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大谷効果で広がるMLB観戦ツアー、シカゴ2球団と米イリノイ州が日本市場開拓へ、その取り組みを現地で取材した

米イリノイ州がスポーツツーリズムを軸に日本人旅行者の誘客を強化している。大谷翔平選手の活躍で日本人の訪米MLB観戦需要が広がるなか、シカゴは2つのMLB球団と多様なスポーツ体験を武器に、新たな目的地として名乗りを上げる。ホワイトソックスは日本の旅行会社との商品化を進め、カブスも日本人旅行者向けの受け入れ拡大を探る。州政府観光局は、野球観戦を入り口に、ルート66開通からの100周年や米国建国250周年(America250)などをフックに州内周遊へつなげる戦略を描く。その最新動向を現地で取材した。

Sports ETAによると、全米におけるスポーツツーリズムの経済効果は年間2745億ドル(約43兆9200億円)にのぼる。このうち、スポーツ観戦を目的とした観戦型スポーツツーリズムは、旅行者数が1億1140万人、直接支出が511億ドル(約8兆1760億円)、経済効果が1254億ドル(約20兆640億円)。2025年には、スポーツを目的に米国外から訪米した旅行者が360万人に達し、直接支出は63億ドル(約1兆80億円)を生み出した。そんな米国の中でイリノイ州は、参加型スポーツと観戦型スポーツの双方を受け入れるインフラや都市規模を持つ主要なスポーツツーリズム州の一つとされている。

イリノイ州:スポーツツーリズムは重点戦略

イリノイ州にとってスポーツツーリズムは、その経済効果の大きさから観光開発戦略において上位に位置づけられている。イリノイ州商務・経済機会省スポーツ・イリノイ・リエゾンのグレッグ・ミハリッチ氏は、スポーツツーリズムについて「単なるスポーツの話ではなく、観光の話であり、経済開発の話でもある」と力を込める。

シカゴを拠点とするプロスポーツチームは、MLBのホワイトソックスとカブスの2球団に加え、NBAのシカゴ・ブルズ、NHLのシカゴ・ブラックホークス、NFLのシカゴ・ベアーズ、MLSのシカゴ・ファイア、WNBAのシカゴ・スカイなど、多様なチームが集積している。州政府観光局にとって、スポーツは地域の個性を示す観光資源であり、旅行者に訴求できるエンターテインメントでもある。

なかでも、近年、日本市場と強い接点を持つのがMLBだ。シカゴには、ホワイトソックスとカブスという2つのMLB球団がある。ミハリッチ氏は、両球団がライバル関係にあるものの、球場を訪れる旅行者を増やすことは「州にとっても、球団にとっても、MLBにとっても素晴らしいこと」と説明する。

イリノイ州商務・経済機会省スポーツ・イリノイ・リエゾンのグレッグ・ミハリッチ氏

両球団が地元で対戦する「クロスタウン・クラシック」は、同じ都市を本拠地とするライバル球団同士の対戦で、シカゴの野球ファンにとって特別なカードだ。シカゴを象徴する野球文化の存在、2つのMLB球団を持つ数少ない州の一つであることは、イリノイ州にとって野球観戦を目的とした旅行需要を広げる強みとなる。こうした強みを生かし、拡大する日本人のMLB観戦需要をシカゴに呼び込もうとしている。

ホワイトソックス:日本の旅行会社と商品化へ

ホワイトソックスが日本市場に期待する背景には、今シーズンから同球団に所属する村上宗隆選手の存在がある。2026年4月には、球団のレベニュー/マーケティング責任者であるブルックス・ボイヤー氏が来日し、日本の旅行会社や航空会社などと意見交換をおこなった。

大谷選手をきっかけに日本人のMLB観戦旅行が広がるなか、球団幹部が日本市場に向き合う姿勢を示した。ボイヤー氏は、村上選手が球団に加入したことで「ホワイトソックスが日本のコミュニティに知られるようになった」と、日本人および現地の日系コミュニティの関心が高まっていることを説明する。反応はグッズ販売にも表れており、村上選手のユニフォームは、グッズ販売を牽引する商品の一つとなっているという。

復帰に向けてフィールドでのトレーニングに向かう村上宗隆選手

ジャージは村上選手の漢字バージョンが人気だという。中央は村上選手のボブルヘッド(首振り人形)試作品日本発の観戦ツアーも好調だ。ボイヤー氏は、「ホワイトソックスの試合を組み込んだ旅行商品が、かなり増えた。今シリーズは、ロサンゼルスを含むほかのシリーズを上回る最大の売上となった」と明かした。

こうした状況を受けて、2027年に向けて、さらに多様な観戦商品を開発する。ボイヤー氏は、「球場を体験したい人のために、より多くのパッケージや機会を開発していく。旅行者がスイート(個室観戦席)を望むのか、外野で楽しみたいのか、それぞれに価値にあった選択肢を用意する」と話す。チケット販売だけでなく、スイート、クラブ席、外野席、球場ツアー、グルメ、グッズなどを組み合わせ、球場で過ごす時間全体の価値を高める商品開発をおこなう考えを示した。

