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いわゆる「空飛ぶクルマ」に、航空会社や旅行会社はどう対応すべきか? 今から考えたい収益性の戦略【外電】

高速道路で渋滞に巻き込まれ、無為に時間を過ごすなか、このまま空に浮かび上がって、時間を気にすることなく、目的地に向かうことができればと願ったことが何度あるだろうか。

今、その悩みを解決するゲームチェンジャーが現れつつある。スタートアップ、航空宇宙企業、ベンチャーキャピタルなどが高い関心を寄せている電気垂直離着陸機(eVTOL)だ。いわゆる「空飛ぶクルマ」、この新しい輸送システムは、今後数年にわたって、都市交通に大きな変革をもたらしそうだ。

近い将来、eVTOLは、小型化、高速化、静粛化が進み、CO2排出の少ない持続可能な「エアタクシー」として機能する可能性は高い。渋滞する道路を迂回し、人や車が密集する都市を飛び越えて、A地点からB地点まで乗客と商品を運ぶ。通勤者は、今では考えられないほど移動時間を短縮できるだろう。

都市航空輸送(UAM)技術は急速に進歩しており、メーカー、オペレーター、インフラプロバイダーなどもeVTOL運用に必要なシステムを構築しつつある。10年以内には本格的な実用が始まる可能性は高い。今後、この都市交通の革命となるeVTOLは、製造、運航、環境整備などを含めて数兆ドルの市場に成長すると見込まれている。

航空会社は新たな技術どうに向き合うべきか

UAMは、間違いなく航空業界にも影響を与えることになるだう。航空会社が自らエアタクシーサービスを提供することもありえるだろうし、スタートアップとのパートナーシップでビジネス化を進めるかもしれない。UAMサービスは、航空会社の新たな収益源になる可能性がある。

整備、乗務員、地上オペレーション、空域管理など新たなコストが必要になるかもしれないが、エアタクシーは、航空会社にとって魅力的な輸送手段となりえる。都市のある場所から空港まで、鉄道や車よりも早く乗客を運ぶことができるため、新たな顧客体験を提供することが可能になる。また、本業の航空事業が持続可能なビジネスに移行するにはかなりの時間がかかると見られているなか、環境の点でもエアタクシーは重要な輸送手段になるだろう。

しかし、長期的に見ると、UAMが航空会社の収益を補うものになるのか、あるいはビジネスの足かせになってしまうのか、まだはっきりしない。技術がさらに進歩し、eVTOLの航続距離がさらに伸びれば、UAMオペレーターは航空会社と直接競合することもありえるだろう。

航空会社は、エアタクシーサービスを域内だけでなく都市間を結ぶ交通手段として考えていく必要がある。ニューヨークの街中で乗って90分でワシントンDCやボストンに到着するeVTOLと、空港まで行き、セキュリティを通過してやっと飛び立つ従来の飛行機と比べるとき、UAMが航空会社のシャトル便の客を奪うことは想像に難くない。

航空会社は、将来的にUAM分野で勝負をするのか、新しいプレイヤーと組むのか、短距離路線でのeVTOLの収益性を慎重に検討していく必要があるだろう。

競争するか、補完するか、それとも無視するか

旅行業界への影響はどうだろうか。たとえばホテル。UAMはホテルとはほとんど関係ないように見えるが、実際にはホテルにとって重要な役割を果たす存在になるかもしれない。UAMの運用には、専用の離着陸スペース、充電、積み込みスペースなど大規模なインフラが必要になる。しかも、アクセスのいい街中にだ。

その意味では、都市の中心部に位置し、屋上、駐車場など広いスペースを持つ大型ホテルは、UAM運用にとって理想的な場所かもしれない。UAMオペレーターにとっても、インフラを迅速に整備できる点で魅力的だろう。もし実現すれば、ホテルにとって新しい収益源となり、新たな客層を増やし、離着陸スペースでのサービス提供などアップセルの機会にもなりえる。空港からホテルに直接移動できれば、そのホテルの存在感は増すに違いない。

また、エアタクシーは他の旅行分野でも新たな機会を生み出す可能性がある。クルーズでは、eVTOLで乗客を輸送することで、顧客体験を向上させることが可能。レンタカー会社にとっては、UAMオペレーターと競合することも考えられるが、一方でホテル同様にインフラを提供することで新たな収益機会となりえるだろう。

旅行会社に必要なことは?

旅行会社が本格的なUAM戦略を必要としているかどうかはまだ分からない。まだ課題は多いが、これからUAM技術とそのインフラがどのように開発され、そしてそれがいつ完成するかに注目が集まる。

UAMの潜在力は計り知れない。旅行会社も実用化までただ待っていればというものではないだろう。まず、潜在的な収益性を定量的に分析し、必要に応じてパートナーを見つけ、時期が来たら市場に参入する準備を進めていくことが必要だろう。

今や、エアタクシーが実用化されるかどうかではなく、それがいつ実用化されるかが問題となっているのだ。旅行会社は、実用化の前にリスクとチャンスを見極めながら、乗り遅れないようにすることが求められている。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:URBAN AIR MOBILITY IS TAKING OFF - EVERY TRAVEL BRAND NEEDS A PLAN