失速する観光産業が「反撃」に向けて考えておくべきこと、ブランディング発想への転換やマーケティング戦略の組み換えを【コラム】

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こんにちは。観光政策研究者の山田雄一です。

新型コロナは、欧米にも飛び火し、収束の兆しが見えない状況が続いています。

とはいえ、無限に続く疾病はありえないので、どこかしらで落ち着きを見せ、傷んだ経済の立て直しも行われていくことになります。

問題は、それが「いつか」ということです。

本日は、失速する観光産業の「立て直し」「反撃」に向けて考えておくべき施策やポイントをまとめてみたいと思います。

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注目したい「東京ディズニー」の動向

これを予言することは、非常に難しいですが、私が注目しているのはTDR、東京ディズニーリゾートの再開業タイミングです。

2月末、TDRが営業を自粛したところから、日本全国の観光施設、集客施設の営業自粛が始まりました。良くも悪くも、TDRは観光施設のトップであり、このトップが自粛に動いてしまえば、他の施設も営業継続の選択をすることは非常に難しいのが実状だからです。

言い方を変えれば、TDRが再開業すれば、他の施設も再開業に踏み切りやすくなることを示しています。

さらに、TDRは、再開業にあたり、用意周到な準備をしてくると予想されます。

パーク全体で展開されるであろう感染症対策は、観光集客施設にとってのロールモデルとなるでしょうし、マスメディアなどへの広告出稿も「かつて無いほど」の規模となることが予想されますから、世間に流通する情報のベクトルが大きく変わることになるでしょう。

これは、国内の観光業界にとって、大きな追い風となることが期待できます。

そのTDRですが、この記事の公開時点(2020年3月19日)では4月上旬までの閉園をアナウンスしています。

当初は3月中旬まででしたが、そこから小刻みに伸ばして3月末とせず、一気に4月上旬までの閉園としたのは、おそらく、春休み中での再開業を避けたためでしょう。休みにぶつけたほうが集客は確保出来るでしょうが、他方、多大な混乱が予想されますから。

この「ピークを敢えて避けたのだろう」という意思決定に、私は注目しています。

4月末からは、春休み以上に盛り上がるGWがあります。仮に、TDRが再開業タイミングをピークからずらすのだとすれば、4月中旬に再開業されなければ、GW明けにずれ込む可能性が出てくるからです。

実際、TDLでは、新しい大型施設のオープン予定日は4月15日と、春休みの後で、GWの前というタイミングに設定していました。が、これは既にGW明けの5月中旬「以降」にリスケしています。

彼らは、目玉施設であっても、いきなりピークに当てるのではなく、助走期間をセットするのが通常。それを考えれば、新施設オープンに匹敵するくらいのインパクトがあるだろうパークの再開業は4月の中旬か、5月の中旬ということになるでしょう。

4月中旬が一つの目標

では、4月中旬に再開業できるのでしょうか。

不確定要素は多々ありますが、個人的には、なんとかなるのではないかと思っています。

中国で、新型コロナが確認され、感染者数が急増していったのは1月中旬以降ですが、2月の中旬には頭打ちとなり、3月上旬には収束の目処もでてきています。つまり、感染拡大から落ち着くまでのタイムラグは、6~8週間といったところ。

日本も(ダイヤモンド・プリンセスを除けば)2月中旬くらいからポツポツと感染者が出てきて、3月上旬にぐぐっと増えましたが、既に国内クラスターでの感染は一段落しつつあり、海外旅行帰り者からの感染が目立つようになっています。

仮に、中国と同じような時間軸で進むとすれば、あと2〜3週間で落ち着いていくことになるでしょう。「気温が上がれば感染拡大が抑制される」という指摘が正しいとすれば、より早いタイミングでの収束も考えられます。

また、今週くらいから、これまでは新型コロナの「怖さ」ばかりが強調されていたのに対し、経済面への影響も話題に登るようになってきました。これは、国内事情だけでなく、世界的な株安なども影響していますが、「疾病だけでなく、経済面にも注意を払わないとやばいぞ」という雰囲気がでてきたと感じています。

この状況、意識変化の中で、これから2週間位の時間軸で、実際に感染者数や死亡者数が落ち着いていけば、年度が変わる頃、または、春休みが終わる頃には、再開業に向けた機運はかなり醸成されることになるのではないかと期待しています。

