ヒルトンのラグジュアリーブランド「コンラッド名古屋」が2026年7月31日に開業した。同ブランドは国内で東京、大阪に続く3軒目、中部地方への初進出。名古屋・栄エリアの新たなシンボルタワー「ザ・ランドマーク名古屋栄」の上層階に位置し、全170室の客室すべてが50平米以上というゆとりある設計が特徴だ。
今回の開業は、愛知県と名古屋市が長年進めてきた高級ホテル誘致のひとつの成果。国際会議や富裕層旅行者の受け皿として、地域経済の活性化への期待も大きい。
※写真:コンラッド名古屋のロビーラウンジ
愛知県、高級ホテルを国際会議と富裕層誘致の基盤に
開業当日、開業セレモニーで祝辞を述べた愛知県の古本伸一郎副知事は、コンラッド名古屋について、国内外から旅行者を迎え、愛知・名古屋の魅力を世界に発信する新たな拠点になるとの期待を示した。県は、名古屋市と連携してラグジュアリーホテルの誘致を促すため、2020年に「高級ホテル立地促進事業費補助金」を創設している。古本副知事は、同制度が実を結び、愛知県を訪れる旅行者の選択肢が大きく広がったと評価した。
県が特に重視するのが、国際会議を受け入れる機能だ。古本副知事は、東京などと国際会議の誘致を競うなかで、要人を迎える上質なスイートルームやサービスを持つホテルが必要との認識を示し、コンラッド名古屋が中部圏のMICE誘致力を高める基盤になることに期待を寄せた。
名古屋市の広沢一郎市長も、大規模MICEの誘致にはラグジュアリーホテルが不可欠だと強調。名古屋市だけでなく、愛知県と中部地域にとって「なくてはならない存在」と位置づけ、「名古屋、愛知を代表するMICEの中心的なホテルになってほしい」と期待を寄せた。
開業式のテープカットセレモニーの様子
三菱地所、高級ホテルで「街の格」と回遊性を高める
ホテルが入る「ザ・ランドマーク名古屋栄」は、三菱地所、J.フロント都市開発、日本郵政不動産、明治安田生命保険、中日新聞社が共同で開発。商業施設、映画館、オフィス、ホテルを組み合わせ、来訪者を増やすことで経済を活性化し、文化の育成や地域社会への貢献につなげる「文化や交流の価値創造拠点」と位置づけている。
開業にあたり、トラベルボイスの個別インタビューに応えた三菱地所 執行役員中部支店長の茅野静仁氏は、高級ホテルをまちづくりに組み込む意義について「国際水準の都市を目指すのであれば、当然こうしたホテルが必要になる」と説明。また、「高級ホテルができれば街の格が上がり、そうしたお客様が来訪する」と、都市の評価と来訪者層の拡大につながるとの見方を示した。
ホテル誘致で「コンラッド」ブランドを選んだ背景には、MICEや富裕層需要への対応力もあった。茅野氏は、ヒルトンが1989年から「ヒルトン名古屋」を運営しており、地域や市場を熟知していることに加え、ラグジュアリーブランドとして高いサービス水準を持ち、国際会議などで想定される顧客層との接点を持つことを評価したと説明。複数のホテルブランドを検討したうえで、「そうしたお客様を一気に呼び込み、対応できるという意味では、コンラッドというブランドが非常に適していた」と明かした。ヒルトン側のブランド戦略とも合致し、双方の意向が一致してコンラッドの出店に至ったという。
三菱地所 執行役員中部支店長の茅野静仁氏
中部圏への旅行者誘致では、ホテルを広域観光のゲートウェイとして打ち出す。茅野氏は、名古屋を拠点に岐阜、三重、滋賀などへ出かけて戻ることができる地理的優位性から「ゲートウェイとしての名古屋、ゲートウェイとしてのコンラッドという位置づけを前面に出したい」と話した。
先行開業した商業施設や映画館には多くの来訪者が集まり、周辺の百貨店や地下街などにも人の流れが波及しているという。開業直後のにぎわいを継続するため、ホテル、商業施設、周辺事業者が連携し、街全体の魅力を継続的に高める考えだ。
名古屋・栄の中心部に開発された「ザ・ランドマーク名古屋栄」。ホテルは上層階
ヒルトン、日本の高級ホテル需要とMICEに成長余地
ヒルトン日本・韓国・ミクロネシア地区代表のジョセフ・カイララ氏は、開業式の壇上で、1989年のヒルトン名古屋開業以来、名古屋が日本での成長に重要な役割を果たしてきたことに触れ、コンラッド名古屋の開業を「この都市に対する長期的なコミットメントを示すもの」と強調した。
個別インタビューでは、日本のラグジュアリーホテル市場について「需要は非常に強い」との見方を示した。背景に挙げたのが、拡大する訪日需要だ。「今、海外で話をすると、多くの人が日本を訪れたいと言う。そこにはラグジュアリーを求める一定の顧客層がいる」と指摘した。
さらに、日本は高水準のサービスや衛生面、空間や商品の見せ方などに対する評価が高く、ラグジュアリー需要と親和性の高い市場だと説明。ヒルトンが運営するラグジュアリーホテルでは、高い稼働率と客室単価を確保できているとし、「日本そのものがラグジュアリービジネスの非常に強い市場だ」と語った。
