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大型バスの自動運転を観光で活用する課題とは? 横浜で始まった路線バス営業運行の実証実験を取材してきた

相鉄バスと群馬大学は2019年9月14日から10月14日まで、大型路線バスによる自動運転の第1回実証実験を実施する。横浜市で開催される「里山ガーデンフェスタ2019」期間のアクセスとして無料シャトルバス運行を受託し、貸切営業で行なう。大型バスでの営業運行による自動運転の実証実験は、国内初の試み。運行には相鉄バスの車両を使用するが、バス事業者が大型バスの自動運転車両を保有するのも、国内初となる。

記念式典では、相鉄バス取締役社長の菅谷雅夫氏と、技術提供を行なう群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター副センター長准教授の小木津武樹氏、横浜市経済局長の林琢己氏が登壇。

菅谷氏は、喫緊の課題である運転士不足について、「大型2種免許の保有者数が年々減少しており、10年も前からいずれ大変なことになると思っていた」と、長年危惧してきた課題であったことを説明。それが現在、技術や社会的な機運が高まってきたとし、今こそ「バス事業者が主体的に関わるべき」と、自動運転運行に取り組む意義を強調した。

小木津氏は同大学の自動運転研究では、2020年に「レベル4」での無人の自動運転(運用条件を限定化させて無人の自動運転を行なう)の実現を目指していることを説明。地域や路線、運用の各条件を限定することは、あらゆる地域で運行できるようにするよりも技術を単純化できため、「信頼性の高い無人の自動運転に近づける」と、レベル4を目指す理由を提示。決められた運行をする路線バスのような事業分野への実装を、ファーストステップとしていることを説明した。

また、今回の実証実験は、横浜市がIoT活用によるビジネス創出を目指す「I・TOP横浜」の「路線バス自動運転プロジェクト」でもある。林氏は、今後の人口減少社会では自動運転が、「郊外部の交通ネットワークの維持や労働力不足を救う大きな道になる」と、横浜市としてバックアップしていく方針を説明。高齢化が進む中、「採算が取れずにバスが運行されなければ、地域が孤立化する危機感がある」とも話し、地域交通の課題解決に向け、推進していく考えを示した。

実証実験の開始日には記念式典が開催

相鉄バスと群馬大学は2019年4月、共同研究契約を締結し、取り組みを開始。大型路線バスでの自動運転レベル4での営業運行が目標だが、1回目となる今回の実証実験は、運転士が乗車する「レベル2」(システムがハンドル操作やアクセル、ブレーキの車両制御の監視・対応をするが、運転士が必要に応じて手動運転を行なう)での自動運転を行なった。運行区間は、よこはま動物園ズーラシア正門前と里山ガーデンを結ぶ公道の約900メートルで、速度は時速20キロに抑えた。

相鉄バスでは今回の実証実験にあたり、12名の運転士が自動運転の研修を受けた。運転歴19年の萩原信一氏は、通常の手動運転との大きな差はないとした上で、「運転経験や年齢に関係なく、同じ軌道を同じスピードで走ることができる。一番のメリットは事故が減ること。1件でも事故が減るのは良いこと」と話し、自動運転車を実際に運転したことで、その実感をさらに強めたという。

2020年の自動運転レベル4の実現については小木津氏が、「条件をかなり限定すれば不可能ではない」と話し、今回の実証実験エリアについては「親和性の高い地域はいろいろあるが、その1か所となりえる」と可能性を示した。

観光活用と営業運行の課題とは?

観光に関わる分野でも、自動運転の活用を目指すさまざまな取り組みが行なわれている。最近では、福井県永平寺への“ラストワンマイル”を走る電動カートによる自動運転や、自動運転タクシーと空港リムジンバスを連携させた都市交通インフラの実証実験などが行われたほか、三宅島ツアーでの観光ガイド付き自動運転バスツアーは群馬大学も携わったもので、小木津氏は「自動運転車両での観光を、パッケージツアー中の足と観光として活用し、コスト削減や人材不足の補填に加え、観光の魅力付けとする取り組みは面白い」と、観光で自動運転を活用する魅力を話す。

ただし小木津氏は、自動運転は運行しやすいコースとそうでないところがあるとも話す。2020年の自動運転の実現には、どのような課題があるだろうか。

今回の自動運転システムでは、信号を認識する「全方位カメラ」と、人工衛星からの信号で位置を図るGPSアンテナ、周囲の景色で位置を把握したり、障害物を検知する「レーザーセンサ」を搭載している。そのため、運転しやすいのは、こうしたシステムが反応しやすい視界の開けた平坦な道路。起伏やカーブの多い山間部は自動運転が苦手なエリアで、街路樹が張り出しているような道路もGPSの信号やセンサーの障害になりうる。また、景色でも位置確認をするため、落葉などで季節によって景観が変わる場所も、このシステムでの運用は難しい。そして、こうした変化に富む景観は、人気の観光地に多い。

もちろん、自動運転が難しいエリアについても、道路に位置確認を行なうためのセンサー等を設置するなどの別の方法で、導入が可能になる。ただし、自動運転で目指すコスト削減効果が抑制され、逆に追加コストがかかる可能性もある。

また、コストの面では自動運転の場合、車両を無人化し、遠隔から安全にリモートする対象車両が増えることでコスト安が実現していく。小木津氏も「1人が監視できる台数を増やせる仕組みを整備することが次のステップ」と語り、これが自動運転の営業運行が一般普及するのに欠かせない技術的な課題と言えそうだ。

これ以外にも、道路交通法をはじめとする諸法規の改正や安全走行のための道路改修といった、ソフト面とハード面の社会的基盤整備も欠かせない。

ただし、相鉄バスの菅谷氏は、自動運転実現の最大の課題は「運行地域の理解をいただくこと」と強調。「事業者が責任をもってすべきことは、安心して乗車していただくこと。路線バスの自動運転走行を認めてもらう環境を作ることが、課せられた使命」と話し、自動運転の啓蒙と理解促進に力を入れていくことを話した。

小木津氏も、自動運転の営業運行には、社会的な機運醸成の必要性を指摘する。群馬大学の自動運転の実証実験は今回が29例目になるが、北海道から九州までの全国各地で行実証実験を行なうのは、「地域における自動運転への機運醸成」の目的もあるという。地域の人々が徒歩や自転車、車で通行するその側を、自動運転の車両が運行することを受け入れてもらえるよう、その安全性と利便性を実証実験を通して示していく。技術向上と地域の理解促進を両輪で進めてこそ、いち早い自動運転の活用が可能になるといえるだろう。

営業運行の初便には、招待された保育園児たちが乗車。

取材・記事 山田紀子