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旅行分野でグーグル「AIモード」はどのように使われているか? 宿泊やアクティビティ予約の活用が浮き彫りに【外電】

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人工知能(AI)が、旅行プランニングや予約において、急速にその存在感を強めている。自然言語検索やチャットGPTなどの大規模言語モデル(LLM)の普及が理由だ。対するグーグルも、未来型の検索サービス提供に向けて動いている。その一端を担うと目されているのが、今年始めに登場した同社のAIモード機能だ。

旅行デジタルマーケティング会社のPropellicでは、グーグルのAIモードを旅行者が実際にどう扱っているのか、旅行マーケターはどう対応するべきかを調査。2025年9月初旬にウェビナーを開催し、「AIによって激変している旅行予約の各ステージ」について、同調査結果から明らかになったポイントを取り上げた。

グーグルのAIモードとは、ユーザーの質問に対して検索エンジンではなくAI「Gemini」が1つの答えを生成して表示するモード。Google検索の結果ページに表示される「AIモード」タブから利用することができる。従来は複数回の検索が必要だった長い質問を一回の検索で回答。旅行分野では、地域のおすすめの検索、旅行計画などで活用が見込まれている。

調査では、米国在住の42人に協力してもらい、「リアルな旅行で、グーグルAIモードに実際に聞いたトラベル関連の質問」計7項目について調べた。具体的な質問の例は、「ラ・キンタ(ホテル名)って、衛生、安全、価格面ではどう?」「ロンドンに行きたい…ハリー・ポッター見て…観光ツアーとか…博物館も色々」。こうした質問に端を発したやり取りについて、画面や音声を記録してどのように展開したのかを追った。ユーザーがどのように質問するのか、回答の中でユーザーの関心をひいたもの、実際にクリックされたリンク、そのほかの反応を調べた。

予約経路は、ホテルや体験の直接予約が優勢

最も注目を集めたのは、AIモード上での予約経路の変化で、オンライン旅行会社経由(10%未満)よりも、宿泊施設や体験アクティビティ(56%)への直接予約が大多数を占めたことだ。

サプライヤーに直接問い合わせることが、旅行者にとって以前ほど大変ではなくなっているため、OTA側は自らの存在価値を見直し、生成エンジン最適化(GEO:Generative Engine Optimization)への投資を急ぐ必要があるとPropellicは説く。

「一方、有利な状況にある直接予約サイトも、GEO施策を放置していたら、あっという間に形勢逆転となるかもしれない。今は、それほど大きな予算をかけずに、費用対効果を改善するチャンスだ」と同社のオペレーション担当シニアディレクター、ポール・テディ氏は話した。

同調査のデータ分析に携わったフォーカスライトの調査&イノベーション担当シニア・マネジャーで、ウェビナーにも登壇したマイク・コレッタ氏は、こうした結果に驚いたと話す。「なぜなら一般論として、AIが情報源としてより好む傾向にあるのは、しっかり整理されていて、標準化された情報のある大手プラットフォームなのだから」と説明した。

「この先、中期的にはOTAが有利になるのではないか。各社とも、AIへの最適化や広告での活用に乗り出している。だが長期的には、AI普及によって、在庫を持つサプライヤーがより有利になり、情報処理にかかるコストや手間の負担も大した問題ではなくなる」と同氏は見ている。

また、AIモードがもっとも活用されていたのは、時間がかかる旅行プランニングの段階だった。Propellicでは、ユーザーが「自分の選択が、本当に間違っていないかを確認する」ために、AIモードの諸機能を活用していたと結論づけている。

同調査参加者たちの場合、旅行プランニングには平均104秒を費やし、ブラウザしたり、選択肢を比較したり、追加の質問をしていた。これに対し、予約段階では約38秒。ほとんどの人は、選択肢を決め終わると、グーグルから離れた。

予約を決める前には、レビュー(クチコミ)を吟味したり、「安心できる要素」を検討するために、動きが「スローダウン」した。正確かつ明快な回答が「すっきりと表示」されており、それ以上、検討する必要がないことが好評価となった。

信頼を築き、維持する

Propellicは、調査参加者がAIを信頼していた点に加え、グーグルのAIモードが提示した各ブランドを正確で有用と評価していた点を留意するべきとしている。最終的なタスク終了後の信頼度スコアは、5点満点で4.3点以上だった。

一方、フォーカスライトがまとめたレポート「チャット、プラン、予約:生成AIがすべての主流になる(Chat, Plan, Book: GenAI Goes Mainstream)」によると、チャットGPTなどの生成AIの回答を信頼していると答えた旅行者は、全体のわずか37%だった。

