食とエンターテインメントが集結し、ユニークな看板やネオンが目を引く、大阪・道頓堀。いつの時代も多くの観光客で賑わうこの繁華街では、2017年から道頓堀商店会とJTBのタッグによる観光まちづくりが進められている。
観光の視点で街の価値向上を図るこのプロジェクトには、大阪観光局や異業種の大手企業も参画。2024年からは、大阪IR開業時のサテライトエリアの役割を果たす世界的な観光都市になることを目指し、「道頓堀観光マネジメント協議会」という名称でアップデートを続けている。道頓堀エリアの未来像について、プロジェクトメンバーに話を聞いた。
道頓堀×JTBの連携協定、背景と課題
「道頓堀は日本を代表するような観光地。訪れた方々に『来てよかった』『また行きたい』と思っていただくようにすることが、我々の使命」と、道頓堀商店会会長の上山勝也氏(串カツだるま社長)は話す。
道頓堀川の開発の始まりから400年を迎えた2015年。商店会は、新たな街づくりプラン「道頓堀500(ごーまるまる)」を策定し、次の100年も賑わいのある街であり続けるよう、食とエンタメの文化を継承しながら、誰もが安心・安全に楽しめる街への進化を掲げた。これを受け、JTBは商店会に、観光でその進化を遂げるエリアマネジメント連携を提案。2017年に協定を締結した。
これは当時のJTBにとっても、新たな取り組みだった。JTBエリアソリューション事業部IR・万博推進チーム担当マネージャーの菅原紀行氏によると、当時は「発地営業による送客から、地域の価値創出による誘客への転換に着手した時期」。観光まちづくりに関しては、観光を通じて地域経済の活性化を図るだけではなく「地域の文化や暮らしを尊重しながら、訪れる人と住む人の双方にとって価値ある空間を創出する」(菅原氏)ことを重視し、地域共創でのプロジェクト推進を提案した。
このJTBの考えに、上山氏は「我々、中小企業とは規模や観点が異なる事業者や行政・組織と融合できれば、今の道頓堀にできないことが可能になる」と期待した。上山氏は2017年、大阪・関西万博の誘致活動のため、カザフスタン・アスタナ万博を訪問。当時の経済産業大臣や大阪市長、異業種企業と、同じ目的のもとに活動した経験が、協定締結への背中を押したという。
その当時、道頓堀は訪日客が急増した時期で、受け入れ体制の整備が急務だった。大阪・関西万博、IR開業に向け、さらなる訪日客の増加が見込まれる中、上山氏は「観光客がわかりやすく、安心して遊べる街にしたい。そうでなければ、発展はない」と主張。その上で「もう日本人だけではない。外国の方々にもこの街をどう楽しんでいただけるか。日本人のノリとは少し違うので、うまく調和させて『日本は面白い』と喜ばれるようなまちづくりをしたいと思った」と話す。
(右)道頓堀商店会 会長 上山勝也氏(一門会:屋号「串カツだるま」代表取締役社長兼会長)、(左)NTTドコモビジネス 関西支社 第一ソリューション&マーケティング営業部門 第二グループ 担当課長 三里和明氏
その後、道頓堀商店会、大阪観光局、JTBが発起人となり、道頓堀ナイトカルチャー創造協議会を発足。NTTドコモビジネスをはじめとする他業種の参画企業と、商店会の通りの中心に位置する中座くいだおれビルを拠点に、XRを活用したスマートツーリズム開発に取り組んだ。特徴的だったのは「エンタメ」と「ナイトライフ」のコンテンツ開発だ。
初期からのメンバーで、ナイトクラブや各種イベントのプロデュースなどを手掛けるトライハードジャパン(TryHard Japan)CMOの河原侑児氏は「このような大手企業が参加するプロジェクトに、当社のようなナイトカルチャーの事業者が入るのは異例だったと思う」と振り返る。
河原氏によると、当時からナイトタイムの観光需要はあったが、個別の事業者自身がコンテンツや「安心して遊べる」という情報を発信しても、広がりにくいことが課題だった。だからこそ「街をあげて、ナイトカルチャーを発信できる価値を感じた」と、参画した背景を説明する。
(右)トライハードジャパン CMO 河原侑児氏、(左)JTBエリアソリューション事業部 IR・万博推進チーム 担当マネージャー 菅原紀行氏
訪日客に必要な「食」「エンタメ」「ナイトライフ」
道頓堀ナイトカルチャー創造協議会は2024年に改称し「道頓堀観光マネジメント協議会」として新たなステージに進んだ。活動の中心となるのが、2025年3月にリニューアルされた「中座くいだおれビル」での観光交流施設の開発・運営だ。JTBの菅原氏は「これまでも『道頓堀XRパーク』などの体験コンテンツなどを開発したが、期間を区切った実証実験としての取り組みが多かった。今回は事業の成立を目指している」と力を込める。
事業は「食」「エンタメ」「ナイトライフ」を軸としており、ビル1階の路面店「Pivot BASE Cafe&Bar @Dotonbori(ピボットベース カフェアンドバー アットドウトンボリ)」は、ヴィーガン料理を出すカフェ・バーにリニューアル。訪日客にとって重要な食事のニーズに対応すると同時に、観光情報を提供する場としても活用し、店内の装飾やサイネージ等を企業や自治体のプロモーションコンテンツとして提供する。「大阪・関西万博やIRを目的に大阪を訪れた観光客を、日本各地へ送客するような役割も果たしたい」(菅原氏)という狙いがある。
