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世界で広がる「ワクチン証明書」提示の義務化、屋内施設の利用や交通機関で、米フロリダではクルーズで論争

フランスでは、カフェやレストランの入店の際にワクチン接種完了や陰性の証明書の提示が義務付けられ、米国では、外国人訪問者にワクチン接種を義務付ける方向で調整に入るなど、各国で新型コロナウイルス対応は新たな段階に入っている。観光関連企業や観光施設でも、ワクチン接種を強化するところが増えてきた。

米国では航空会社の従業員への接種義務化の動き

航空業界では、ユナイテッド航空が米国の主要航空会社としては初めて、従業員に対してワクチン接種を義務付けを通知。10月25日までに完了することを求めた。

同航空は、6月中旬からワクチン接種を完了した人の雇用を始め、未接種者には、オフィス内でのマスク着用を義務付けている。同航空によると、すでにパイロットの90%、客室乗務員の80%近くが接種を完了しているという。

また、フロンティア航空も従業員に対して10月1日までに接種を完了するか、PCR検査を定期的に受けることを求めているほか、接種を促進するために、接種者には休暇やボーナスを支給する航空会社も出てきている。

イタリアも屋内施設で証明書の提示を義務化

イタリア政府は7月22日、デルタ株の感染者が急増していることから、フランスと同様に、遺跡、ジム、劇場、屋内プール、レストラン、バー、カフェなど屋内施設に入る場合には、いわゆる「グリーンバス」の提示を義務付けると発表している。ワクチンを少なくとも1回接種したこと、過去6か月間に新型コロナウイルスから回復したこと、または過去48時間以内に実施されたテストで陰性であることを証明する必要がある。

政府によると、7月下旬までに人口6000万人のうち、すでに5000万人がデジタル証明書をダウンロードしているという。また、紙の証明書でも入場は可能。米国、日本、カナダ、イスラエルの各国政府が発行する証明書も有効になる。

さらに、イタリア政府は、今年9月1日から航空機、高速鉄道、地域間鉄道、地域間の船舶での移動でも、グリーンパスの提示を義務化すると発表。ただし、通勤者や通学者が多いシチリア島とカラブリア州を結ぶフェリーは除外される。

米連邦判事、クルーズ会社によるワクチン接種証明提示を認める

一方、米フロリダ州ではクルーズ客へのワクチン接種義務化について論争が続いている。今年5月に共和党のロス・デサンティス知事は、ワクチンを打たない自由を守ることを理由に「ワクチンパスポート禁止」の条例に署名。これに対して、ノルウェージャンクルーズホールディングスがフロリダ州に対し、ワクチン接種の証明を乗客に求めることは違法ではないとして訴えた。

この訴えに対して、連邦判事は、クルーズ会社が乗客に対してワクチン接種証明書を求めることを禁止するこの条例は違法の可能性があることから、フロリダ州に条例執行の一時停止を求めた。

フロリダ州は、クルーズ船の乗船でワクチン接種を要件とする米疾病予防管理センター(CDC)を個別に提訴。CDCはこの提訴に敗訴し、CDCのガイドラインは拘束力を失った。これにより、CDCの指示に従うのは、クルーズ会社は自主性に任されることになった。CDCは、現在のガイドラインは11月1日まで有効で、乗客と乗組員のうち少なくとも95%が接種を完了したことを確認したうえで、運航を再開できるとしている。

パンデミックによって、ノルウェージャンクルーズラインは、所有する28隻すべての運航を停止し、3万人の乗組員を自宅待機にせざるを得ず、その損害は60億ドル(約6600億円)以上にのぼる見られている。また、7日間クルーズをキャンセルするごとに、400万ドル(約4.4億円)以上の費用負担が会社に発生すると言われている。

同社のクルーズ船が、8月15日にマイアミから出港する予定だ。これは、パンデミック発生以降最初のフロリダからのクルーズになる。すでに1200人が予約しており、乗船前にワクチン接種証明書を提示することを約束している。

同社CEOのフランク・デル・リオ氏は「私たちは、クルーズにもワクチン接種証明の提示を認める連邦判事の判断を歓迎する。これは、このパンデミックの中でクルーズ運航を再開するうえで、最も安全で最も賢明な方法である」とコメントしている。

連邦判事の判決では、入国規制は各国によって異なり、デルタ株の拡大によって、その要件も頻繁に変化していることから、ワクチン接種の証明なしにクルーズを実施することは「非現実的であるだけでなく、財政的、法的、ロジスティックの面で面倒なことになる」と述べられている。

※ドル円換算は1ドル110円でトラベルボイス編集部が算出