一方で、高単価を設定するラグジュアリーホテルには、それに見合うサービスを提供し続けることが必要になるとも強調した。現在、ヒルトンが日本で開発中のホテルにもラグジュアリーブランドが複数含まれているとし、「単にホテルを増やすためではなく、そこに需要があるから開発している」と説明。日本でラグジュアリー分野の展開を継続していく考えを示した。
日本の高級ホテルへの需要を語るヒルトン日本・韓国・ミクロネシア地区代表のジョセフ・カイララ氏。「コンラッド」ブランドでは、名古屋に続いて2027年に横浜、2030年に神戸で開業予定が発表されている
名古屋にコンラッドを導入した判断も、こうした需要を前提としたものだ。日本有数の大都市であり、製造業や国際ビジネスが集積している点を評価し、想定される顧客の期待するサービス水準などを踏まえ、コンラッドが適していると判断したという。「ヒルトンより上位に位置しながら、ウォルドーフ・アストリアほど最上位ではない。名古屋の市場にはコンラッドが非常によく合うと考えた」と説明した。
もう一つ、カイララ氏が名古屋で可能性を見込むのがMICEだ。「名古屋には非常に良いMICE需要があることを実感している」と話し、ヒルトン名古屋に加えてコンラッド名古屋が開業しても「両ホテルを満たすの十分な需要がある」との見方を示した。
今後、国内外の営業網を活用して名古屋への案件を獲得するとともに、フルサービスのヒルトン名古屋とラグジュアリーのコンラッド名古屋を、顧客ニーズに応じて提案する考えだ。
コンラッド名古屋の宴会場。約342平方メートル、天井高は約8.3メートル、正餐180名を収容できる。会場は2分割できるため、企業イベントや国際会議、社交行事など、中規模の高付加価値MICEの取り込みを目指している
栄の景観、地域の体験にフォーカス
ザ・ランドマーク名古屋栄の高層部に位置するコンラッド名古屋。館内には6つの飲食施設、スパ、プール、2つの宴会場を備える。地上200メートルの40階には屋外テラスを持つルーフトップバー「House of Mon(ハウス・オブ・モン)」を設けた。
客室やレストラン、バーからは、名古屋駅方面や名古屋城、栄の街並み、中部電力MIRAI TOWER(旧名古屋テレビ塔)などを見渡すことができる。この眺望が大きな特徴で、夕暮れから夜にかけて広がる都市の明かりは新たな名古屋の体験となりそうだ。
館内のバー「サンドロップ」から眺める名古屋の夜景
こうしたラグジュアリーな空間や施設、サービスのほか、同ホテルが注力するのが「地元の名古屋の文化や芸術と宿泊客をつないでいくこと」(マーカス・コッシュ総支配人 )。館内のアートや調度品に地域の歴史・文化を盛り込み、背景にある物語を伝える。
代表例が、市内の有松地区との連携だ。重要伝統的建造物群保存地区に選定され、今も江戸時代の面影を残し、伝統的建築物が町並みを構成する同地区の伝統工芸「有松絞り」を客室やレストランの装飾に取り入れたほか、宿泊客を有松の工房に案内し、染色や絞りの工程を学ぶプログラムも用意する。
館内には「有松絞り」を活用した装飾品が配置されている
また、日本を代表する陶磁器メーカーとして知られる名古屋発祥のノリタケとも連携する。ホテル内の陶磁器、皿、カップなどにノリタケ製品を採用し、宿泊客にはノリタケの施設を訪ね、陶磁器の歴史や製造工程、職人技に触れる体験を提案する。
これらは、滞在時間に応じて地域の魅力を紹介するグローバルプログラム「Conrad 1/3/5」の一環として1時間、3時間、5時間の時間枠で様々なアクティビティを提案する。
マーカス・コッシュ総支配人。開業式ではホテルが「名古屋の玄関口となること、そして昇龍道のハブとなること」を目標に掲げた
予約は好調、将来的には海外客が中心に
コッシュ総支配人によると、年内の予約は、客室と飲食施設の双方で好調に推移しているという。特にレストランやバーは名古屋市民から支持され、2026年9~10月のアジア競技大会、アジアパラ競技大会関連の需要も強い。さらに、2027年5月にはアジア開発銀行(ADB)年次総会の開催が予定されており、目先の需要は堅調だ。
2027年以降の集客では、直接予約とOTAの双方を活用しながら、世界約2億6000万人の会員を持つ「ヒルトン・オナーズ」を中核に据える。現在は国内客が中心だが、将来的には海外客が国内客を上回り、その大部分が「ヒルトン・オナーズ」会員が占めるようになるとみている。
2026年の大型国際イベント後も、昇龍道を含む中部圏の文化・観光資源を世界の会員に発信し、宿泊と地域周遊、再訪へつなげる。コンラッド名古屋が、高級ホテルとしての集客力を栄のまちづくりと中部圏全体の観光・MICE需要にどこまで波及させられるか。地域経済への貢献に期待が高まっている。
客室は全室50平米以上でゆったりした滞在を楽しむことができる