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二拠点居住・関係人口に観光はどう関われるのか? EYの1万人調査が示した「旅の延長線上」で捉える必要性と施策立案のヒントを聞いた -トラベルボイスLIVEレポート(PR)

日本の人口減少が進む中、地方の自治体を中心に、移住や二拠点居住など関係人口の促進に向けた動きが活発化している。一方で、国の地方創生に向けた政策や、若者世代の地方への関心の高まりという追い風要素があるものの、成果が上がらないという悩みも聞こえてくる。コンサル大手EY JapanのメンバーファームであるEYストラテジー・アンド・コンサルティングのパートナー 平林知高氏は、こうした動きに対して「一気通貫のツーリズム施策」として捉え直す重要性を指摘する。

2025年11月下旬に開催したトラベルボイスLIVEでは、EY Japanが実施した二拠点(複数拠点)居住に関する1万人規模の調査結果を発表。平林氏が調査の背景にある問題意識とともに、消費者の意識や実態を解説し、地域がとるべきアプローチを提案した。

二拠点生活者を誘致するために必要なこと

同調査は47都道府県に在住する18~69歳の計1万人を対象に実施した。平林氏は、調査の背景として「(官公庁の政策で)交流人口や関係人口、二拠点居住や移住(定住)がそれぞれ個別に取り組まれており、全体像が見えにくい」と指摘。「同じ対象者へ一貫して聞くことで、実態が見えると考えた」と説明した。

調査結果によると、二拠点居住に関心のある人は、全回答者の約3割。決して小さい市場でないことが明らかになった。また、二拠点居住をする地域の意思決定には、旅の経験が大きく影響しているようだ。想定する居住先は「旅行先でよかった場所」(45.5%)「これまで何度も訪問している場所」(19.0%)が、全体の6割超を占めた。

加えて、二拠点居住に関心のある人と移住に関心がある人は大きく重なっており、約75%が両方を検討している。「別々の施策を立てるのは、同じターゲットを2倍のコストをかけて取りに行くようなもの。費用対効果の観点からも、政策効果は限定的にならざるを得ない」と平林氏は指摘した。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング パートナー 平林知高氏では、二拠点居住に関心がある人の特徴はどうか。また、どのような場所での生活を想定しているか。

年収別と年代別に見ると、年収が高いほど二拠点居住への関心が高い。年代別では若年層ほど「旅先でよかった場所」の割合が大きくなった。過去に二拠点居住を実施した割合や、今後の意欲が高いのも、若い世代だった。一方、シニア層は高齢になるほど「これまで何度も訪問している場所」の割合が高まり、地域への愛着を重視している。

二拠点居住の実施に当たり、重視することは「自分がリラックスできる環境」(約35%)が最も多く、次に「自宅との距離が90分圏内」、「日常生活の利便性」「地域への愛着」「120分圏内」と続く。「90分圏内、120分圏内がキーワード。圏内のターゲット層を年齢や年収などで絞り込み、明確にした上で打ち手を考えなければ、費用対効果も上がらない」と平林氏は提案した。 

さらに、二拠点居住先で過ごす時間については、全ての居住地での時間を100%とした場合、「25~50%」が最多。年代別では、若い世代ほど、二拠点居住先で過ごそうとする時間が長い。二拠点居住に関心のある人のうち、実行する際は「住民票を移したい」と考えている人が40%弱と比較的高い割合となった。若年層ほど住民票を移す人が多いと言い、「費やす時間が長いほど、消費につながる可能性が高まる。誘致の際のポイントになる」と平林氏は話した。

年齢によって、二拠点居住先の選定で重視する要素が異なる

インフラ整備は“空間設計”で

二拠点居住の誘致には、どこでも仕事ができるリモートワークの環境整備が欠かせない。しかし、調査では、旅先からでもリモートワークができる人は全体の1割程度にとどまり、半数強が「できていない」と回答。特に40代~50代の、いわゆる管理職層でその傾向が高くなった。

