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欧州35観光局が加盟するヨーロッパ観光委員会CEOに聞いてきた、夏の酷暑で変わる新たなトレンドから、サステナビリティの取り組みまで

欧州観光委員会(ETC) エグゼクティブディレクターCEO のエドゥアルド・サンタンデール氏が来日し、トラベルボイスとの単独インタビューで、欧州におけるサステナビリティの取り組み、日本の旅行業界とのパートナーシップ、ETC加盟国の協調体制などについて語った。

欧州は、海外からの旅行者の受け入れで世界を牽引している。2024年のフランスへのインバウンド旅行者は前年比2%増となり1億人を超え、スペインも同10%増の約9400万人で世界第2位を維持した。欧州全体では同5.5%増の約7億5000万人に達した。

今後も増加が見込まれるなか、サンタンデール氏は「ETCとしては、数を話題に上げることはない。我々が語るのは持続可能な成長をいかにして管理していくかだ」と話す。そのうえで、「これまでとは異なる方法で、また、責任ある方法で、旅行者に新しい欧州を発見してもらう取り組みを進めていく」と続けた。

長期滞在と地域との交流で地域経済活性化

世界の旅行者の旅行頻度が増え、成熟した旅行者は旅行先よりも本物の体験を求める傾向が強まっているなか、サンタンデール氏は「訪問して、すぐ立ち去る(touch and go)旅行ではなく、長く滞在し、地域との交流を深め、地域の経済に貢献できるような旅行を推進し、旅行者の満足度を高めていく」と力を込める。

観光による地域活性化は、サステナビリティの文脈でも世界的かつ今日的課題。サンタンデール氏は、その認識を共有しつつ、「あまり知られていない地域、ピークシーズン以外の季節の旅行者の誘致を進めていく」と話し、需要の分散化に取り組む方針を示した。そのうえで、「それはチャレンジであり、ポテンシャルでもある」とした。

また、分散化や多様化を進めていくためには、「デジタルツールが重要になってくる」とも指摘。EUも自治体や旅行業界のデジタル化を進めていることから、ETCとしても、旅行者の意識改革や従来とは異なるコンテンツの紹介などの訴求、さらにサステナブルツーリズムに向けた業界のスキル向上でも活用していく考えだ。

夏の新たなトレンドとして「クールケーション」も

サンタンデール氏は、サステナビリティに対する取り組みとして、気候変動対策にも言及した。

旅行業界は輸送も含めて二酸化炭素排出量の多い業界との認識のもと、「将来に向けて、業界内でオープンな議論を進めていく必要がある」と強調。「業界の変化を回避する言い訳を探すのはやめなければいけない」と続けた。

また、温暖化による夏の酷暑は、欧州でも問題となっており、夏のバケーションシーズンでは、暑さが深刻な南欧を避けて北部に旅行先を変更する、いわゆる「クールケーション(Coolcation)」が新たなトレンドとして注目されている。このことから、新たな人流にも注視していく。

このほか、「欧州では鉄道網が発達している。電気自動車やシェアリング交通など、さまざまな移動オプションもある」と話し、CO2削減の観点から、欧州での公共交通機関による移動を推奨した。

「時間があれば、北海道でスキーを楽しみたい」と話すサンタンデール氏。

日本の旅行業界との協業を強化

ETCは、日本市場復活に向けて、日本の旅行業界とのパートナーシップを強化している。日本旅行業協会(JATA)とは、新たなプロモーション「美味しいヨーロッパ(Gastronomy Europe)」を開始。「食文化に関する祭り」や「サステナビリティ・ストーリー」などヨーロッパの食文化を多角的に紹介している。

サンタンデール氏は、この取り組みの背景について、日本人旅行者にとって食が大きな観光コンテンツになっていることに加えて、「旅行の動機は、旅行先ではなく、興味や関心などのパッションにシフトしている」と指摘したうえで、「このプロモーションでは、単なる飲食だけでなく、生産、食材、職人技、レシピ、伝統文化などその背後にあるストーリーを伝えていく」と説明した。

また、ETCは2024年11月に欧州旅行の販売強化を目的にJTBと基本合意書(MOU)を締結した。新しいサステナブル商品の開発、渡航機運醸成イベント、消費者向けキャンペーンなどを展開している。さらに、サンタンデール氏は「両者で知見を共有するのも大きな目的。気候変動対策、オーバーツーリズム、危機管理など共通の課題に対してベストプラクティスを共有できると思う」と期待感を表した。

欧州への日本人旅行者は回復基調にある。経済的、地政学的リスクは残るものの、サンタンデール氏はこの回復傾向は続くと見ている。そのなかで、キーワードとして3つの「U」、「Unlocaled(新たな扉を開ける)、Unexpected(予想を超える)、Upgraded(これまで以上)」を挙げ、「これまでとは違うやり方を考え始めなければならない」と意欲を示した。

共通のトピックで観光局同士の協業も

ETCには現在、35カ国の観光局が加盟している。フランスやスペインなどの観光大国から、観光発展途上の国々までさまざまだ。サンタンデール氏は、ETCの役割として「共通の基盤に立ち、優れた事例を共有し、共通の課題に取り組み、欧州のすべての観光地の観光価値を高めること」と説明する。

そのなかで、異なる国の観光局同士の共同マーケティングキャンペーンにも期待を寄せ、「異なる国でも共通のトピックで協業できる」と話した。フランスとフィンランドは2024年に2カ国合同の視察旅行を旅行会社向けに実施。愛知県で開催された「ツーリズムEXPOジャパン2025」の欧州ブースでは、観光局など22社・団体が共同出展した。

「35カ国の声を統一するのは意義のあること。その取り組みが業界のイノベーションを生み、旅行者のモチベーションを作り出す」とサンタンデール氏。「欧州の観光を次のステージに引き上げていく」と今後を見据えた。

トラベルジャーナリスト 山田友樹