イタリアのアルプス地方では、2026年2月6日に開幕するミラノ・コルティナ冬季五輪に向けて、自撮り写真をSNSに投稿する人たちによって、脆弱な山岳生態系に負担がかかっていると警鐘を鳴らしている。
五輪はミラノに加えて、ユネスコ世界遺産に登録されているドロミテ山脈の険しい石灰岩の峰々に囲まれたコルティナ・ダンペッツォを拠点として近隣のプレダッツォ、テゼーロ、アンテルセルヴァでも競技が開催される。
イタリア五輪委員会は、主に既存の会場を活用した五輪となることから、環境への影響は限定的で、地域経済の活性化につながると主張している。しかし、一部の地方自治体関係者や環境保護団体は、世界的の注目が集まることで、個人によるSNSへの投稿とプロモーションキャンペーンでオーバーツーリズムが引き起こされる恐れがあると反論している。
セチェーダ山頂やソラピス湖など、かつては静かだった観光地は、すでに観光客で溢れかえる話題のスポットへと変貌を遂げている。
イタリア人登山家、ラインホルト・メスナー氏はインフルエンサーを非難。「彼らは山のことを何も知らない人々を引き寄せてしまう。車で来て、好きな場所に駐車し、写真を撮る。彼らがもたらすのは騒音と交通渋滞、そして環境破壊だけだ」と話す。
2023年にアップルがセチェーダのドラマチックな稜線をフィーチャーしたCMを放映したことで、観光客の急激な流入が起きた。昨年の夏には、ケーブルカーの駅に長蛇の列ができ、登山用具の代わりにスマートフォンや日傘を持つ観光客の写真が拡散した。
コルティナ市長のジャンルカ・ロレンツィ氏はロイター通信に対して、「あるコミュニケーション方法は、時に制御不能になることがある」と話す。ターコイズブルーのソラピス湖周辺にはピーク時に2000人もの観光客が押し寄せた。
危機に瀕する古代のサンゴ
ドロミテ山脈は、2億5000万年前に海底で形成された古代のサンゴ礁の残骸で形成されており、アンモナイトの化石や恐竜の足跡が、この地域に点在している。
コルティナでは、1956年にも冬季五輪の会場になった。史上初めてテレビで国際放送され、町に永続的な経済的影響を与えた。しかし、今回の五輪は、イタリアの山岳観光客が過去10年間で3倍に増加した後に開催されることになる。ドロミテの息を呑むほど美しい景観を積極的に宣伝した地域のSNSキャンペーンが、その急変を招いた。
シンクタンク「ヨーロピアン・ハウス・アンブロセッティ」の調査によると、ミラノ、ベッルーノ、ボルツァーノ、ソンドリオ、トレントの5州には、2027年から2030年の間に900万人の観光客が新たに訪れると予測されている。
南チロル州の市民教育センター「POLITiS」のトーマス・ベネディクター所長は、観光客の流入によって水資源が枯渇し、ドロミテの最も貴重な資産である景観そのものが劣化する恐れがあると警告。「人工降雪やホテルで使われる水は、農業、産業、家庭で使われる水と競合するもの。また、ホテル、ウェルネスセンター、スキー場などのインフラは、景観を傷つけている」と話す。
自らの役割を考え直す地元インフルエンサー
観光客の急増に対して地元住民の間で反発が広がっている。オーバーツーリズムは遊歩道の劣化やゴミの増加につながっていることから、一部の住民は抗議活動を始めた。ヴァル・ガルデーナでは、観光客によって土地が荒らされているとして、ある農家は遊歩道に5ユーロの募金箱を設置した。
オンラインマガジン「サルト」の編集長、シモネッタ・ナルディン氏は、「かつては長距離ハイキングツアーの一部だった場所が、今ではただ写真を撮るためだけに車で訪れる目的地になってしまった」と嘆く。
一方、こうした批判は地元インフルエンサーたちが反省するきっかけにもなっている。コンテンツクリエイターのアリアナ・ムッテ氏はポッドキャストで、「オーバーツーリズムを引き起こしているのは100人のインフルエンサーではない。ほとんどの観光客が旅行代理店経由で来ている。しかし、私たちもその一端を担っている」と自戒する。
ムッテ氏は、一部の山岳ガイドがハイカーに秘密保持契約への署名を求め始めていると付け加えた。その契約は「写真を撮ってもいいが、撮影場所を明かしてはならない」という内容だ。
アウトドアコンテンツクリエイターのマッテオ・ペラーニ氏は、環境破壊が心配される地域に人が集まるのを避けるため、正確な場所を公開するのをやめたという。
地元環境団体は、スキーリフトの新設制限、アルプスの交通量制限、ホテル建設の上限設定など、より厳しい規制を求めている。コルティナ市長は、観光客の流れを監視・管理するために、カメラを設置した交通規制区域を設けることを提案している。
市長は「SNSに投稿する人は、特定の地域では大量の観光客を受け入れることはできないと理解する必要がある」と続けた。
※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。