全国の自治体で宿泊税の導入が進んでいる。日本ホスピタリティ・アセットマネージャー協会(HAMA Japan)が2025年11月に開催した年次セミナーでは、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業の弁護士、日本交通公社の主任研究員の池知貴大氏が、日本の宿泊税導入の実態を解説。観光産業における自主財源の確保に向けた宿泊税の位置付けを解説するとともに、海外での事例を交えながら税収の使途について紹介した。
今後は定率制への見直しも
観光庁によると、2026年1月13日時点で宿泊税を導入している自治体は、東京都、京都市、大阪府、倶知安町、ニセコ町など19自治体。すでに総務省の同意を得ている自治体は39自治体となっている。直近では、2026年1月に宮城県、仙台市が導入をスタートした。2025年9月に条例を制定した沖縄県は、2026年度中の導入を目指しているところだ。
宿泊税は、文字通り、宿泊客が支払う地方税(法定外目的税)。 宿泊施設が代理で徴収し、自治体に納める。 宿泊税は、 一般的な税金と異なり、国の法律にかかる税金ではないため、 各自治体によってその設計は異なる。その一番大きな違いは定額制、定率制、どちらで設定するかを自治体が決められることだ。
現在導入している自治体の多くが、宿泊代金に対して段階的に定額の税を徴収する段階的定額制を採用している。例えば、現在、京都市は定額制を採用しているが、2026年3月1日以降から、新たに5段階に見直しをおこなう。6000円未満は200円、6000円以上2万円未満は400円、2万円以上5万円未満は1000円、5万円以上10万円未満は4000円、10万円以上は1万円と大幅な増額となる。
一方、定率制を採用している自治体は少ない。倶知安町が2019年に日本で初めて宿泊代金に2%を課税する宿泊税を導入。4月1日からは3%に変更が予定されている。沖縄県は2%の定率制を導入することを決めている。また、東京都は、定額制から定率制に移行する議論を進めている。
池知氏は、定額制の採用が多い理由として、定率制は徴収額が毎回変わり事務処理が煩雑になることから事業者側から反対が多く上がるとしたうえで、「今後、システムも用意され、定率性でも事業者の負担は小さくなっていくのではないか」と指摘。沖縄県が定率制に決めたことのインパクトは大きく、「今後は見直しも含めて定率性が増えるのではないか」との見方を示した。
HAMA Japanのセミナーで宿泊税を解説する池知氏。
宿泊税はDMOとセットで成長
池知氏は、自治体が宿泊税を導入する理由についても解説した。
「地域の競争力をどう高められるのか。そのための財源をどうするのか。 それが宿泊税の導入の出発点になっている」。観光客は地域で宿泊施設だけにとどまるのではなく、基本的に周辺を周遊する。その場合、その公的なエリアを誰が、どの予算で整備するのか。池知氏は、言い換えれば、「地域の競争力を点で考えるのか、面で考えるのか」が宿泊税の立脚点になると話した。
また、自治体ごとの財政力の差を調整する仕組みとして地方交付税制度が設けられているが、これは住民向けの行政サービスに必要な財源を確保することを前提としている。このため、仮にホテル建設によって固定資産税が増えても、その増収分が交付税の調整によって相殺され、自治体の財政規模は必ずしも拡大しない。基本的に財政状況は住民の数によって決まるため、住民が1万人で観光客が100人の町も、住民が1万人で観光客が100万人の町も使える財源は大きくは変わらない。つまり、観光客が増えれば、地域側に求められる対応も増えるが、そのコストを負担する財政システムにはなっていないということだ。
一方、宿泊税は、この計算式の外で計算される税金。観光客が増えれば、また金額が高価格になればなるほど税収が上がる。池知氏は「(宿泊税は)投資した分だけ、跳ね返ってくる可能性がある税金」と説明した。
宿泊税は、自治体の自主財源。国に納める必要がない。「大切なのは、それを手段として、どのように賢く使っていくか」(池知氏)。そのため、自治体では観光のマスタープランや宿泊税の使途決定の仕組みを規定する条例を策定し、戦略的に地域の未来を考えていく必要がある。池知氏は「宿泊税の良さは、地域が観光について必死に考えることにつながるところ」とした。
地域を「面」で考えるマスタープランの策定には、宿泊税徴収の主体である宿泊事業者だけでなく、さまざまなステークホルダーが参画する必要がある。そのなかで、池知氏はDMOの役割を強調。「宿泊税とDMOはセットになって成長していくものだろう」との考えを示した。
海外で宿泊税はどう使われているのか?
池知氏は、海外の宿泊税の事例も紹介した。
例えば、カナダのスキーリゾート・ウィスラーでは、宿泊税収の使途はすべて「5ヵ年戦略事業計画」で決められている。2023年~2027年の現行計画では、マーケティングの「Our Guests」、労働力・コミュニティの「Our People」、インフラ整備の「The Place」の3本柱で構成している。
Our Guestsでは、需要の平準化やMICE誘客の戦略を展開。The Placeでは、会議施設などへの継続的な投資を進めている。また、Our Peopleでは、観光従事者がウィスラーの町内で居住できるように、手頃な価格(アフォーダブル)の住宅への支援を実施。賃貸・住宅価格の高騰によって、観光従事者が郊外に転出せざるを得ない状況を避けるためだ。2023年には、宿泊税収からアフォーダブル住宅支援に297万カナダドル(約3.4億円)が投資されたという。
池知氏は「地域が事業計画に則って投資を進めていくなかで、投資家側にすれば、宿泊税収という確固たる財源があることは安心材料」と話す。
このほか、オーストリアのインスブルックでは、シーズンオフ対策として、市内のアクティビティ、アトラクション、ツアー、公共交通機関などが割引になる「ウェルカムカード」の発行に宿泊税収を活用。また、オーストリアのレッヒは、域内で働く従業員向けに、さまざまな割引特典を受けることができる「Team Card」を発行。宿泊税収を活用し、人材の定着と確保に取り組んでいる。
※カナダドル円換算は1ドル115円でトラベルボイス編集部が算出