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世界で活況の「民泊」市場、優良ホスト獲得競争が過熱、エクスペディア系の民泊サイト「バーボ」の戦略とは?【外電】

パンデミック勃発から1年を過ぎ、感染対策を取りながら過ごす2度目の夏がやってくる。当初から今に至るまで、世界の観光産業で繰り返し話題になってきたのが、ホテルよりも民泊や一棟貸しなどレンタル物件に滞在する方が好まれるという状況だ。大勢の宿泊客で込み合うロビーなどを避け、ソーシャルディスタンスが確保しやすいからだ。

ロックダウン実施中の国や地域もあるが、米国の場合、今春と夏の予約動向は順調。AirDNAのデータによると、2021年2月に入った新規予約は過去最高を記録した。この状況が続くのであれば、旅行各社にとって今後の課題は、需要に応えるのに十分な供給の確保になりそうだ。

とはいえ供給には限りがある。民泊マーケットにおけるサプライヤー予備軍としては、例えばセカンドハウス所有者などが想定されるが、移動制限や自宅待機などの規制が発出される状況下では、新規参入に及び腰になりそうだ。

一方、既存の民泊ホストにとって、この一年はキャンセルや払い戻しの嵐に追われる日々だった。

こうしたなか、エクスペディア系バケーションレンタル(一棟貸し民泊)のVrbo(バーボ/旧ホームアウェイ)が新しいホスト獲得に向けて打ち出したのが、通常よりスピーディにプラットフォームに優先登録してくれるプログラム「ファストスタート(Fast Start)」だ。すでに民泊を経営しているホスト、なかでも「スーパーホスト」と呼ばれる人気民泊が対象。バーボに新規登録すると、リスト掲載や販売において、様々なサポートをおこなう。

具体的には、これまでの他サイト上でのレビュー平均スコアが4.5以上で、過去一年の売上が3000ドル以上の民泊ホストに対し、バーボ登録後の最初の90日間は、同プラットフォーム上で、通常より上位に表示してもらえる。さらに物件名には「新登場(New to Vrbo)」のバッジを付けて目立つようにし、これまで他社サイトで獲得した評価に基づくレビュースコアを掲載する。過去レビューの詳細は表示しないが、ホスト自身が提出するスコアまたはバーボが収集したデータをもとに、バーボ独自のスコアを算出する仕組みだ。

ほかにも、バーボ登録時に分からないことなどがあればサポートする。バーボだけでの独占販売を義務付けないこともポイントだ。

同社が実施したファストスタートの運用テストに参加した米国内1600人のホストでは、予約数は25%増、予約泊数は50%増、予約取扱額は140%増に。米国では、4月第一週から正式なローンチとなり、今後の世界展開も計画している。

エクスペディア・グループのトラベルパートナーズ・グループ責任者、シリル・ランケ氏は「新規登録した直後は、(レビューやデータが少ないため)ユーザーの目にとまりにくいというコールドスタート問題を解消するのが狙い」と説明する。

今やエクスペディアを支える事業に成長したバーボは、2020年第3四半期は予約数も売上も前年同期を上回った。またグーグルのバケーションレンタル比較検索から撤退したことで、2021年2月時点での予約は、そのほとんどがバーボに直接アクセスしたユーザーとなった。

同社によると、2020年にバーボに登録した民泊オーナーの売上平均は物件当たり6000ドル前後。この数字は、他の旅行サイトより50%高いとしている。

スーパーホスト構想

ファストスタート導入で目指すのは、民泊の売上アップだけでなく、クオリティ向上だとランケ氏。レビュースコアが高いホストの誘致につながるからだ。ターゲットとして同社がプレスリリースでも挙げているのが、ずばり「スーパーホスト」。エアビーアンドビー(Airbnb)における呼称で、同社が太鼓判を押す経験豊かなホストのことだ。この呼称を、あえて意識的に使ったという。

ランケ氏は「コロナ危機の中で、旅行者とサプライヤーのために何ができるのか、悩み続けた一年だったが、この葛藤の中で分かったこともある。宿泊する側とホスト側、双方と良いバランスが取れているのが当社らしさであり、他社と少し違うところ。旅行業界からの評価にもつながった」。

2020年3月の混乱期、バーボでは、キャンセル殺到にあえぐホストに対し、料金払い戻しではなく、安全に旅行を再開できる時期が来たら利用できるクレジット発行という選択肢を用意。バーボ登録ホストのうち、95%ほどがこのクレジット対応を選んだ。さらにパートナー向けのポータルサイト「ディスカバリーハブ」を使って、ホストが地域ごとに異なる法律をチェックできるようにした。

