2026年の旅行トレンドはどうなるのか? 旅のカタチはどのように変容し、何に、どんな場所にスポットライトが当たるのか?人々はAIを使いこなし、コストや計画時間を最適化する一方、旅先には「自分らしさ」を映し出す鏡としての価値を求め、ウェルネスへの関心は科学的な領域へと深化している。
今回はグローバル展開するトラベル業界から、Booking.com、スカイスキャナーをはじめとした主要各社のトレンド予測をトラベルボイス編集部が横断的にチェック。5つの主要テーマにまとめた。
参考としたのは、Booking.com、スカイスキャナー、Trip.com(トリップ・ドットコム)とGoogle、Agoda(アゴダ)、Airbnb(エアビーアンドビー)、シックスセンシズ、アメリカン・エキスプレス・トラベル、エクスぺディア・グループの予測レポート。
自分らしさを体現する体験設計が不可欠に
まず、大半の旅行トレンドレポートが指摘したのが、「パーソナル」への強い欲求だ。Booking.comが「The Era of YOU - 自分らしさ」と掲げ、すなわち慣例的なスタイルを離れ、“自分らしさ”を体現する舞台になると予測したのに象徴されるように、単なる観光を超え、これまでの画一的な旅とは全く異なり、自己表現を投影するようなパーソナルな旅をより求めるようになるという点で、各社の予測は共通している。
スカイスキャナーは、本の世界を旅する「読書の旅(G-read-y for a trip)」を提唱。SNSの喧騒を離れ、小説の舞台をめぐったり、静かに読書に没頭できる場所を選んだりする知的な自己表現としての旅も注目されている。こうした旅のパーソナル化は、ライフスタイル、生活の延長線上に及びつつある。Booking.comは「キッチン棚に旅の物語を(Souven-ish stores)」と題し、旅行者が単なる置物ではなく、現地の高級食材や調理器具を買い求め、帰宅後の日常(キッチン)で旅の記憶を再現し、ゲストに振る舞う「自己表現の延長」としての消費動向を取り上げている。
また、Airbnbによると、同社のプラットフォーム上で2025年に検索された日程と都市の65%が冬季オリンピック、FIFAワールドカップ、音楽フェスティバルなどと重なっているという。「ライブツーリズム」の台頭ともいえ、同社は「ユニークな冒険とグローバルな旅を通じて、自分自身の“メインステージ(Main Stage Tourism)”の瞬間を求めている」と指摘。同時に、山、海岸線、島々など、よりゆっくりとしたペースで内省を促す景色のよい逃避行を、「誰かと一緒」ではなく「自分の時間」を優先する小旅行として企画しているとした。
アメリカン・エキスプレス・トラベルの調査でも、旅行者が自らのアイデンティティや価値観に沿ったインスピレーションを重視し、独自のストーリーを持つ目的地を選ぶ傾向を指摘している。
ウェルネス、科学と内面への欲求が共存
健康志向は2026年、より高度で科学的なアプローチへと突入しそうだ。ウェルビーイングに関する詳細なレポートを発表したのは、世界22カ国に27軒を展開するIHGホテルズ&リゾーツ系の高級ブランドであるシックスセンシズだ。
同ホテルでは睡眠トラッキングやDNA検査などの先端的なバイオハッキングを伝統的なヒーリングに融合させ、滞在中に深い効果を引き出す「Integrated Wellness(食事、睡眠、アクティビティなど滞在のあらゆる要素にウェルネスを組み込む統合的アプローチ)」の提供に力を入れている。「ミレニアル世代やZ世代はウェルネスに多くを投資し、米国では84%、中国では94%がウェルネスを最優先または重要と考えている」といった参考資料を提示したうえで、「即効性だけを求める発想は過去のもの。自宅でも旅先でも体験全体を通じたウェルネス・エコシステムが求められ、“行う”から“在る”へと進化している」などとコメントした。
同様に、Booking.comは、具体的な旅行スタイルとして、AIによる肌分析と気候に合わせたパーソナライズケアを組み合わせた「美肌・ビューティーテック旅(Glow-cations)」を紹介し、「2026年は2025年の没入型リトリートの旅に代わり、ウェルネス旅行がかつてない盛り上がりをみせるだろう」と言及した。
また、Trip.comの予約データとGoogleの検索データを組み合わせて分析したレポートでは「ウェルネス旅行は、身体的チャレンジとリラクゼーションの両立がポイント。ゴルフ&スパ検索は300%増、スキー&スパパッケージの検索は250%増と、癒しとアクティビティ体験を組みわせた旅行が拡大している」との結果を示した。
一方で、科学的なアプローチが強まる一方で、「内面」も重視されそうだ。シックスセンシズは、寿命を延ばすだけでなく「何のために生きるか」という目的意識を養う旅が、真の健康長寿につながると指摘。AIによる生体モニタリングと、古代の呼吸法や瞑想が共存するハイブリッドなウェルネスが、次世代のスタンダードとなるかもしれない。
国内旅行の再発見、地方シフト進む
デスティネーション選びについては、複数のレポートが日本人をはじめ自分の国への旅が増え、定番観光地から地方へのシフトが進むだろうと予想している。
アジア地域全体の旅行者動向を調査しているAgodaは、「アジアの旅行者の間では“自国を再発見する旅”への関心が高まっており、国内の隠れた魅力や地方都市を訪れる旅行スタイルが拡大している」と言及。全体の3人に1人(35%)が「自国をより多く旅する」と回答し、昨年の15%から増えたと明らかにした。特に日本人旅行者の回答が67%と顕著で、前年の20%から急上昇。費用の安さ、情報の探しやすさが主な理由である一方、「身近な場所でより充実した体験を求める、日本人旅行者の価値観の変化を示している」とも指摘している。