ここに書いたことは希望的観測でもありますが…。

仮に、TDRの再開業が5月中旬にずれ込んだ場合は、総崩れとなる可能性があります。これは、現時点では想像したくないと思っています…。

反撃タイミングは地域で異なる

ただ、4月中旬が一つの反撃タイミングとなり得るのは、国内市場に関してです。

欧米は、日本の2〜3週間遅れで動いていますから、少なくても4月いっぱいまでは身動きがとれないでしょう。さらに、既に医療崩壊が起きているとの指摘もあり、死亡者数が指数的に増大する可能性は否定できません。

そうなると、当然ながら国際的な移動については制限が掛かったままでしょうから、海外旅行も訪日旅行も止まったままです。

国内旅行しか無いという状況は、2000年代のソレに似ています。この場合、経済力のある人口集中地区との距離で市場競争力が定まることになります。端的に言えば、関東周辺や、関東市場を取り込めている沖縄などは動くようになりますが、ここ5年ほどの訪日客数増によって振興されてきた地域は、かなり不利な状況に置かれることになるでしょう。

SARSなどのときには、訪日客が戻るまで半年程度かかっています。今回は、これに経済的なクラッシュも追加されますから、より長引くことも想定して置く必要があるでしょう。LCCを中心に、航空路線の撤退という事態も生じえます。

つまり、再反撃のタイミングは、それぞれの地域が対象としている市場によっても変わってくるということです。

関東圏を対象としている/取り込むことができる地域は、TDR再開業が再反撃のタイミングとなりますが、そうでない「その他地域」については、反撃はかなり先となります。

これでは、いくら政府支援が出てきたとしても、生き残ることは難しいでしょう。

マーケティング戦略の組み換えを

そのため、「その他地域」においては、早急にマーケティング戦略を組み換え、近傍市場(時間距離で2h〜3h)の取り込みに転換することをオススメします。

経済危機も現実的になっていることを考えれば、近傍市場についても、不確定要素が多々ありますが、それでも「近くにいる」ということは、観光市場にとって、大きなアドバンテージです。

また、誘客圏の地勢的な範囲を限定することで、競合地域も明確になります。これは、競争戦略を立案する上で、大きな判断材料を提示してくれます。

先日書いたコラムでも触れましたが、(価格で押してくる)リーダーか、ニッチャー、または、フォロワーの3つの戦略のうち、適切な戦略を採択し2020年度は、そこに注力していくことが重要でしょう。

ブランディング発想への転換

また、このタイミングだからこそ取り組んで欲しいのは、自地域の核は何なのかということを整理し、それをアイデンティティとしたブランディングへの転換です。

今回の事態は「伸長する市場に適切に対応していく」というマーケティングの脆さを露呈しています。

確かに、ターゲットに対して適切に対応することは重要ですが、それを過度にやりすぎると、地域のアイデンティティは喪失していくことになります。ターゲットが欲するのは、便利で安価で楽しいものであり、その意向に沿えば沿うほど画一的なものとなっていくからです。

フランチャイズのレストランや物販店が、日本中に溢れていることを考えれば、分かるでしょう。

しかし、これでは利便性のみを求める表層的な顧客しか獲得できず、リスクには弱いことになります。

ターゲットに合わせて自分自身を変えていくマーケティング発想から、自分自身の魅力を際立たせていくことでターゲットを振り向かせていくブランディング発想へと転換していくことが求められます。

そうした発想での展開は、近傍市場の取り込み、特に、ニッチャー戦略の展開においては、大きな力となります。

ここで重要なのがDMOの存在です。

こうした状況においても、DMOは事業者と異なり、日単位のキャッシュフロー、資金繰りに追われている状況には無いからです。そのファイナンス特性の違いを利用し、現在の事業者では難しい「中期的な時間軸」に則り、「先」に進む道筋をつくっていくことが、とても重要でしょう。

それが、事業者の経営を持続的に支えていくことにつながると思います。

【編集部・注】この解説コラム記事は、執筆者との提携のもと、当編集部で一部編集して掲載しました。本記事の初出は、下記ウェブサイトです。なお、本稿は筆者個人の意見として執筆したもので、所属組織としての発表ではありません。

出典:DISCUSSION OF DESTINATION BRANDING. 反撃時期はいつか

原著掲載日:2020年3月18日

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 理事/観光研究部長/旅の図書館長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。

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