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新型コロナとの対峙は長期戦の覚悟を、「喪失市場規模」は年間7.8兆円【コラム】

こんにちは。観光政策研究者の山田雄一です。

新型コロナ感染拡大を受け、2020年3月26日には(とりあえず、週末だけではありますが)首都圏全域にロックダウンもどきの状態が出現しました。

これまで日本は、個々人の衛生管理や自粛を前提に、一定程度の行動の自由を確保してきましたが、一度ロックダウン方向にふれれば、海外同様に果てしない隔離政策へと突き進んでいくことになるでしょう。

長期間潜伏し、かつ、無症状の人も多いという新型コロナの特性上、月単位でロックダウンしたとしても、完全に消し去ることは極めて難しく、感染者の発生を社会的に許容できない限りはロックダウンし続けるしかないと考えられるからです。

ロックダウン中は多くのフラストレーションが貯まりますから、解除と同時に人々の行動が溢れ出て、また感染拡大ということになる可能性があります。これを考えれば、ロックダウン解除の判断は、ロックダウンするときよりも難しいと言えます。

これによって、私が「希望的観測」としていた4月中旬からの回復、TDRの再開業は、ほぼ無くなりました。これはすなわち、5月のGWの市場も喪失するということになります。

また、海外についても、あっという間に多くの国の地域が月単位のロックダウンに入ってしまったため、年内中は回復の見込みがほとんどなくなりました。

さらに悪化する市場喪失

この状況を受け、先に算出した市場規模縮小の推計値を更新しました。

今度は、「国内は4月を底として、夏には2018年比で90%まで戻すものの、その後も90%で推移(100%には戻らない)」想定です。なぜなら、景気が後退すれば市場規模も下がるからです。同様に、訪日については、「年末に向けて回復していくものの上限は40%まで」と想定しました。

この推計でいくと、喪失する市場規模は7.8兆円。失業者は95万人~280万人。ここから推計される自殺者数は2000人〜1万2000人となりました。

前回推計では喪失市場規模が5.2兆円でしたが、さらに悪化する試算であり、3〜5月だけでも3.7兆円の喪失市場規模となります。

喪失額の大きさももちろんですが、3〜5月だけでも3.7兆円の市場を喪失しては、率直に言って、多くのホスピタリティ事業者は事業継続が困難となるでしょう。

しかも、当然ながら、6月になったら需要が回復するという確約もありません。ワクチンや治療薬ができるのは、通常で考えれば年単位の時間が必要となるからです。

雇用調整助成金で、一定期間(制度上は100日まで)の雇用は支えることができたとしても、無期限に支えることもできませんし、経営者の収入や家賃、さらには借入金の返済といった支出までカバーすることはできません。

ホスピタリティ産業は、基本的に需要を創造することはできず、発生した需要に対応するものです。そして、その需要は経済的な余裕と、精神的、文化的な豊かさ、そして、移動の自由から創造されます。

今回の新型コロナは、この需要創造のメカニズムの多くを、木っ端微塵にするだけのインパクトを持ちつつあります。現在はかろうじて個人客は動いていますが、ロックダウン的な対応が広がれば、個人客すら動けなくなりますし、その後に訪れる大不況によって大幅に所得は減ることになりますから。

そうなってしまえば、公共交通機関を利用した移動はもちろん、いま現在は他者との接触が避けられるとして一部で注目が集まっているマイカー&キャンプ場すらNG。今は「うちは大丈夫」といっている施設も、いずれは我が身です。

つまり、押し寄せる4つの波のうち「第2の波(自粛の波)」が、当初想定以上に、さらに強化されて襲ってくることになります。

さらに深刻なのは、需要の喪失によって個々の事業者が破綻していくと、地域に曲がりなりにも形成されてきていたホスピタリティ産業クラスタも崩壊することになることです。ホスピタリティ産業クラスタが崩壊してしまえば、一部の事業者が生き残ったとしても、生産性や競争力は大きく低下してしまいます。

これは、第3の波(支出引き締めの波)、第4の波(投資減の波)がもたらすネガティブ・インパクトですが、第2の波が大きい分、第3、第4の波も大きくなります。津波級となれば、復興にはかなりの時間がかかることになるでしょう。

「地域で考える」ことの重要性

急速に事態が悪化しているなか、需要がいつになったら復活するのかは、見えない状態です。

こうした状態となってしまった以上、地域として「観光」を続けるのか否かについて、地域自身で判断することが求められています。

もちろん、国も経済対策は展開してくるでしょうが、もともと、ホスピタリティ産業の生産性向上が見込める地域と、国が考える地方創生の対象地域にはズレがあります。

端的に言えば、国は「弱いところを助けたい」。が、観光サービスが競争である(=顧客は自由に旅行先を選べる)以上、人気を集め、産業の生産性に転換できる地域は限定されるということです。

現在、世界中の観光リゾート地が甚大な被害を受けていますが、それらの地域は、皆、ポスト・コロナの世界において、再スタートとなります。おそらく、非常に熾烈な競争環境となるでしょう。その中で、競争力を「再獲得」し、国内外の需要を集め、産業へと転換し、地域振興につなげていくことは、容易なことではありません。当然、国の一律的な支援にぶら下がって実現できることでもありません。

