日本初のヒルトン最上級ブランド「ウォルドーフ・アストリア」として、2025年4月に開業したウォルドーフ・アストリア大阪。同ブランドは、ニューヨーク発祥の歴史と、各地の文化を取り込んだ高品質な滞在体験を特徴としている。2025年の大阪・関西万博の開幕、桜の季節、うめきたエリアの新たなまちづくりが重なったタイミングで誕生した同ホテルは、開業から約1年が経過し、大阪が国際的な滞在都市へと変わりつつある手応えを感じている。
副総支配人のエウッド・ロージェン氏に、開業からの歩みと今後への期待、富裕層向けの取り組みを聞いてきた。
米国・韓国市場の存在感
大阪での開業時、その反響は同氏の想定を超えるものだった。これまで世界各地でホテル開業に携わってきた経験を踏まえても、開業時の熱気は特別だったという。「開業前日から開業当日にかけて、ホテルは一気に動き出した。レストランは初日から満席となり、朝6時からホテルの前にゲストが並んでいた。これまで他の場所では見たことがない光景だった」と振り返る。
日本初進出のウォルドーフ・アストリアが、東京ではなく大阪に開業したことも、市場の注目を高めた。「ヒルトン・ファミリーの最上位ブランドとして、国内のロイヤルティの高い顧客が、大阪のウォルドーフ・アストリアがどのようなものになるのか強い関心を持っていた」と明かす。
開業初年度は、海外顧客の予約が本格化するまでに一定のリードタイムがあったことから、まずは国内需要がホテルを支えた。宿泊客は日本人が最多で、東京と関西からの来訪が中心となった。一方、万博期間中には、中東、米国、オランダなど、世界各国からの代表団も受け入れた。
現在では、海外からの宿泊者も増加している。全体では日本が最大市場で、米国が第2の市場。大阪へのインバウンドはアジア圏が多い傾向があるが、同ホテルでは米国人旅行者が存在感を示している。ロージェン氏は「米国の顧客が大阪を旅程に組み込むようになった」と話す。万博に向けて整備された交通インフラ、新しい都市開発、公園、ホテルの集積が、海外顧客から見た大阪の魅力を高めたとみている。
その他の海外市場では、当初は中国が第3の市場になると見込んでいたが、現在は韓国がそれを上回っているという。「政治的な緊張や大阪へのフライトのキャンセルの影響で、韓国が上回った。韓国は近いことも大きい」と説明した。
こうした宿泊者の傾向について、ロージェン氏は「万博期間中に世界中からの代表団を迎えたことが、その後の宿泊客の動きにも影響している」と、万博を通じた国際的な注目が、現在の需要につながっているとの見方を示した。
予約経路については、日本国内ではヒルトン会員による直接予約や、国内旅行会社、OTA経由など多様だという。米国市場では、長距離旅行で旅程が複雑になることから旅行会社経由が中心だ。欧州、韓国、中国は、OTA経由での流入も多い。同ホテルは、カード会社の会員組織やVirtuoso(ヴァーチョウソ)などの富裕層向け旅行コンソーシアムとも連携し、富裕層の取り込みを進めている。
ウォルドーフ・アストリア大阪の客室「プレミアムツインルーム」
富裕層旅行は「体験価値」へ
同ホテルを選ぶ国内外の富裕層が求めているサービスは何か?
