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水上交通や航空会社が描く「持続可能なモビリティ」の未来、水上交通の取組みから、航空会社の地域貢献まで

2025年8月、フィジーで国際カンファレンス「グローバル・サステナブル・ツーリズム・カンファレンス2025(GSTC2025)」が開催された。GSTCは、持続可能な旅行・観光のグローバルな認証基準を管理・運営する国際非営利団体。2日間に渡るカンファレンスでは、世界から集まった旅行・観光業界の経営トップや、各地域の専門家らが持続可能な観光の実現に向けた道筋を議論した。

そのなかで、「港から空へ ―持続可能なモビリティの未来を形づくる」と題したパネルディスカッションでは、持続可能な移動手段と地域への貢献が討論された。

登壇したのは、水上タクシー事業を手掛けるチャッコ・ダイク氏(Water Taxi Company)、水上飛行機を運航するバート・ファン・ダー・ステーグ氏(Harbor Air)、そして日本航空(JAL)の土橋健太郎氏。異なる領域で活動する3社が、持続可能な観光とモビリティの現状と将来像を語り合った。

水上タクシーが変える「最初と最後の1マイル」

水上タクシー事業を手掛けるダイク氏は、都市計画と環境保護の視点から水上移動の価値を説明した。

タイ・プーケット島での、空港とホテル間を車でなく電動ハイドロフォイル船で結ぶ構想を紹介した。これは、プーケット国際空港からリゾートエリアへの移動時に発生する交通渋滞への課題解決として検討されているもの。「陸上移動の渋滞や排出ガスを避け、到着からの移動そのものを、海上移動という『体験』に変える」と語る。浮桟橋の活用や現地事業者との協業により、環境負荷を減らしつつ観光地の魅力を高める仕組みを目指している。

また、ダイク氏は地域コミュニティとの信頼構築を重視。「外部から事業を持ち込むのではなく、現地オペレーターが主役となるモデルをつくる」と述べ、観光収益の地元還元や環境保全活動との連動を軸に据える考えを示した。

カナダ西海岸発、電動の水上飛行機の挑戦

続いて登壇したファン・ダー・ステーグ氏は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で300便以上を運航するHarbor Airのサステナビリティ戦略を紹介。同社は2007年に航空業界初のカーボンニュートラルを達成し、2019年には世界初の電動商用機の試験飛行に成功した。

現在はカーボンオフセットから「インセッティング」へと転換し、運賃に含まれる環境負担金を自社の電動航空機開発や研究開発に直接投資している。インセッティングとは、カーボンオフセット(温室効果ガス排出の相殺)を、外部の事業で相殺するのではなく、自社の事業領域内でおこなうこと。「顧客も目的が明確な取り組みを歓迎している」とし、充電インフラや規制対応の重要性を強調した。

JALが描く「目的地と共に成長する航空会社」の姿

最後に登壇したJALの土橋健太郎氏は、自社の環境・社会・経済を結びつけた持続可能性戦略を説明した。JALは2050年までのゼロカーボン実現に向け、機材更新や軽量化、運航効率化を推進。さらに、顧客参加型の「サステナブルチャレンジ」を展開している。

この取り組みでは、同社の羽田/沖縄、羽田/ニューヨーク、羽田/ホノルル線などで、持続可能な航空燃料(SAF)の使用と、現地でのビーチ清掃や植樹などの体験プログラムを組み合わせている。特にホノルル線では「マハロフェア」の名称で新運賃を設定し、売上の一部をハワイ州へ寄付。現地での人材育成や環境プロジェクトを支援している。

また、具体的な事例として、鹿児島県与論島での支援を紹介。宿泊税導入による財源確保、観光DXの推進、ブランディング強化などを行い、GSTC基準に沿った持続可能な観光地づくりを支援している。土橋氏は「地方にはまだ知られていない優れた観光資源が多く、こうした地域の持続可能性を高めることは航空会社の責務」と強調した。

JALの土橋健太郎氏 

共通課題は規制とインフラ、港から空へ視点転換

3者の討議では、共通して抱える課題として、規制とインフラ整備が挙げられた。ステーグ氏は「充電設備が整わなければ電動機の導入は進まない」、ダイク氏は「水上モビリティのための浮桟橋や航路規制の緩和が必要」と指摘。土橋氏も「技術や社会状況の変化に合わせて規制を見直す柔軟性が重要」と応じた。

パネル後半では、空港アクセスや離島交通での協業可能性が話題に上った。日本には400以上の有人離島があり、その多くは空港を持たない。それに対しては、水上タクシーや水上飛行機の活用で、観光動線のシームレス化と環境負荷低減が可能になるという見方で一致した。

土橋氏は「小型機や船と組み合わせれば、空港から直接リゾートや観光地へ移動できる。観光体験の質向上にもつながる」と述べた。

経営面については、持続可能性と収益性のバランスが議論された。土橋氏は、「利益確保は当然だが、空港を含む地域コミュニティ全体が持続可能でなければならない」と語った。ステーグ氏も「持続可能な取り組みはコスト高だが、顧客は価値ある企業にお金を使いたいと考えている」と述べ、長期的視点の必要性を訴えた。

セッションの締めくくりに、3社はそれぞれの気づきを共有。ダイク氏は「陸上の道路を使わない移動手段同士が協力すれば、旅行者にシームレスな体験を提供できる」、ステーグ氏は「同じ顧客を共有しているからこそ連携の余地がある」と述べた。土橋氏は「水上や小型機という新しい選択肢は、航空会社にも新たな視点を与えてくれた」と総括した。

右からJAL土橋氏、Water Taxi Companyダイク氏、Harbor Airステーグ氏

トラベルボイス代表 鶴本浩司