
シンガポールに本社を置くホテル運営会社、ファーイースト・ホスピタリティが日本での展開を加速している。コロナ禍の逆風下に首都圏へ進出が始まった「ファーイーストビレッジホテル」は、今夏、大阪における2軒目を開業。東京、横浜にあわせて5施設が揃った。これを機に「日本でもホテルチェーンとして本格的に展開する成長の第二フェーズに入った」と話す同社の最⾼執⾏責任者(COO)、マーク・ローナー氏に、次の一手を聞いた。
シンガポールを中心に、世界10か国で「ファーイーストビレッジホテル」「オアジア」など、計10のブランドを運営するファーイースト・ホスピタリティ。同社は2025年7月、大阪市中央区のビジネス街で「ファーイーストビレッジホテル⼤阪本町」(165室)をオープンした。これに先立ち同年4月には、道頓堀や難波八阪神社まで徒歩圏の閑静なエリアで「ファーイーストビレッジホテル⼤阪なんば南」(77室)をオープンしている。
これにより、ファーイースト・ホスピタリティが日本で運営するファーイーストビレッジホテルブランドは、東京の有明と浅草、横浜の3軒とあわせて計1000室規模に達し、ホテルチェーンとしての展開が本格化している。
このほどシンガポールから来日した同社の最⾼執⾏責任者(COO)、マーク・ローナー氏は、日本市場について「米国やアジア太平洋の他の都市に比べて、海外からの訪問客数が圧倒的に多い。観光のマクロ経済的な視点から見て、今、最も勢いがある」と話す。大阪で相次ぎ2軒を開業したのを機に、「日本における展開は、成長の第二フェーズに入った。引き続き、中間価格帯のブランドであるファーイーストビレッジホテルの運営受託にフォーカスしていく。5年後までに同ブランドの合計客室数を2000室へと倍増する」との目標を掲げている。
東京、大阪に続く今後の進出先として照準を合わせるのは、京都、そして福岡だ。なかでも京都は「競争は激しいが、インターナショナル・チェーンとして欠かせないロケーション」とローナー氏。続いて、札幌、広島、金沢などへの進出を検討しているという。
来日したファーイースト・ホスピタリティCOO、マーク・ローナー氏。ファーイーストビレッジホテル大阪本町のロビーにて
ローカルのように⾷べる、遊ぶ、探索する
ファーイーストビレッジホテルとは、どのようなホテルブランドなのか?
ファーイースト・ホスピタリティが展開する施設のなかで中間価格帯に位置づけられる同ブランドでは、「ローカルのように過ごす(Live Like a Local)」というコンセプトのもと、宿泊客がその土地ならではの体験を通じて、街に息づく伝統や暮らしに触れられるような⼯夫が随所にちりばめられている。「ホテルは地域コミュニティと旅行者をつなぎ、その魅⼒や個性を伝える“ガイド役”であるべき」との想いを込めたのが「ビレッジ」ブランドだ。
こうした考えを象徴する同ホテルのアイコン的存在が、チェックインしたゲストに配布している赤い小冊子、「ビレッジ・パスポート」。内容はホテルごとに異なり、道頓堀や大阪城公園のような代表的な観光名所に加えて、各ホテル周辺で地元の人に愛されている散策スポットやシェアサイクル、商店街、飲⾷店なども紹介している。ローカルのように食べる、遊ぶ、探索するひとときを、ゲストに楽しんでもらうことが狙いだ。
例えば、ファーイーストビレッジホテル大阪なんば南では、海鮮やフルーツなどが並ぶ木津卸売市場や創業160年の和菓子の老舗、ファーイーストビレッジホテル大阪本町では、せんば心斎橋筋商店街などをビレッジ・パスポートに載せている。
同時に、大阪の2施設では、日本での電車利用時やゴミ捨てに関するマナー、簡単な日本語の挨拶など、訪日旅行中に知っておくべき小さなアドバイスも記載している。
ローナー氏は「ツーリズムの発展が地域に資するものになるためには、我々ホテルが進出先の地域の文化を尊重することは非常に重要」と話す。また日本は「世界の他の国と比べて、文化的規範がしっかり根付いている国」との認識を示し、これを訪日旅行者に理解してもらうことが、オーバーツーリズム、マナー問題などの解決のカギになるとの見方を示した。
ファーイーストビレッジホテル大阪なんば南のファミリー向け客室。ソファベッドがあり、荷物スペースも他の客室より広い。館内にはキャッシュレス対応のランドリーも