最大の理由は「会社の理解」(52.9%)だが、平林氏は上位3つの回答を集計対象にして整理することで、最大の理由に隠れて見逃されていた課題にも焦点を当てた。浮上したのは、「Wi-Fi環境」(24.5%)、「コワーキングスペースのような場所の充実」(11.0%)など、現地の受け入れ環境に由来する要因だ。

これをどう捉えるか。コロナ禍にリモートワークという働き方は一気に進み、コワーキングスペースも全国で2500~3000施設ほどあると言われている。Wi-Fiを整備するホテルも多くなった。それでも「足りない」と思う人が一定数いる。平林氏は、自身が施設を利用する際に「入りにくい」「使いにくい」と感じた経験があることに触れ、利用者の入りやすさや快適性を踏まえた“空間設計”で考えることを提案。「そこに行くと、ベネフィットがあるような形で設計すると、より利用しやすい」と話した。

例えば、コワーキングスペースは仕事をする場所の提供だけではなく、地域の人とつながることができ、地元の情報が得られるような仕掛けを作る。家族旅行の際、ホテルでは客室での作業は集中しにくいこともあることから、ライフスタイル系ホテルのようにカフェやロビーのような開けた空間で仕事ができるスペースの設置を提案。「会社の理解は非常に重要だが、それ以外のインフラ面はハードの整備だけではなく、使う側の快適さにも配慮した空間設計や仕掛けが求められていることが示唆される」と話した。

この考え方は、デジタルノマドの誘致にも通じるものがある。彼らの誘致にはコワーキングスペースが必要と言われているが、「おそらく、単なる“施設”には行かない」と平林氏。「彼らは意味のあるインプットやインサイトを求めている。その土地の文化や歴史、または名士のような人とネットワークができるような設計をすることで、国内外の来訪者を取り込めることにもつながる」と話した。

旅先でリモートワークをするために必要な条件

“ふるさと系”政策の効果的な戦略とは?

平林氏は、「ふるさと納税」「ふるさと住民登録制度」「企業版ふるさと納税」と地域の関係性を深める考え方も紹介した。地域の関係者からは、ふるさと納税をした人に「もっと地域に関与してほしい」「関係人口のように、何回も来てもらいたい」という意向を聞くことがあるからだ。

このうち、「ふるさと納税」については、寄付者を増加させる意味で「返礼品から関係性を築くことが多い」とし、交流人口や関係人口に移行するターゲット層としては限定的とみる。旅行や二拠点居住などで地域に愛着を持ち、寄付に至るケースは返礼品目的の寄付よりも少ないが「このパターンでふるさと納税をする人をどう育てていくかをあわせて考えなければ、効果的にはならないのではないか」と話した。

また、2025年6月に政府が創設を打ち出した「ふるさと住民登録制度」については、交流人口や関係人口からの流入が多いことが予想されるが、現在、特に地域との関係がなくても登録するケースが一定程度ある可能性も想定される。EY Japanが過去に実施した調査で「地域への関心はあるが、特に関与できていない」という回答や、現在、関わりを持つ地域として「(行ったことはないが)知っている・関心のある地域」との回答が、それぞれ約2割あったからだ。

関心のある地域に何も関与できていない層が全体の2割もいる ※EYの別調査結果より平林氏は「交流人口や関係人口の人たちと、全く関係がなかった人たちでは、登録を促す方法は戦略的に全く異なる」と話し、特に地域に関与したくてもできていなかった層を発掘し、制度の仕組みの中で関与してもらうことに期待を示した。ただし、「対象層ごとに検討していかなければ、登録されても何も作用しない結果になりかねない」と、その方法に注意を促した。

進行役を務めたトラベルボイスの鶴本浩司代表は、講演のラップアップとして、若年層の関心の高さや旅行先での体験が二拠点居住の決め手に大きく影響していること、二拠点居住に関心を持つ人の4割が実行の際には「住民票を移す意向」があることなど、7つの要点を提示。鶴本氏も「一貫したツーリズム政策が重要。セクションを越えたチームとして取り組むことで、立体的なアプローチが可能になる」との考えを示した。

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記事:トラベルボイス企画部