一方、エアビーアンドビーでは、払い戻し方針の通達方法などを巡り、ホストが猛反発。結局、エアビー側が謝罪し、キャンセル料の一部を負担。さらに2021年1月、ゲスト保護が手厚かったこれまでの規約を一部、撤廃した。

米エアビー広報によると「当時、コミュニティの安全を最優先し、WHOによる世界的パンデミック宣言後、すべてのゲストに全額払い戻しを約束した。だがホスト側にとって非常に厳しい状況となり、生計が成り立たなくなる人も多かったため、2億5000万ドルの資金を用意し、ホストが負担したキャンセル料支払いの一部に充てた。さらにスーパーホストのための資金として1700万ドルを用意した」。

短期レンタル事業者のクライアントが多く、RentivoやYes Consultingを手掛けてきたリチャード・ヴォートン氏は、一連の経緯について「払い戻しを巡る対応では、バーボを含め、ほとんどがエアビーよりはマシだった」と振り返る。

「法的には問題なかったとしても、ホストには相談なく、ゲストの利害中心に決めていく社風が露呈し、リスク軽減を模索するホストが、バーボのファストスタートに向かった」と評する。

BookingPal創業者兼CEOのアレックス・エイディン氏は、バーボの場合、取扱い物件の多くがマーチャント方式ではないことが、キャンセル取扱いの違いになったとの見方だ。

「エアビーはマーチャント方式を採用しているので、予約払い戻しを完全にコントロールできる。だがバーボの場合、各ホストによって契約状況が異なるため、ホスト側の意向を聞き、払い戻しの是非を相談する必要があった。こうしたやり取りが、ホストからは好評だった」。

VRSchedulerのCEO、ジル・メイソン氏は「いずれにしても難しい状況だったが、民泊オーナーやマネジャーが、自分の国・地域の法律に合った対応を選べるのが望ましい。バーボの方が、エアビーよりもうまく対処した」と指摘する。

プラットフォームの潜在能力

ファストスタート導入の狙いは、新しいホスト誘致だが、バーボでは、獲得したホストを自社だけで独占的に囲い込むことは考えていない。ランケ氏は「流通のクロス・チャネル化が進む時代なのに、流れに逆らい、お付き合いするプラットフォームを一つにと強要したくない」。

もちろん「バーボでの予約実績が増えれば、バーボのアルゴリズムにおける評価やレビュースコアも上がる」(同氏)。予約を増やすには、在庫は多いほうが有利だ。しかし独占取扱いにすれば、即、評価が高くなるという訳ではない。

エアビーのスーパーホストはどう動くだろうか。エイディン氏は、エアビーからバーボに完全に乗り換えるスーパーホストは少ないが、流通を多様化するために、バーボも活用するという戦略はありとの見方だ。

「宿泊施設マネジメントのプロは、すでに多くの流通先と取引がある(例えばブッキングドットコム、エクスペディア、エアビー、バーボ、トリップアドバイザーなど)。加えて自社の直販サイトにも力を入れているので、バーボに割り当てる在庫数には限りがある。それよりもエアビーのスーパーホストの方が、新規開拓し、売上アップにつなげられる可能性は大きい」(同氏)。

また、成長拡大したエアビーの問題点として、ヴォートン氏は、個々のホストが抱える「膨大なリストの中に埋没する」リスクを指摘する。

「株式上場や払い戻しを巡る不満の噴出を見ていて思うのは、エアビーが、巨大企業の一つに過ぎないということ。バーボのファストスタートは、このマーケットセグメントを取り込むのにちょうどよい仕組みで、優良物件には、既存のエクスペディア利用客が集まるだろう。リスクを軽減したいホストにも、収益物件を増やしたいバーボにもメリットがある。エアビーがどういう対策を打ってくるか、興味深いところだ」。

バーボでは、人気のビーチエリアなど、滞在需要が大きいデスティネーションでのホスト獲得に向けて、マーケティングプログラムなども実施する。

「総数よりも、需要が大きいデスティネーションでの供給を増やすことがカギ」(ランケ氏)。やがて海外旅行マーケットが活気を取り戻すのに伴い、需要が多い人気エリアでは、当然、民泊の供給も増えていくと想定している。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事: Vrbo targets Airbnb “Superhosts” as rental competition heats up

著者:ジル・メンゼ氏