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観光に求められるSDGs、ハワイ州の取り組みと、変化する消費者意識やトレンドへの討論を取材した

ハワイ州観光局(HTJ)は、「SDGsとハワイ州」をテーマに第2回「ハワイ・ツーリズム・フォーラム」を開催した。ハワイ州では、持続可能な観光を目指し、地元住民と観光との調和を図る「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」の普及に力を入れているところ。その取り組みは国連が定めた17のSDGs目標とも関わってくる。

サステナブルツーリズムから「再生する旅」へ進化

基調講演では、やまとごごろ代表取締役の村山慶輔氏が「観光を健全に再生していくためのカギはサステナブル」としたうえで、観光客のニーズが変化しているなかで、持続可能な地域の観光戦略に必要な取り組みについて議論を進めた。

まず村山氏は、地域には高付加価値化と単価のアップが必要と指摘。「コロナ後は量より質。地域を尊重してくれる人やお金を落としてくれる富裕層を呼ぶサイクルを回していくことが求められる」とし、最大3倍の値上げを行った宮崎県高千穂峡の遊覧ボートを例として挙げ、「価値と価格のバランスをとることが大切」と主張した。

また、観光デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性にも言及。国としてDXのエコシステムを構築しているシンガポールの例を挙げながら、縦割りではなく、横串でシームレスにワンストップでサービスにアクセスできる仕組みの構築を訴えた。そのうえで、顧客管理システムを活用し、パーソナライズサービスやライブ配信などユーザーの利便性向上を進めることで、「顧客を囲い込むことが求められる」とした。

次に、地域を理解するリピーターを増やしていくことが持続可能な観光につながるとして、関係人口創出への取り組みもカギになるとの考えを示した。そのためには、地域それぞれがワンストップで情報を発信する機能を持つべきと提案した。

最後に、サステナブルツーリズムの先を見る概念として「リジェネラティブトラベル」を紹介。持続だけでなく、「再生する旅」として、今後注目されるとした。たとえば、宿泊料の一部を地域社会の課題解決に還元するなど、旅行者と観光事業者が、循環型の経済システムのなかで、地域の未来を造りあげる仕組みに期待感を示した。

やまとごごろの村山氏ハワイ州観光局、マラマハワイで付加価値の高い体験プログラムを

HTJ日本支局長のミツエ・ヴァーレイ氏は、ハワイ州の取り組みについて紹介。ハワイ版SDGsとして2014年に「Aloha+Challenge」を設立し、「クリーンエネルギーへの転換」「自然資源の管理」「持続可能なスマートコミュニティの形成」「廃棄物の削減」「グリーンジョブ・環境教育」「地元産の食料供給」の6つの項目について、地元NPOと取り組んでいると説明した。

そのなかで、HTJは新たに「マラマ・ハワイ~地球にやさしい旅を~」を展開。同局公式ポータルサイト「allhawaii」内 に開設した。海洋環境保護と親和性の高いサーフィンのページを新たに設けたほか、Aloha+Challengeの取り組み、地元企業との協業例なども紹介している。

「マラマ」とハワイ語で「いたわり」という意味。ヴァーレイ氏は「マラマハワイの取り組みが今後のレスポンシブルツーリズムの良い事例になる」としたうえで、地元NPOやコミュニティと一緒に活動するプログラムを提案し、付加価値の高い新しい体験プログラムの造成に注力していくほか、地域との関わり合いを通じてグローバル人材の育成にも協力していく考えを示した。

HTJのヴァーレイ氏企業も消費者も高まるSDGsへの意識

パネルディスカッションには、やまとごごろの村山氏のほか、資生堂SHISEIDO グローバルブランドユニットグローバルマーケティング部エクステンションプラットフォーム カテゴリー室長の大山 志保里氏、デルタ航空日本地区社長の大隅ヴィクター氏、Hanako編集長の田島朗氏が登壇した。

Hanakoの田島氏は、読者のサステナブルに対する意識の変化について言及。「以前のハワイ特集では、ブランドなどの消費の話が中心だったが、最近では、自然、オーガニックなどの話題が好評。トレンドは変化している」と説明した。Hanakoでは、2020年3月号で「ハナコと考えるSDGs」、10月には「気持ちいい生活の、選びかた。」を特集するなど、読者の傾向に合わせて、ただの消費ではない、豊かな生活に向けたストーリーを展開しているという。

そのうえで、「読者は、企業がどのようなSDGsの取り組みをしているか知りたがっている。SDGsに積極的な企業を応援する消費が顕在化している」とし、「その方向性は旅の文脈にも当てはまるのではないか」と提言した。

資生堂の大山氏は、同社が推進する「Sustainable Beauty Actions」を紹介。日本文化に根付く「もったいない」「調和」「共鳴」の3つの指針で新製品の開発や啓蒙活動を進めていると説明し、新製品の例として、充填サービスや生分解性素材採用のパレットなどを挙げた。

また、ハワイでサンゴの白化に影響のある成分を含む日焼け止めの販売が禁止されることについて触れ、「業界にとって大きなインパクトがあった。環境を考えるきっかけになった」とし、科学的根拠に基づき、肌とともに環境を守る製品の開発を進めたと説明した。

パネルディスカッションでは企業のSDGsの取り組みを紹介デルタ航空の大隅氏は、同航空が進める「カーボン・ニュートラル計画」について説明。二酸化炭素排出削減のために10年間で10億ドルを投資し、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel: SAF)の活用、燃料効率のいい新機材の導入などを通じて、2012年と同レベルの排出に制限する取り組みを進めているとした。

また、米国の航空会社としてはいち早く、2007年に利用者が参加できるカーボン・オフセット・プログラムを導入。搭乗便で排出される二酸化炭素量を相殺する金額を寄付できるオンラインの仕組みを紹介した。

やまとごごろの村山氏は、「SDGsは商品造成の切り口を増やすもの。企業からの押しつけではなく、問いかけや投げかけが大切になる」と発言。企業として、SDGsを組み込むことが選ばれるポイントになるとの考えを示したうえで、「旅行会社としては、自社単独ではなく、異業種との連携が大切になってくるのでは」と提言した。