オンライン上のUI・UXを磨き上げ、予約までの速さや利便性で支持を得てきたグローバルOTA。AIの進化で、その競争軸は変わり始めている。
今秋開催されたツーリズムEXPOジャパン2025の会期中、世界大手OTA「Trip.com」のブース内でトークショーに登壇した同日本法人代表の高田智之氏は、タビマエからタビナカ、タビアトを一貫してカバーする同社のサービスを紹介。「インターフェースの利便性」から「旅行体験そのものの利便性と安心」へと提供する価値の軸を変えつつあることを強調した。
高田氏が話した内容から、AI時代に同社が注力するポイントを整理した。
アプリをハブに旅をサポート
ツーリズムEXPOジャパンの業界日である2025年9月25日と26日、Trip.comは出展ブースで、同社のサービスやサポートの紹介のほか、旅行トレンドや地域観光の未来などをテーマにトークショーを開催した。そのなかで、高田氏が最も力を込めた発言は以下だ。
「従来のグローバルOTAは、いかにクリック数を減らし、スムーズに予約へ誘導できるか。トランザクションの最適化が競争原理の1つだった。しかし、AIが発達し、パーソナライゼーションが加速している現在は、旅行という無形商品を販売する責任と、それに伴う人とテクノロジーを活用したサポートが、ユーザーに安心を与える要素になる」(高田氏)。
これを象徴するのが、Trip.comのアプリだという。ホテルや航空券、アクティビティなどの予約はもちろん、空港送迎やeSIM、通話(オンライン環境下で無料)、翻訳、為替計算、旅のSNSなど、旅に必要な情報やサービスの窓口を集約し、タビマエからタビアトまで一貫したサポートを提供。OTAだが、テクノロジーだけでなく、人もあわせた“手厚さ”が特徴だ。
例えば、空港送迎では搭乗便を登録すると、空港到着時にドライバーから自身の顔写真や車体の画像、集合場所などが届く。フライトの遅延時も追加料金なしで自動で調整されるので安心だ。高田氏もチェンマイへの出張時、予定より早く到着したため、アプリのチャットで連絡したところ「すぐに対応してもらい、安心した」という。
Trip.com International Travel Japan 代表取締役社長の高田智之氏
AI開発はパーソナライゼーションと同義
AIの活用では、AIトラベルアシスタント「TripGenie(トリップジーニー)」を開発し、アプリに搭載していることを紹介。リアルタイムの翻訳に対応し、レストランのメニューをカメラで読み取って料理名の翻訳とともに、その特徴を表示したり、観光スポットの画像認識で日本語でのガイドを提供したりする。
また、Trip.comの予約・検索データやユーザーレビューなどをもとにした都市別の観光スポット、レストランなどの各種ランキングや、旅の体験を共有するSNS機能も提供。これらの表示から、予約も可能だ。高田氏は自身がチベットを訪れた際、ランキングから宿泊ホテル近くのレストランを予約し、その利便性を実感したエピソードを披露。「土地勘のない場所だったが、満足度の高い食事ができた」と話した。
高田氏によると、Trip.comではAI開発を事業者向けと消費者向けの2つの軸に分けている。そして、消費者向けは「消費者にとってメリットがある存在であることが前提。AI開発は、ある種のパーソナライゼーションを進めることと同義」と説明。「AIに自社が持つデータをインプットすることによって、より深みのある提案ができる」と話し、OTAがAIを活用する強みを強調した。
一方、人によるサービスでは、24時間の日本語サポートを提供。東京の田町にコールセンターを構え、約100名体制で自社運営をしている。「プロダクトや技術、セールス、コールセンターの各チームが密に連携し、問題やエラーに社内で対応できるのが強み」(高田氏)。品質管理についても「日本の商習慣や法令の順守を全社で徹底している」と強調した。
予約・検索動向から見える旅行トレンド
高田氏は、Trip.comの予約や検索データから見えた旅行トレンドに触れ、マーケットの課題も指摘した。
アウトバウンド(日本人の海外旅行)は、欧州やハワイなど長距離方面の回復の兆しが見られるが、戻っているのは「為替の影響で控えていた、従来の海外旅行の客層が中心」と説明。その他の潜在層が旅行を検索しても予約に至らない背景として「言葉や現地移動への不安など、心理的なハードルがある」と分析した。そのうえで、同社の各種サービスやカスタマーサポートなどが「不安を減らし、海外旅行の後押しになる」とアピールした。
訪日インバウンドは、近隣アジアからの地方路線の就航増により、地方への旅行も増加している。ただし、高田氏は訪日旅行の“お得意様”である韓国市場の変化も指摘。今年上半期から下半期にかけて、ソウル発上海行きのフライト予約が東京行きを上回る傾向だという。
その背景には、上海のホテル価格の下落がある。5つ星クラスのホテルでも3泊10万円台で宿泊できる価格も見られたという。高田氏は「潮目が変わる可能性がある。日本への誘客では、受け入れ整備と地方の魅力の見せ方が重要になる」と話した。
ツーリズムEXPOジャパン2025の業界日2日目は、ゲストの航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏さんと、旅行動向や最新トレンド、旅とAIの可能性などをテーマにトークセッションを実施