ロージェン氏が挙げたのは体験価値への強い志向だ。「デスティネーションへ行くだけでなく、その土地を体験したい、感じたい、味わいたいと考えている」と、長期滞在で地域をより深く知ること、文化への没入を求める旅行者が増えていると指摘する。それは必ずしも高級・高価格な体験を意味しない。地元の人々の日常に近い、本物の暮らしを垣間見たいというニーズもある。
そのような関心に応える体験として、ロージェン氏は食文化や職人技に注目している。「大阪は日本の台所。道頓堀のような一般的な場所だけでなく、天満橋や天満のように地元の人が行く小さな居酒屋を紹介し、より本物に近い形で大阪の食文化を紹介している」という。また、ホテルの体験プログラムとして堺の刃物職人を訪ね、ゲストが包丁を土産として持ち帰る体験や、大阪の酒蔵、茶畑を訪れる体験も提供している。
一方で、ホテルでの滞在そのものは、活気ある大阪のなかにある静かな聖域として位置づける。スパでは日本らしい要素を組み込み、日本酒を使ったデトックス・トリートメントをリラクゼーション体験に取り入れている。
「大阪は非常にエネルギッシュで活気のある都市だが、ホテルは公園の中のレジデンスのようなサンクチュアリとして位置づけている」とロージェン氏。館内には緑を取り入れ、宿泊客が眺望を楽しみながら静かに過ごせる空間を整えた。宿泊客だけが過ごすことができるライブラリーラウンジもその一つで、「リラックスとはマッサージやスパだけではない。静かに景色やデスティネーションを楽しめる場所も重要だ」と話す。
ホテルの象徴といえる29階ラウンジ・バー「ピーコックアレー」。ナイトタイムだけでなく、アフタヌーンティーや夕日の時間帯も人気館内での企画でも、ブランドの世界観を意識した取り組みを進めている。ホリデーシーズンには、ニューヨークを象徴するジュエリーブランドであるティファニーと連携した企画を実施。また、ニューヨークのウォルドーフ・アストリアで撮影された映画「プラダを着た悪魔」と結びつけたアフタヌーンティーも展開した。ロージェン氏は「ニューヨークのブランドとニューヨークのホテルというつながりを伝え、感じてもらうことを大切にしている」と話す。
こうした企画を通じて、ホテル単体の滞在体験にとどまらず、ウォルドーフ・アストリアが持つ歴史や文化的な文脈も体感してもらう考えだ。
進化に向けて、2027年には東京にも開業
同ホテルでは、スタッフ同士が日々の接客で得た気づきやゲストの反応を共有し、次にどのような体験を提供できるかを考え続けている。オンライン、オフラインの双方でコミュニケーションの場を積極的に設け、部門を越えた経験の共有を図っているのもその一環だ。
スタッフルームには、フロントから客室清掃、調理、管理部門まで、さまざまなスタッフのポートレートを飾り、一人ひとりがホテルを作り上げていることを日々実感できるバックオフィスづくりを意識した。表舞台でゲストに接するスタッフだけでなく、あらゆる部門の仕事が滞在体験を支えているという意識を共有することで、スタッフの一体感を高め、現場で得た気づきを次のサービス改善につなげていく。
客室でのアメニティも、こうした改善の対象の一つだ。今後は、宿泊客が自らカクテルづくりを楽しめるような企画も検討しているという。開業時のサービスを完成形とせず、ゲストの声やスタッフの経験を反映しながら、随所で滞在体験のブラッシュアップを続けていく考えだ。
今後の目標について、ロージェン氏は「日本で最もラグジュアリーなホテルをつくること。誰もが到着したいと思い、誰も出発したくないと思うホテルにすることだ」と語る。その実現に向けて重視するのは、ゲスト体験のさらなる向上。「部門間の優れたコミュニケーションを通じて、チームがゲストを驚かせ、喜ばせることが最も重要だ」と考えている。
2027年には東京で「ウォルドーフ・アストリア東京」の開業も控える。ロージェン氏は「東京が加わることで日本国内でチームとして動くことができ、顧客を一つのロケーションから別のロケーションへ案内できるようになる」と期待を示した。
最後に、ロージェン氏は万博を経た大阪の勢いを強調した。万博を経て、大阪には大規模イベントを受け入れるための都市機能、交通インフラ、ホテル、そして新たな勢いがそろったとみる。そして、大阪を滞在地として磨き上げることが、同ホテルの次の成長にもつながると考えている。