日本旅行業協会(JATA)は、「JATA経営フォーラム2026」のオンライン配信を始めた。 今年のテーマは「旅行業 新時代への滑走路」。日本アドベンチャーツーリズム協議会の高田健右氏の基調講演のほか、「活用事例データベースから紐解く、AI活用成功への手がかり」「JATAカスタマーハラスメント対応マニュアルのポイント」をテーマにしたセミナー、国内旅行、訪日旅行、海外旅行の各分野でパネルディスカッションが配信されている。
JATA髙橋会長、「価格から価値へ変革する年に」
開催にあたり、JATA会長の髙橋広行氏が主催者として挨拶。2025年の各市場を振り返りながら、2026年を「価格から価値へ、ビジネスモデルを変革する元年」と位置付け、「価値があるから旅行に行くというトレンドを業界がつくっていくことが重要」と強調した。
また、海外旅行の回復が遅れ、国内旅行も頭打ちの中、JATA会員各社は、成長分野である訪日旅行事業を柱の一つにしていくことが必要だとしたうえで、「受け入れ環境整備、周遊ルートの開拓、付加価値商品開発などの課題があるなかで、地域を知っている旅行会社の出番」と発言。特に、高付加価値商品であるアドベンチャートラベルのポテンシャルの高さに言及した。
最後に、髙橋氏は「訪日、海外、国内、この三位一体によるバランスの取れた成長こそが、持続可能な観光の礎。変革を通じて、2026年を次の飛躍の年にしていく」と力を込めた。
JATA髙橋会長
フォーラム開催にあたっては、観光庁の村田茂樹長官も文書で祝辞を送った。次期観光立国推進基本計画について触れ、インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立、国内交流・アウトバウンドの拡大、観光地・観光産業の強靱化の3つを施策の柱として設定する方向で検討を進めているとしたうえで、「観光は地域の活性化・日本経済の発展に不可欠なもの。日本における「戦略産業」として持続的に発展させていく」とコメントを寄せた。
AI活用、「データが組織の競争力を高めていく」
AI活用のセミナーでは、まず⽣成AI活⽤普及協会(GUGA)業務執⾏理事兼事務局⻑の⼩村亮氏が「生成AI時代の人材育成と組織改革」について講演した。
小村氏は、組織の生成AI導入・活用を4つのステップに分類して解説した。
ステップ1は、社内業務における個人による活用で、文章作成・要約、アイデア出しなどが含まれる。小村氏は、「多くの組織が、まだ、このステップ1で苦戦している。生成AIを導入したものの、従業員の利用率に壁があり、費用対効果に見合っていない」と指摘した。
ステップ2は、生産性向上を目的にした社内業務における組織活用で、社内向けチャットボットなどが含まれる。ステップ3は、顧客を対象として既存事業でのユーザー体験向上、ステップ4が顧客の価値創造に向けた生成AIを活用した新規事業の創出。小村氏は「自社がどの方向性を目指すのか、今どの段階にあるのかを把握することが大切」と強調した。
また、今後のトレンドとして「特化型」をキーワードとして挙げた。汎用型から、組織、産業、個人それぞれの特化型生成AIが主流になるとしたうえで、「重要なのはデータ。データがなければ特化型を仕上げるのは難しい。今後、データが組織の競争力を高めていく重要な指標になる」との見方を示した。
小村氏は、生成AIからAIエージェントへの変化についても説明。受動的な「思考」を行う生成AIから、能動的に「実行」するAIエージェントの重要性が増しているなかで、スペシャリストの「暗黙知(コツやノウハウなど個人の経験や勘、直感に基づき、言語化が難しい知識)」を実装したAIの注目度が高まっていると解説。暗黙知を実装することで、「従業員が特にAIスキルを持たずとも、ダイレクトに業務品質向上を図ることが可能になる」と話した。
GUGAの小村氏
AIリテラシーの高い人材を
そのなかで、組織づくりにおいては、「情報(データ)」が経営資源の一つという捉え方から「基盤」と捉えられる時代になるとし、人材採用においても「優れた成果を残せる人材」から「優れた情報を残せる人材」という視点も大切になってくると指摘した。
「人材も流動するような時代になってきているなかで、その人材が辞めても組織に何かしらが残っている、そのような状態を作っていくということがAI時代には一層重要になってくる」と続けた。
小村氏は、生成AIとの協働を加速させる組織体制についても言及。「経営層に近いところにAI推進チームを設けることがポイント」とし、その中に経営企画、IT・DX、人事、法務の各部門を置き、各部門のマネージャーとの連携を強化。マネージャーは暗黙知をAIチームに提供し、AIチームがAIへの実装を実施。それをマネージャーに返し、マネージャーはメンバーへの使用を促し、現場で蓄積された暗黙知をAIチームにフィードバックする循環の構築を提唱した。
プレゼンテーションより今後、生成AIを無意識に使う人材が増えていくと予想されるなか、生成AIと能動的に協働するためには、「AIリテラシー」が必要になってくるとも指摘した。
「AI時代において何に気をつけなければいけないのか、どのような付き合い方をすべきなのか、うまく使えばどのようなメリットがあるのかということをあらかじめ知っておくこと」の重要性に触れたうえで、「AIリテラシーとは、スキルを最大限発揮するための運転免許証のような役割」と置き換え、GUGAではAIの資格試験として「生成AIパスポート」を提供していることに触れた。
小村氏は、「スキルのみ⾼い⼈材はリスクを把握できておらず、トラブルを招く可能性が最も⾼い」としたうえで、AIを安全かつ実践的に活用できる人材を確保するためには、「AIリテラシーを高めることが重要」と強調した。
AI活用に向けて業務の棚卸しを
AIの活用事例の紹介では、アットドット代表取締役でGUGA協議員を務める茨木雄太氏が、旅行業界での導入事例を紹介するとともに、「AI共存経営」について解説した。
生成AIの導入はOTAを中心に進んでおり、AIチャットでの相談、旅行プランニングの提案・作成、翻訳ソリューションによるインバウンド対応、宿泊施設での問い合わせに対する自動応答、クチコミ要約などの顧客向けのサービスのほか、顧客分析の自動化、観光案内窓口での相談を音声分析したレポートなど事業者・自治体の取り組みを紹介した。
アットドット代表取締役でGUGA協議員を務める茨木氏
そのうえで、茨木氏は、「経営者はAIを敵として見るのではなくて、 AIと共存していく経営方針を立てることが重要」と指摘した。具体的には、業務を「人がすべき業務」「AIを活用すべき業務(半自動)」「AIに任せるべき業務(全自動)」の3つに分類し、それぞれ棚卸しをすることを提案。「そうすると、どこに投資しなければならないのか、どのような人を採用しなければならないのか、どのような教育が必要なのか、という点がはっきりと分かるようになってくる」と解説した。
また、法人向けのビジネスでは、自社だけでなく、相手側の業務の棚卸しをするのも非常に有効と指摘。「相手側の業務で3つの分類を棚卸しすると、例えば中長期的な発注機会とリスクを把握することが可能になる」とした。
ただ、注意するべき点として、3つの分類は固定されているわけではなく流動的であることを挙げた。「 AIの精度の進化は激しい。最低でも一年、あるいは半年単位で棚卸しを見直していくことが大切」と話した。