada, Naturally.」を発表するカナダ観光局CMOのグロリア・ロリー氏
2024年の日本からカナダへの訪問者数は2019年比で56%。トラベルボイスのインタビューにこたえたカナダ観光局CEOのマーシャ・ウォルデン氏は、日本市場についてグローバルに比べ回復が遅れているものの、今後も引き続き重点市場と位置づけ、回復に向けたプロモーションに注力していく方針を示す。「日本人旅行者はカナダが求めるハイエンゲージドゲストであり、カナダが提供できる価値との親和性は高い。航空路線も充実しているため、将来必ず戻ってきてくれると期待している」と力を込めた。
昨年発表した成長戦略「A World of Opportunity」の現在までの進捗に関しては、2030年に観光収入年間1600億ドルの目標に対して、2024年はすでに1300億円に到達。早期の目標達成を目指し、グローバルな戦略として、ハイシーズンである夏の高付加価値化、および秋・冬の誘客に注力する考え。
また、成長戦略の具体的な取り組みのひとつとして、2024年5月に提供を開始したAI観光データプラットフォーム「データ・コレクティブ」は、この1年間で約3万人のユニークアクティブユーザーを獲得し、積極的に活用されているという。同プラットフォームは、カナダ観光局がカナダ統計局およびイノベーション・科学経済開発省と共同で開発。205のデータセットからカナダ全土5100地域のデータを一元管理するもので、観光事業者のデータドリブンな意思決定を支援するもの。今後は生成AIチャットボットを実装するなど、事業者がより直感的に必要なデータを見つけ、活用できるように改良していく予定だ。
カナダ観光局日本地区代表の半藤将代氏(左)、カナダ観光局CEOのマーシャ・ウォルデン氏(右)
期間中には、各州観光局から現地の最新情報や注目トピックも紹介された。
ブリティッシュ・コロンビア州、エリアごとの特色でアピール
ブリティッシュコロンビア州観光局は、州が掲げるブランド「スーパーナチュラル・ブリティッシュコロンビア」のもと、新たな戦略として州内を6エリアに分類し、それぞれの景観や自然・文化を表現したアイコニックブランドを展開する。2024年に発表した2ブランドに加え、2025年6月に新たに4エリアのブランドを追加。エリアごとの特色を表現することで、バンクーバーだけにとどまらない州全体の多様な魅力を伝える。
また2026年6月~7月にかけて開催されるFIFAワールドカップでは、バンクーバーで7試合が開催される予定。この時期は、観光のハイシーズンにあたるため、地元への影響を最小限に抑えつつ、州内各地を知ってもらうきっかけとしたい考えだ。観戦に訪れた旅行者に、試合の前後合間で州内を周遊してもらうための3日間の旅のアイデアを集めた特設ページ「Beautiful Seats」もオープンしている。
オンタリオ州、旧水力発電所が5つ星ホテルに
次回2026年のランデブーカナダの開催地であり、FIFAワールドカップの開催都市のひとつともなるオンタリオ州も、注目が集まるこの機会を州内各地への誘客につなげたい考えだ。航空路線としては、昨年に引き続き今夏も6月4日からエア・カナダが関西/トロント間を週3便運航開始しており、関西からの誘客にも注力していく。
注目のトピックとしては、今年8月にナイアガラ・フォールズにオープンする新アトラクション「Niagara Takes Flight」を紹介。ドローンで撮影した映像に合わせて動くライド型のアトラクションで、ナイアガラの滝や自然・文化をイマーシブに体験できるもの。また、カナダ国定史跡ともなっている旧水力発電所「Toronto Power Generating Station」が、2027年の開業を目指し5つ星ホテルとしてのリノベーションを開始。開業すれば、ナイアガラ地域で初の5つ星ホテルとなる。
アルバータ州、山火事の影響は国立公園の3%
アルバータ州観光局は、2024年夏の山火事の影響が心配されていたジャスパー国立公園の現在の状況や、2025年に入っての新たな動きなどを説明。山火事で実際に影響を受けたのは国立公園全体のわずか3%程度であること、ほとんどのエリアでは観光客を迎える準備が万端であることを強調。また、山火事によって生まれ変わった生態系を先住民の視点から解説するツアーなど、現地で新たに誕生している魅力的なアクティビティを紹介した。
ニューファンドランド・ラブラドール州、AI活用の参加型プラットフォーム
世界有数のホエールウォッチングのスポットであり、ザトウクジラの生息数が世界最大規模のニューファンドランド&ラブラドール州は、旅行者がザトウクジラについての理解を深めながら、データ提供者として調査にも貢献できるプラットフォーム「Hello Humpback」を今年5月にリリースした。
ザトウクジラは尾ビレのかたちや模様によって個体を特定できるため、旅行者は自身が撮影したザトウクジラの尾ビレの写真を同プラットフォームに投稿すると、これまで蓄積された情報をもとに、AIがそのクジラの生い立ちなどのストーリーを作成して表示。旅行者が投稿した情報はデータとして蓄積され、今後の調査研究に役立てられる。観光体験価値の向上と海洋生物保護活動を両立させたユニークな取り組みだ。
ノースウェスト準州、先住民のありのままの暮らし
オーロラ観光で需要の高いノースウェスト準州では、日本からの旅行者数がすでにコロナ前2019年の水準に回復。2024年冬から2025年春シーズンにかけては、11年に1度のオーロラの当たり年「太陽極大期(solar maximum)」にあたり、イエローナイフを中心に、特にオーロラ鑑賞を目的とした需要が高まった。来年以降も、継続してオーロラにとどまらない様々な魅力を訴求していきたい考えだ。
同州の魅力のひとつとして、豊かな先住民文化を紹介。人口の約半数を先住民が構成する同州では、「観光向けに作られた体験でなく、この地で生まれ育った先住民の人々のありのままの暮らしがある。バンクーバーやエドモントン、カルガリーなど主要都市からのアクセスもよく、ぜひ足を伸ばしてみてほしい」(ノースウエスト準州観光局 旅行業界担当マネージャー トリ・マラコエ氏)とアピールした。
ユーコン準州、日本人のリピーター獲得へ
同じくオーロラ観光で人気が高いユーコン準州も、日本人旅行者のリピーター獲得に向け、オーロラ以外も含めた多様な魅力をアピールしていく。特に夏のシーズンは日照時間が長く、夜間にもハイキングなどのアウトドアを楽しめたりと、ユーコンの自然を存分に満喫できる季節だ。
一方、グローバル市場全体では同州への旅行者の8割が夏期に集中しており、夏以外の誘客にも注力していく。3~4月にかけての春の時期に楽しめるアクティビティのひとつとして、先住民によって運営される「ヘリスキー」とオーロラ観光を組み合わせたプランを紹介。今後もマーケットごとに、ユーコンで楽しめる新たな魅力を訴求していきたい考えだ。
ランデブーカナダ2025会場の様子