また、日本人旅行者は、既存のパッケージだけでなく、自分たちで体験を組み立てたい需要もあるとみている。既存のパッケージに限らず、旅行会社からツアー造成に向けた相談があれば、座席や球場内体験を組み合わせた行程づくりを支援する考えだ。「連絡をくれれば体験作りをサポートする」と、今後の旅行会社との連携に意気込みを示した。

球場グルメも、日本人旅行者に訴求する重要な要素だ。ホワイトソックスの本拠地レート・フィールド(Rate Field)では、シカゴスタイル・ホットドッグ、巨大ミルクシェイクなどのほか、日本人観戦者を意識したメニュー開発もおこなっている。トンカツ風ホットドッグや日本メーカーのビールを提供しているほか、日本食を意識した売店も展開している。ボイヤー氏は「グッズだけでなく、素晴らしい球場グルメも楽しんでほしい」と笑顔をみせた。

ホワイトソックスのレベニュー/マーケティング責任者であるブルックス・ボイヤー氏

カブス、日本市場との接点を拡大

シカゴのもう一つのMLB球団であるカブスも、日本市場との接点を強めている。

シカゴ・カブスのコミュニケーション・シニアディレクター、ジェニファー・マーティン氏は、鈴木誠也選手と今永昇太選手がカブスに所属してから、「日本人ファンの来場が増えていることを実感している」と話す。球団は、6月17日に初めて日本文化をたたえる企画「ジャパニーズ・ヘリテージ」を実施した。カブスの本拠地リグレー・フィールドで開催されたカブス対ロッキーズ戦では、日本語版の限定Tシャツを含む特別チケットを販売。チケットは完売した。

6月17日にカブスの本拠地リグリー・フィールドで「ジャパニーズ・ヘリテージ」が 開催された。日本語のジャージを着た地元観戦者とともに、日本人観戦者の姿もみられた日本人選手の活躍とファンからの関心の高まりを受けて、カブスも日本の旅行会社との連携を通じて、シカゴへの観戦需要を取り込もうと協議をはじめているという。ツアーには、球場ツアーや15人以上の団体向けの特別体験、クラブ利用などを組み込むこともできる。マーティン氏は、「ぜひ、シカゴに来て、試合を見てほしい」と微笑んだ。

一方で、商品化には課題もある。MLB関連の画像や商標の利用にはルールがあり、日本の旅行会社が本格的に販売するには、素材利用や販売条件、団体向け体験の設計を整理する必要がある。それでも、ホワイトソックスとカブスの双方に日本人選手が所属することは、シカゴをMLB観戦旅行として打ち出すうえで大きな材料といえるだろう。

幼い頃からのカブスファンだという地元出身のガイドスタッフ。球場ツアーでは、レンガ造りの外観や外野フェンスの蔦、手動式スコアボードなどリグレー・フィールドの歴史や裏話を聞くことができるリグリー・フィールド球場ツアーでは、その歴史から過去の対戦の足跡まで野球ファンには興味深い内容が語られる。写真は、ファンのメッセージが描かれた壁。2016年のワールドシリーズでカブスが追い込まれた時期に、当時のファンがレンガの壁に描いた応援メッセージを復元したもの

シカゴを起点に州内周遊を

イリノイ州政府観光局が目指すのは、旅行者をシカゴで野球観戦だけにとどめることではない。MLB観戦を入口に、イリノイ州内各地へ訪問先を広げることが次の課題だ。

2026年はルート66の開通から100周年にあたり、イリノイ州内では関連展示や誘客施策の準備が進んでいる。州内には、スプリングフィールドのリンカーン関連施設、ミシシッピ川沿いのグレート・リバー・ロード、シカゴの食や建築、ミシュラン掲載レストランなど、スポーツ観戦と組み合わせやすい観光素材がある。ミハリッチ氏は「イリノイ州を楽しむ方法は数多くある」と自信を示す。

シカゴの2つの球場は、市内中心部から地下鉄でのアクセスもよく、個人旅行でも気軽に観戦に向かうことができる。野球観戦だけが目的であれば、航空券とホテル、外野席のチケットを手配すれば、個人旅行のハードルは高くない。

一方で、シカゴのMLB観戦を日本人旅行者の新たな選択肢に定着させるうえで、 2つの球団が模索しているのは、日本の旅行会社との連携だ。そこには、単なるチケット販売にとどまらず、球場体験を組み合わせた高付加価値な商品として提供したい狙いがある。さらに、イリノイ州が目指す周遊観光の要素が加われば、旅の満足度は一段と高まるだろう。

日本の旅行会社が、こうした期待にどう応えるのか。2027年に向けて、日本発のスポーツツーリズム商品の進化に期待したい。

ホワイトソックスの本拠地レート・フィールド。7月26日(日本時間27日)には、ヒューストン・アストロズ戦で村上選手のボブルヘッド(首振り人形)が先着1万5000名に配布されることが決まった取材協力:イリノイ州政府観光局