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観光の新しい国際会議「TOURISE(トゥーライズ)」創設の背景とは? 官民連携の「空白」を埋める、リヤド発の世界イニシアティブを目指して

サウジアラビア・リヤドで新たに立ち上がった国際観光カンファレンス「TOURISE(トゥーライズ)」が注目を集めている。背景には、世界各国の観光産業が急速に拡大する一方で、政策担当者と民間事業者、さらにはNGOが同じテーブルで議論する機会が世界的に不足していたという課題認識がある。

TOURISEの会長を務めるサウジアラビア観光大臣アフメド・アルハティーブ氏は、このほど開催された初回イベントの基調講演で創設理由と観光産業の未来について語った。

TOURISEが必要だった理由

サウジアラビアが観光産業の本格整備を開始した2019年以降、政府関係者は世界各地の国際カンファレンスやトレードショーに参加してきた。その経験を振り返りながら、アルハティーブ氏は創設の動機をこう説明する。

「世界の観光に関する会議に参加するなかで、官公庁、民間企業、そしてNGOの三者が対等な立場で議論できる“交差点”が存在しないというギャップに気づいた」という。

これまでの観光に関する国際会議は、政府中心の政策会合か、企業中心の商談会のいずれかに偏りがちだった。観光の現場では、政策が(官)がルールを作り、民間が創意工夫で事業を生み出し、NGOや地域コミュニティが持続性を支えるという役割分担が進んでいるが、「それぞれが交わる場所」が不足していた。

この“構造的空白”を埋めることが、TOURISE創設の最大の目的。アルハティーブ氏は、同イベントを「観光産業のための新しいグローバルイベントであり、『われわれ自身のイベント』だ」と力を込め、リヤドを毎年の開催地とする方針を示した。

TOURISE会長を務めるサウジアラビア観光大臣アフメド・アルハティーブ氏

観光を“移動”で捉えない

TOURISEの特徴は、観光を単なる「旅行」ではなく、都市開発や投資、デジタル産業までを含む大きなエコシステムとして捉えている点だ。

アルハティーブ氏は、観光を構成する要素について「観光は航空会社、空港、旅行会社、ホテル、小売、飲食、エンターテインメント、そしてそれらを支えるテクノロジーまで含む“総体”である」と語った。

旅行者の支出の多くは目的地での体験に向かうことから、航空や宿泊を超えた幅広い産業が観光価値を共創する。こうした認識をもとに、TOURISEでは航空、ホテル、旅行会社、デベロッパー、インフラ事業者、小売、F&B、そしてテック企業など幅広い民間セクターの参加を促す。

サウジアラビアでは超大型スマートシティ「ネオム(Neom)」や、歴史的文化地区「ディリヤ(Diriyah)」を含む大規模観光開発により、「過去5年と今後5年で2000億ドル超の投資が行われる見通し」だ。同氏は、巨大な観光エコシステムが立ち上がる今こそ、「エコシステム全体のプレイヤーが課題と機会を共有するグローバルな“場”が必要」と強調する。

観光の需要拡大と人材ギャップ、AIとの共存

TOURISEが誕生した背景は、他にもある。急速に拡大する観光需要と、それに伴う供給側の課題解決だ。

アルハティーブ氏は、現在の国際観光の規模と今後の展望を、「2024年に国境を越えて旅行した人は約15億人だが、これは世界人口の20%にすぎない。2035年には25〜30億人に増えるだろう」と展望した。

旅行者数の増加に対し、航空機の供給は追いつかず、宿泊も多くの国で人材不足に直面する。直近の調査では、観光産業の雇用は世界で3億5700万人に達し、2034年までにさらに9000万人の雇用が生まれる一方、約4000万人の人材ギャップが生じる見通しだという。

同氏は「観光雇用の40%は女性、80%は若者が担っている」と強調し、「AI導入を進めつつ、人が働く機会を守る必要がある」と述べた。

バケーションのように議論して、未来をつくる

TOURISEのもう一つの特徴は、会議のデザインそのものにある。会場はビーチやヴィレッジを模した構成で、「堅苦しいフォーマルな会議にはしない」。アルハティーブ氏は、「3日間のカンファレンスを、バケーションのように楽しんでほしい」と語り、リゾート空間を活用したネットワーキングや非公式対話の重要性を強調した。

一方で、議論の中身そのものは極めて本格的だ。初回から50名以上の観光大臣が参加し、UN ツーリズムの年次総会と連動。航空供給、人材育成、投資、AIの影響など、観光産業が直面する国際課題が集中的に議論された。

アルハティーブ氏は講演の締めくくりに、「観光は世界GDPの約1割、雇用の約1割を支える巨大産業であり、このセクターの未来を議論する恒常的な場が必要だ」と述べた。

取材・文:鶴本浩司