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ブッキング・ドットコムの「次の一手」、日本地区の責任者に聞いてきた

世界大手のオンライン宿泊予約サイト「Booking.com(ブッキング・ドットコム)」が日本でのビジネス拡大に向けて活動を強化している。インバウンド、アウトバウンド(日本人の海外旅行)、国内旅行と日本の旅行市場の潜在力は非常に高いとの認識のもと、日本国内の予約可能な施設数を現在の7000軒から来年末には1万軒にまで増やしていく野心的な目標を掲げる。

「大切なのは、どのマーケットに軸足を置くかではなく、ユーザーのニーズに応えていくこと」。

そう語るのは、ブッキング・ドットコム・ジャパン日本地区リージョナルマネージャーの勝瀬博則氏だ。活動の軸を"ユーザーのニーズ"に置き、日本市場の舵取りを行う勝瀬氏に、その取組みを聞いてきた。


世界から日本の宿泊施設の予約が急拡大 ―日本人の海外・国内旅行にも大きな期待

長年にわたってテクノロジーやヘルスケアなどの業界で経営に携わったのちに、ブッキング・ドッコムに参画した勝瀬氏。旅行マーケットについて、「旅行は裾野が広いマーケット。グローバルにマーケットが広がることを考えれば、ますます伸びていくだろう」とその潜在力に大きな期待を寄せる。

また、Eコマースの観点からも「旅行カテゴリ」の将来性は大きいと感じているようだ。「旅行業は非常に小さなプレーヤーから大きなプレーヤーまでが混在している。インターネットの特長として、そうしたさまざまなプレーヤーの統合が起きてくるだろう。そういう意味でも旅行業はグローバル企業にとって魅力的なもの」と話す。

日本市場について言えば、「日本の宿を探している人も予約している人も、とてつもなく伸びている」と、インバウンド市場への期待が大きい。ブッキング・ドットコムの国別人気ランキングでは日本が2012年の32位から2015年は10位に急上昇した。他のどの国にも見られないほどの伸びを示しており、「今後もさらに伸びるのではないか」と予想する。


【参考:同社の日本を含む世界の予約トップ10(2015年) 】

アウトバウンド市場では、ブッキング・ドットコムが契約する世界の70万軒の施設が強み。近年、日本人出国者数が減少傾向にあるものの、日本人に人気のデスティネーションとなっているハワイ、台湾、グアムなどで予約も増えてきたという。

国内市場では、特に間際予約に力を入れていきたい考え。その対応のため、ブッキング・ドットコムでは、間際予約に特化した専用アプリ「Booking Now」を独自開発、今年2月からiOS版、7月からはAndroid版の提供を始めた。

ブッキング・ドットコム・ジャパンとして、これからも日本で予約可能な施設の充実に注力していくが、「大切なのは、どのマーケットに軸足を置くかではなく、ユーザーのニーズに応えていくこと」と勝瀬氏は説明する。

Booking.com オフィス内の様子

早いコンバージョンが重要、スマホ対応にも注力

eコマースに造詣が深い勝瀬氏は、「旅行もすべてeコマースでくくれる」と話す。OTAであろうが、アマゾンのような一般消費財を扱うオンライン企業であろうが、「大切なのは、できるだけ早くコンバージョンをすること。そのためには、顧客に満足してもらえる仕組み、見せ方、サービスを作り上げていくことが重要になってくる」との考えだ。

ブッキング・ドットコムは、ユーザビリティの観点からUI(ユーザーインターフェイス)に力を入れており、「透明性を持って、施設を紹介していくこと。また、きれいな写真を使うなどビジュアルも大切にしている」という。さらに、実際に泊まったユーザーのレビューもブッキング・ドットコムのビジネスを支えている。世界中で投稿されているレビュー数は現在約5000万件にのぼる。

オンライン事業での見通しについて、「OTAでもスマートフォンでの予約や決済が主流になってくるだろう」と見通し、モバイルでのユーザビリティ向上にも力を入れていく姿勢を表す。「モバイルはこれから伸びていく分野だが、まだチャンピオンはいない。ここで、どのようにベストなサービスを提供できるか、それが勝負だろう」と意気込みを示した。


"外国人目線"と"ネット消費行動"をベースに旅館もシンプルに紹介

勝瀬氏は、インバウンド市場向けのローカライゼーションについても言及。「特に旅館は泊食分離など日本独自のサービスを持っているため、それを世界にどのように理解してもらうかがひとつのチャレンジ」と明かす。国内旅行の場合、ひとつの旅館で数多くのプランがあるが、それをすべて掲載するのは現実的ではないという考え。

検索に手間と時間がかかり、特にこれから主流になってくるモバイルでは、その労力がさらに増すのは明らかだからだ。

勝瀬氏は「できるだけ早いコンバージョンという視点からすると、シンプルな料金構成でわかりやすいページをつくっていく」ことを目指す。ルームタイプ、宿泊可能人数など基本からの選択肢はしっかり押さえ、プラスアルファとなるプランが膨大な数になることはできるだけ控えたい考え。また、「プロモーション料金ではなく、本来の魅力を伝えていくことを大切にしたい」と語る。

ただし、懐石料理など食事をウリにする旅館などは、それも選択基準のひとつととらえているという。外国人目線とインターネットでのユーザーの動き(消費行動)の2点で見極め、その結果に理解を求めていきたい考えを示した。

一方で、「パートナーの施設をブッキング・ドットコムのネットワークで世界の多くの人に知ってもらうこと、それが私たちの生命線」とし、そのうえで、「多くの施設と契約して、バラエティーをしっかり持つことが重要」と強調した。

今回公開されたワークスペースの様子

テレビCMでブランド力と認知度アップ狙う

ブッキング・ドットコムは現在、他社との提携による在庫確保は行っておらず、すべて直接契約で仕入れを行っている。今後もその方針に変わりはないはないようだ。消費者の認知度や需要造成という点で、国内パートナーである航空会社、サーチエンジン、メタサーチは大きな存在となっているが、一方で、「ブッキング・ドットコムのブランド力は上がっており、直接訪問での予約も伸びている」と自信を示す。

この勢いをさらに加速させるため、日本でも積極的な広告プロモーションを開始。7月末からはテレビCMも始めた。ターゲットは20代後半から30代の男女の個人旅行者(FIT)だ。

ブッキング・ドットコムは世界最大級のOTAプライスライングループのひとつ。傘下には、メタサーチのカヤック、アジアに強いOTAアゴダ、レストラン予約のオープンテーブル、レンタカー予約のレンタルカーズ・ドットコムがあるが、それぞれ独立性を持って事業を展開している。勝瀬氏は、この独立性は維持しながらブッキング・ドットコムの舵を切っていく考え。「宿泊だけでも大きなマーケット(勝瀬氏)」であることから、今後も宿泊予約に特化したビジネスを展開していく方針だ。

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聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫 / 記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