仮に、地域がそれを目指すのであれば、国の支援は活用しつつ、地域として独自にダイナミックな取り組みを展開することは不可欠となります。

求められる取り組みは

まず、今すぐ求められているのは、事業者の破綻を防ぎ、雇用を維持することです。固定資産税を始めとする諸税の繰延、雇用調整助成金の上乗せに加え、地元の金融機関と連動した借入金返済の減額(例えば、金利のみで元本は先送り)など、民間も巻き込んだ対応を全面的に展開したいところです。

手持ちの現金対応については、低利や無利子の融資も出ていますが、事業が厳しいところは、借り入れ自体が厳しい状況にありますし、いつ、コロナ禍が終わるか見えない状況では借り入れを決断することは難しいでしょう。であれば、例えば、従業員教育や、事業改革支援、新規事業創出を名目にした補助金投入といったことも考えていきたいところです。

重要なことは、宿泊施設や飲食店といった「フロント」に立つ事業者だけでなく、それらに物やサービスを導入する事業者に対しても支援の枠を広げ、産業クラスタ全体を支えるということです。

そうやって、ホスピタリティ産業クラスタ全体に、当面の生命維持装置を構築した上で、半年か1年後となるポスト・コロナの世界に向けた準備を進めていきましょう。

資金調達という大きな問題

問題は、この資金をどう調達するのか、ということです。

地方自治体は、基本的に赤字であり、赤字分を国が補填している状況であることに加え、(人口減少によって)その補填基準も年々減額方向にあることから、その財政支出はかなり硬直的な状態にあります。端的に言えば、国からの支援が無ければ、追加で支出することはできない状態です。

しかし、その「常識」を突破することができなければ、地域の産業クラスタは崩壊し、中長期的な地域の疲弊は加速度を増すことになるでしょう。

2000年代、老舗と言われた宿泊施設がバタバタと潰れ、運よく再生されても、○○温泉物語のような安価路線での運営であるために、地域での物資調達チェーンは寸断され、(価格戦略での)来訪客は宿泊以外の消費もせず…という悪夢の再来となります。そして、2000年代と異なり国全体の人口も減少する中、行き着くところは地域消滅です。

硬直的な財政状況において、できることは何か。

例えば、禁断の手段ではありますが、1年間、公務員や議員の人件費を1割カットしてみてはいかがでしょう。そこから生み出される資金も限度はありますが、地域の意思を示すには大きな効果があるのでは無いでしょうか。

また、将来的な宿泊税の導入を前提に、行政で起債するというやり方もあるのではないでしょうか。本来、事前に宿泊税が導入されており、それが基金として流動性の高い形で地域に留保されていれば、機動的な財政出動も可能でした。残念ながら、その段階に至る前に、今回の事態となってしまいましたが、それを「前借り」することは可能なのではないでしょうか。

仮に、ポスト・コロナで導入する宿泊税のうち100円(≒1%)を、10年充てる計算で起債すれば、宿泊料金の10%、1割に相当する原資が得られる計算になります。

私の今回の試算によれば、2020年に喪失する市場は4割です。これは、飲食や物販、交通までも含んだものであるため、宿泊料金の1割が緊急対策となっても「たかが知れている」かもしれません。しかし、これに国レベルの支援、地方行政レベルでの人件費カット、その他、「とりあえず来年に先送りできる事業」の繰延といった対策を行えば、地方自治体レベルでも、相応の対策費用は捻出できるのではないでしょうか。

願わくは、国も、一律で支援するだけでなく、自らの出血もいとわず取り組もうという地方自治体に対しては、上乗せの支援を行うという手法も展開して欲しいところです。例えば、(将来的な目的税導入による返済を企図した)起債については、その返済額の半額を10年間に渡って交付税措置するといった対応を期待したいですね。

求められるのは「覚悟」

いずれにしても必要なことは、もう短期での回復は見込めないということを関係者全員での共通認識とすることです。個人的には、GWはともかく、夏休みには戻って欲しいと思っていますが、新型コロナの特性上、それも困難な状況になってきたと考えています。

私が提案する「旅行減税」も、とても運用できる状況とはならないでしょう。(もっとも、所得税減税は、政府の支援策で全く議論に上っていませんが…)

市場喪失が1ヶ月や2ヶ月であれば、民間事業者に踏ん張ってもらい、国の一律的な経済対策でも「なんとかなる」かもしれません。言い方は悪いですが、経営が低空飛行だった事業者が脱落することは、産業の新陳代謝としては悪いことではありません。

しかしながら、これが半年、1年という時間軸になったら、優良な事業者も倒れますし、地域の産業クラスタも崩壊します。

いつかくるポスト・コロナにおいて復活することを望むのであれば、なりふり構わず、経営資源を最大限投入して、産業クラスタを守ることが重要でしょう。

結果的に、奇跡的に夏休みに復活できたとしたら、それはそれでハッピーなことなのですから。

従来の常識を超えて、行政はどこまで産業に寄り添った対応ができるのか。また、産業側も、支援を受ける代わりに、ポスト・コロナにおいて地域を支えていく責任を負うことができるか――。

官民の覚悟が求められていると感じています。

【編集部・注】この解説コラム記事は、執筆者との提携のもと、当編集部で一部編集して掲載しました。本記事の初出は、下記ウェブサイトです。なお、本稿は筆者個人の意見として執筆したもので、所属組織としての発表ではありません。

出典:DISCUSSION OF DESTINATION BRANDING. 長期戦への覚悟

原著掲載日:2020年3月27日

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。