「調査結果の食い違いは、AIモードへの信頼度が、他のAIツールよりも高いからかもしれない」というのが、フォーカスライトのリサーチマネージャー マイク・コレッタ氏の見方だ。

Propellicでも、「今すぐ予約を」「登録しよう」など、次のアクションを急かすメッセージがウェブサイト上に出ると、ユーザーはイライラしていたと指摘しており、AIモードへの信頼も盤石ではないことが伺える。

「フォーカスライトがまとめた『チャット、プラン、予約の調査レポート』では、回答した旅行者の34%が、生成AIプラットフォームが利用可能になったら、予約時に使ってみたいとの結果だった。予約までの流れがカギで、もっとスムーズにする必要がありそうだ」とコレッタ氏は話す。

「旅行ビジネスにおけるMCP(Model Context Protocol、AIと外部データやサービスをつなぐ標準プロトコル)やA2A(Agent-to Agent、AIエージェント同士をつなぐオープンプロトコル)サービス実現まで、まだ先は長い。問題は、消費者がどこまで辛抱強く待ってくれるかだ。メタサーチのインフラを持つグーグルは、開発を急ぐことができるという点で有利だ」(同氏)。

結果から明らかになったこと

そのほかにも、Propellicの調査からは様々なことが明らかになった。AIモードが提示したインラインのリンクは、ユーザーからのクリック率が高かったこと、旅行者が使っていたのは、より長い会話型のプロンプトであることなど。企業各社には、これまでのキーワード・ターゲティングから、包括的な問いに対応できるよう、軌道修正が求められている。

調査の参加者たちは、「グーグル・ローカルパック」をクリックするか、インラインのリンクをクリックしてパネルの右側にビジネスプロフィールを開き、ウェブサイトやレビュー、価格や写真をじっくり見ていた。

調査期間中に参加者が開いたグーグル・ビジネスプロフィール・カード(クチコミなどが投稿されているプロフィール情報)は計141枚、様々な機能の利用は113回、旅行プランニング目的でのカード滞留時間は約13秒、予約目的では4秒。特定のプロフィールに関心を持つと、そのあと、他にはあまり目がいかなくなる傾向も、特筆すべき点として挙げている。

Propellicでは、こうした情報ページの内容を最適化し、旅行者のニーズに合った情報を提供することが、旅行ビジネスにおいて欠かせないとしている。

「グーグル・ビジネスプロフィールを即、整えて、あらゆる情報を入れること。それも今すぐに」と同社のシニアSEOマネジャー、エリック・ウィムサット氏は話す。

「グーグルはこうした小型のローカルパックをAI対応向けに仕込んでいるところだ。ユーザーとのやりとりは始まっており、従来の検索結果は消えていく。グーグル・ビジネスプロフィールは、今やローカル情報というより、店の正面玄関だ。(入口は)ウェブサイトではない」

未来に向けて

PropellicのCEO、ブレナン・ブリス氏は、ユーザー行動を調べる今回の調査では、参加者たちの協力は不可欠だったと振り返った。各人には7つのタスクを完了してもらった。全体では、300以上の予約体験を追跡し、7万1000字分のやり取り、何千回ものクリックと様々な操作動向を調べた。

「行動パターンはすぐに浮き彫りになり、繰り返された。ニールセン・ノーマン・グループのユーザーエクスペリエンス専門家の話では、調査参加者が5~10人ぐらいでも、しっかりした傾向は把握できるそうで、今回の42人分のデータは非常に充実しており、信頼できる」との考えだ。

同社の調査結果は、グーグルAIモードが今後、旅行の検索に欠かせないものになる可能性を示唆しており、理由の一つは、ユーザーがAIを使いたがっていることだ。旅行マーケターも、先入観を持たずに、戦略を練り直すべきだろう。

「これまでずっと旅行マーケティングとは、“夢を描き、プランを練り、予約する”ためのキャンペーンを立案するものだった」とブリス氏。

「大規模言語モデル(LLM)の登場により、ファネルの各段階の境界線があいまいになっている。混沌としたファネルをどうコントロールし、AIのエコシステムに収めていくかが、これからの勝負だ。このやり取りを支配することが、旅行者獲得につながる」。

コレッタ氏も同じ意見だ。フォーカスライトのレポートによると、米国の場合、検索エンジンを使って旅行プランを立てている旅行者の22%が、すでにAIが生成した検索結果を活用している。

「今はまだ初期段階だが、AIモードが完全稼働すれば、旅行を考えている多くの人から支持されるようになるだろう」(コレッタ氏)。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Study tracks how travel shoppers use Google’s AI Mode

著者:Abby Crotty