中間価格帯ホテル運営のノウハウが強み
同社がファーイーストビレッジホテルの拡大に力を入れる背景には、日本市場において、中間価格帯のホテル・セグメントが最も商機があるとの見方がある。このカテゴリーの供給客室数は、需要に追い付いておらず、リブランドを検討している既存の独立系ホテルも多いため、「当社がシンガポールで培ってきた質の高いホスピタリティ、効率的な業務プロセス、経営理念などが役立つ」(ローナー氏)と考えている。
ファーイースト・ホスピタリティの強みについて、ローナー氏は「我々が最も重要視しているのはカスタマーサービスだ。ファーイーストビレッジホテルの価格帯は中間クラスだが、カスタマーサービスはアップスケール・クラス、あるいはそれ以上のものを提供するノウハウを構築してきた」と自信を示す。
既存のファーイーストビレッジホテルの運営状況は好調だ。有明、浅草、横浜の首都圏3軒と4月にオープンした大阪なんば南の4軒は、いずれも客室稼働率が80%台半ばで推移している。
「客室規模が決して小さくない東京有明(306室)や横浜(277室)の施設でも、この稼働率を実現できている」とローナー氏は満足気だ。さらにファーイーストビレッジホテル大阪なんば南では、開業からわずか2か月半で同様の稼働率を達成。大阪エリアへの旅行需要の高さも改めて実感しているという。
ファーイーストビレッジホテル大阪本町の客室。ビジネス街へのアクセスが良く、法人需要もターゲット
顧客セグメントのバランスが良く、今後のモデルケースになると考えているのは、東京有明の施設だという。「ホテル近隣で開催されるビジネス・イベントに参加する国内客からインバウンド旅行者まで、幅広い客層からの利用がある。都心のホテルが混雑し、価格も高騰しているため、より手ごろな選択肢を探している利用者から支持されている」(ローナー氏)。
訪日インバウンドのレジャー需要が注目されがちな昨今だが、ホテルのリピート率を押し上げるのは法人需要であり、重要な顧客ターゲットだ。「物価上昇に伴い、出張コストを削減したい企業が増えているので、同ブランドをコーポレート市場に訴求するタイミングとしても申し分ない」(同氏)。特にビジネス街からのアクセスが便利なファーイーストビレッジホテル大阪本町については、コーポレート市場への訴求に力を入れていく方針だ。
日本向けにローカライズした自社ウェブサイトの展開も強化する予定で、今秋のローンチを目指して準備している。「顧客調査の結果、日本の消費者の嗜好は他国と少し異なることが明らかになった。シンガポールや他市場とは違ったデザインにする」(同氏)。
ウェルネス志向のホテル展開も視野に
将来的には、ファーイースト・ホスピタリティが展開する複数ブランドを日本で運営することも視野に入れている。有力候補は、ウェルネスをコンセプトにしたライフスタイル・ホテル「オアジア(OASIA)」だ。名称の由来は「オアシス」と「アジア」。同社の最上位ブランド「ファーイースト・コレクション」の次に位置するブランドで、平均客室単価は200~300シンガポール・ドル(約2万3000~3万5000円)。ヨガ、マッサージ、ジョギング・トラックなど、健康や活力回復につながる体験が充実したホテルで、都市でもリゾートでも展開できるのも魅力だ。
最上位の「ファーイースト・コレクション」に関する問い合わせを受けることもあるという。同コレクションは、シンガポールの「ザ・クラン・ホテル」やセントーサ島の「ザ・バラックス」など8軒。それぞれの歴史的背景や個性を保ちつつ、予約システムや流通ではスケールメリットを生かしている。
ローナー氏は「あらゆる機会を大切にしながら、日本でのプレゼンスをより強固なものへと拡大してく。ファーイースト・ホスピタリティが培ってきたホテル運営の知見を活かして、日本で多くのパートナーと共に成長していくことを楽しみにしている」と、さらなる展開拡大への意欲を示した。
ファーイーストビレッジホテル大阪本町エントランス
※ 1シンガポール・ドル=115円で算出
お問い合わせ:本社マーケティング担当(Email)tetsuya@fareast.com
記事:トラベルボイス企画部