また、スカイスキャナーの独自のフライト検索データに基づいた調査では、特に輪島(前年比83%増)の伝統文化や、紋別(66%増)・中標津(61%増)、稚内(55%増)の流氷・牧草地など、「手つかずの自然」や「復興」を軸にした地域への検索数が急増している。こうした地方への関心は、国内旅行者、インバウンド旅行者ともに、近年の猛暑を避けるための「クール・ケーション(涼しい場所での休暇)」や、心身の回復を目的とした山間リトリートといったニーズとも呼応している。スカイスキャナーは、山岳地域の静かな環境に身を置きたいとの考え方をトレンドの一つとして挙げた。
こうした動きは訪日インバウンド旅行者も顕著で、スカイスキャナーによると、韓国発・旭川(476%増)、英国発・高知(206%増)、フランス発・宮古島(257%増)など、定番のゴールデンルートを離れ、よりエキゾチックでディープな日本体験への関心が高まっている。
特に沖縄の人気は総じて高く、アメリカン・エキスプレスのカード会員の予約状況などから選出した「2026年に訪れるべき世界の旅行先10選」では、2024年のニセコ、2025年の日光に続き、沖縄が選出。エクスペディア・グループが2024年と2025年の検索動向を比較した2026年の注目旅行先としても、検索増加率が前年比71%となった沖縄が2位となっている。沖縄は同社の新制度である、旅行者にとって魅力的な体験を提供しつつ、観光が地域に過度な負担をかけないよう配慮している旅行先を評価する「スマート・トラベル・ヘルスチェック」にも認定されている。
「短期・高頻度」、「超・効率」な旅の定着
各社のレポートでは、旅行の期間や頻度にも明確な変化が現れるのではないかとの指摘が目立つ。Agodaによると、アジア全体で「短期・高頻度旅行」が主流となりつつあり、旅行者の35%が年間4〜6回の旅行を予定。特に日本人は「マイクロトラベラー」志向が地域内で最も強く、59%が「1〜3日の短期旅行」を計画している。
この背景について、Agodaは「大規模な旅行を年1回行うよりも、身近な場所で何度もリフレッシュすることで、生活の質(QOL)を維持しようとする心理が働いている」と分析。また、AirbnbはZ世代の特徴を「クイック・エスケープ(Quick-Escapes)」と表現し、「彼らにとって旅はもはや非日常のイベントではなく、好きな音楽やスポーツを楽しむための“ライフスタイルの延長”。チケットさえあれば即座に境界を越える瞬発力を持っている」と、旅の日常化を指摘している。
ライフスタイルの一部というトレンドは冒頭のパーソナライズ化でも触れたが、推し活や音楽フェス参加、スポーツ観戦を目的とした旅が増えており、エクスペディア・グループも「その地域ならではのローカルスポーツを観戦する旅行が注目を集めている」と指摘。特にZ世代とミレニアル世代ではその傾向が強く、68%が日本の相撲やタイのムエタイなど、その地域のスポーツを間近で観戦したいと回答したことを明らかにしている。
Booking.comが2026年の旅行トレンドとして挙げた「私のささやかな節目を祝う旅(Modern Milestone Missions)」も、この傾向をうかがわせる。世界の旅行者の75%(日本:55%)が「頑張った自分へのごほうび」として旅行を予約しており、同社は「これまでは伝統的な祝事に限定されていた旅が、昇進や目標達成といった“自分だけの達成”を称えるためのパーソナルな儀式へと進化した」と言及。旅をすること自体が、自己肯定感を高めるための新しい時代のカタチであるとしている。
テクノロジーとアナログのハイブリッドが主流に
最後に、2026年の旅行において、AIが新しいアシスタントとして普及するのは誰しもが考えるとおり。Agodaの調査ではアジアの旅行者の63%がAI活用を望んでおり、主な利用目的は現地スポットの検索や旅程作成だ。この進展について、スカイスキャナーは「AIは単なる検索ツールではなく、旅行者の潜在的な好みを先回りして提案する“旅のキュレーター”へと進化し、計画にかかる精神的ストレスを劇的に軽減する」と予測する。Trip.comとGoogleも同様にAIによる旅行計画の平準化を指摘している。
宿泊体験におけるテクノロジー導入も加速しそうだ。Booking.comは、お掃除ロボットやロボットシェフが滞在をサポートする「次世代バケーションレンタル(Humanoid Homes)」に言及しており、日本人の70%がこうした施設への予約に意欲的だとしている。同社は「テクノロジーが家事などの“旅のノイズ”を排除することで、旅行者はその場所でしか味わえない人間らしい体験に集中できるようになる」とその意義を説いている。
一方で、テクノロジーが日常を最適化するほど、身体的な実感を伴う「アナログ」への欲求も強まっている。Airbnb「土に触れる(Touching Grass)」や、Booking.com「静かな趣味に没頭する旅(Hushed Hobbies)」(日本:40%が希望)、エクスペディア・グループの歴史的建造物をリノベーションしたホテルで「リノベ宿ステイ」などのトレンドは、デジタル社会からの意識的なデトックスが背景にある。
各社は共通して、「デジタルに常時接続された現代人にとって、意図的に“五感を刺激するアナログな静寂”を確保することこそが、2026年における究極のラグジュアリーになる」などと分析。AIで「効率」を最大化し、それによって捻出した時間で「アナログな価値」に深く没入する。こうしたシームレスな使い分けこそが、2026年の旅を象徴するのではないだろうか。