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ホテル・旅館の回復期に向けた業界リーダーの討論を取材した、今までのやり方では無理、新たな旅行形態への対応を

2021年2月、都内で開催された大型展示会「国際ホテル・レストランショー」。コロナ禍のなか、徹底した感染対策のもと4日間の来場者数は2万4196名となった。

会場では、日本ホテル協会会長の小林節氏と日本旅館協会会長の浜野浩二氏、観光庁観光産業課長の多田浩人氏が、「アフターコロナ:飛躍へのロードマップ」と題したパネルディスカッションに登壇。コロナ禍の危機対応から今後の市場動向を展望し、コロナ後の宿泊事業者が目指す姿を議論した。

パネルディスカッション前の基調講演では、モデレーターを務めた工学博士の内藤耕氏(サービス産業革新推進機構代表理事)が、コロナを「1000年に1度の例外的な災害と考えてはいけない。過去の危機に学んだ企業はコロナ禍の大混乱の中でも何をすべきか、見失うことはなかった」と指摘。危機が繰り返し発生する日本では、コロナへの対応と同時に常日頃の備えと危機に強い経営体制を構築する重要性を説いた上で、パネルディスカッションがスタートした。

資金繰りと雇用維持、回復期の需要に対応する準備も

コロナが発生し、ホテル業界と旅館業界がまず行った対策は「資金繰り」だ。日本ホテル協会会長でパレスホテル会長の小林氏は、パレスホテル会長として最初に指示したのが「取引先金融機関への連絡だった」と説明。2020年3月頃のことだったが、そのメガバンクによると、宿泊施設から資金繰りの相談があったのは同ホテルが初めてだったという。

日本旅館協会会長の浜野氏も、「装置産業である旅館業は大きな借入をしている事業者が多く、売上が止まれば2か月もすると資金が回らなくなる」と資金繰りが不可欠なことを説明。政府が重層的な金融支援策を迅速に行ったことで、「多くの旅館にお金が行き渡った」と感謝を述べた。ただし、ホテルの場合、資本金と従業員の規模から大企業が多いため、小林氏は「支援が行き渡ったかというと力及ばず」という側面があったことも指摘した。

さらに小林氏は、「社員のモチベーション維持も重要」とし、緊急事態宣言中の休業期間に社員研修が行ったことを説明。また、徐々に営業を再開した6月以降は、ケータリングやテイクアウトなど新需要への対応と同時に、バックヤード部門を中心に生産性を上げて損益分岐点を下げるための準備も行った。

観光庁観光産業課長の多田氏も、国土交通省の地方運輸局に設置した特別相談窓口への相談は、「資金繰りと雇用の維持が8割を占める」と、多くの事業者がこの2つの問題への対応に迫られていたことを説明した。

モデレーターの内藤氏はここまでの議論を踏まえ、未曽有のコロナ禍でも「以前(の危機)と同じことが起こっている。まず大事なのは資金繰り」と指摘。その上で、過去の例として東日本大震災の時に東京に出張していた関西の飲食チェーンのCFOが、地震発生直後にすぐにメインバンクに借り入れの電話をしたことを紹介した。内藤氏はこの飲食チェーンが、過去の経験から「危機時には資金繰りが殺到し、1日の遅れで振り込みが数週間変わることを知っていたので、以前から枠の予約をしていた。だから電話一本で解決できた」と説明。常時から金融機関との信頼関係を築く大切さを話した。

また内藤氏は、需要回復期に向けた対応にも言及。過去の震災や台風などの危機でも、災害の収束後に需要喚起キャンペーンが始まると予約が爆発的に戻る。今回のコロナでも「昨年のGoToで、その一端を見た」。

しかし、内藤氏は「その時に、一気に増えすぎて人手が足らずに予約を止めたという話も多かった」と指摘。危機対応では、回復期の備えも重要であると提言した。

コロナ後の中長期トレンド、宿泊業が目指すべき姿とは?

コロナ収束後、短期的には爆発的な需要回復が見えているが、中長期的な市場動向をどう見ているのか。アフターコロナに向け、どのような準備をするべきか。

多田氏は、「観光庁としては、コロナによって生じた変化が続くと意識せざるを得ない」とし、密な状況で大量に受ける団体旅行から小人数の個人型への変化を展望。これに向け、施設改修のための補助金や、新ビジネス展開をサポートする専門家派遣などの支援を行っていることを説明し、「宿泊施設は自ら変化する必要がある。ソフトとハードの両面から事業者の創意工夫、新しい展開を下支えする」と述べた。

浜野氏は、コロナ禍で改めて国内需要に注目が集まっているなかで、2つの観点から課題を示した。その1つはインバウンド。「地方によってはインバウンド比率が5割を超えるところもある」とその重要性を強調しつつ、圧倒的シェアの中国について「非常に不安定要素が高い」と指摘。政府目標の6000万人達成には「紆余曲折があると思う」との意見を述べた。

もう1つの国内旅行は、シニアが旅行を卒業していくなかで、次の世代となる40代や30代がシニアと同じような余裕のある旅行をするかどうかは「心配な点が多い」と、国内の旅行人口が経済的・量的に減少に向かっていることを指摘。「これらの課題を宿泊業界がどう解決していくかが大きなテーマになる」と話した。

小林氏はまず、昨年4月以降、2度の緊急事態宣言によって1年の3分の1の需要が全くない状態になったと指摘し、政府に対し「緊急事態宣言は今回で終わらせてほしい」と要望。その上で今後の需要回復は「生活様式の変容とワクチンに期待している」と述べた。一方で、インバウンドや国内需要の回復については、外部調査やホテル業界における飲食や婚礼予約の回復具合から「中長期的には楽観的」と展望した。

内藤氏はこれらの議論に対し、需要回復については小林氏に同意。世代交代による国内旅行需要の変化については、LCCなど多くの若者が利用している施設やサービスがあることから「問題は供給側の対応。今までのやり方で新しい客層を呼ぼうとするから無理がある」と指摘。新たな客層や旅行形態に対応する施設の改修や新サービスの提供を促した。

また、団体型から個人型への営業転換については、内藤氏は専門である生産管理工学の立場から、「団体型から個人型への転換が大変だと思うのは、従来の団体旅行のオペレーションで個人型サービスの運営に対応しようとするから。個人型に振り切った上で、例外的に団体を受けるべき」とアドバイスした。

ただし内藤氏は、「各宿泊施設が同じものを目指せば、結果的には価格競争になる」と注意を喚起。それぞれの事業者が建物や立地、社員などの特徴を明確にし、その範囲内で自社の客層にあったサービスを提供することで、生産性を向上しながら多様性のある宿泊業界になると提言した。最後に内藤氏は、「品質と、損益分岐点を下げるオペレーションを常に同時に考え、打てる手を冷静にとる。これによって強い宿泊業界を作ることになる」とコロナ後の飛躍に向けた事業改革を呼び掛け、議論を締めくくった。