カフェ・バー「ピボットベース」。日本でもヴィーガン専門店が増えてはいるものの、まだ数は少なく、食事にこだわる訪日客には貴重な存在に
さらに5階の新感覚のエンターテイメント空間「GIRAFFE Japan(ジラフジャパン)」では、時間帯ごとに3つのコンテンツを提供。日中はXRによる日本文化体験「JapaDive Osaka(ジャパダイブ大阪)」、18時からは歌謡や大道芸などノンバーバル(非言語)のショー「OSAKA VARIETY ACT SHOW(大阪バラエティアクトショー)」を公演する。夜22時以降は、ナイトクラブ「GIRAFFE Japan」として、深夜まで楽しめる空間とする。また、JTBは同フロアで「Dotonbori Traveler's Lounge(道頓堀トラベラーズラウンジ)」も開設し、道頓堀を訪れる旅行者へくつろぎの空間を提供する。
このうち、ジャパダイブ大阪はJTBとNTTドコモビジネス、XRコンテンツを制作するNTTコノキューの強みを生かして開発。能や狂言、雅楽といった伝統芸能や、バーチャルアーティストユニット「Tacitly(タシットリー)」のライブ映像を、リアルでは体験できない距離で鑑賞するような、没入感に浸るVRで上演する。
特に、伝統芸能は人間国宝の大槻文藏氏をはじめ、雅楽師の東儀秀樹氏など一目置かれる伝統芸能家がジャパダイブ大阪のために撮りおろした貴重な作品。それぞれ15分とコンパクトにまとめており、菅原氏は「気楽に日本文化に触れ、興味を持ったらぜひ、本物の舞台に足を運んでほしい」と、企画の趣旨を説明する。
一方、大阪バラエティアクトショーは、海外でも活躍するパフォーマー・演出家"EBIKEN"こと蛯名健一氏(アメリカズ・ゴット・タレント日本人初優勝)が総合企画・演出のもと、運営やステージ企画演出の協力をトライハードが担当。ショーに出演するパフォーマーを発掘し、舞台で芸をみがくことで、開業後の大阪IRとの連携や道頓堀エリアへの集客も視野に入れている。トライハードの河原氏は、「日本の観光地には夕食後の19時から22時頃の時間帯に楽しめるアクティビティが少ない。この空白の時間帯に『気軽にショーを楽しみながらお酒飲める空間』をつくりたいと考えた」と話す。
言語に頼らず楽しめる、大阪バラエティアクトショー
共創が生む未来の観光モデル
初期メンバーであるNTTドコモビジネス関西支社第一ソリューション&マーケティング営業部門第二グループ担当課長の三里(さんり)和明氏は、本プロジェクトに参加した理由について「関西、西日本エリアにおける道頓堀の影響力の強さを考えれば、一緒になって取り組む以外の選択肢はなかった」と明かす。
もともとNTTドコモグループは、地域の課題解決にデジタルを通じて貢献することで事業収益を上げるビジネスモデル。「大阪・関西万博やIR開業に向け、地域のまちづくりにどう貢献していくか、社内でもテーマになっていた」(三里氏)。特に当時、課題として認識され始めていた「ナイトタイムエコノミー」の創出に向け、デジタルの力で新しい付加価値を作っていこうとする意欲があったという。
事業の拠点となる「中座くいだおれビル」。2025年3月のリニューアルで、壁面に作られた道頓堀のアイコン「くいだおれ太郎」のオブジェが目を引くさらに三里氏は「『共創』というキーワードが出てきたのも、ちょうどこの頃だったように思う。それまではソリューションを提供し、顧客との1対1での関係で、課題解決を提供するのが主流だった。ともに新しい価値を作るということ自体が新しい挑戦だった」と振り返る。
トライハードジャパンの河原氏は、協議会に参加する大阪観光局が「24時間観光都市」を提唱していることに触れながら、「24時間のうち、半分は夜。そこを安心・安全に楽しんでもらえる健全なナイトタイムエコノミーを、道頓堀のど真ん中で共創していきたい」と意気込む。
欧米豪をはじめ、特に今後、増加が期待される東南アジアからの若年層は、ナイトタイム観光への関心が高い。彼らにとって、夜の時間を楽しむことはごく自然なライフスタイルの一部となっている。河原氏は「ナイトカルチャーほど、言葉や文化の壁を越えて楽しめる“共通言語”はない。楽しめる場所(選択肢)が増えれば増えるほど、観光都市としての魅力も高まっていくはず」と自信を示す。
JTBの菅原氏は、「各社の想いを共創に生かし、2030年のIR開業までにサテライトエリアとしてのコンテンツをしっかり作り上げたい」と意気込む。日本のどの地域よりも先行する道頓堀での事業をモデルケースに、そのほかの地域での水平展開も視野に入れている。
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記事で紹介した取り組み:道頓堀観光マネジメント協議会「TONBORI WEB」
問い合わせ:JTB 企業・団体向けサービスの新規問い合わせフォーム
記事:トラベルボイス企画部