タビナカの国際会議を主催するArival(アライバル)と旅行調査会社Phocuswright(フォーカスライト)は、「旅行体験のこれから(Outlook for Travel Experiences)2019–2029」を発表した。このレポートはツアー・アクティビティ・アトラクション(タビナカ)市場の現状と今後の展望を調査したものだ。
今回のレポートでは、ヘッドラインとして示された「2025年の総予約高は2710億ドル(約42兆5470億円)で、2029年には3400億ドル(約53兆3800億円)超の見込み」という数字が注目された。結論も単刀直入に「市場は巨大で、成長は速い。オンラインの浸透率はまだ低いのでチャンスは大きい」としている。もちろん、その通りだ。ただし、その先の議論がずれてしまいがちな要因もここにある。体験市場は「巨大な未開拓市場」と語られることが多いが、その理解は必ずしも正確ではない。
以下のグラフは、最もよく指摘されている2つのデータポイントを示したものだ。
- オンライン・チャネルが体験予約に占めるシェアは、全体のわずか3分の1にとどまる。これに対し、旅行全体に占めるシェアは3分の2近くある。
- 体験の総予約のうち、OTA(オンライン旅行会社)経由は8%のみ。一方、旅行全体では約24%を占めている。
ここから導き出される結論のよくあるケースは、体験という領域はまだ「遅れている」、伸びしろが大きい、というものだ。確かに、部分的には正しいかもしれないが、より重要な点を見落としている。そもそも体験マーケットの中で、オンライン旅行流通で取り扱えるものはどれほど存在するのか、という視点だ。
旅行・体験分野の流通チャネル別シェア:フォーカスワイヤより
一つの業種ではなく、大部分は旅行業でもない
体験アクティビティ、いわゆるタビナカと呼ばれている市場というのは、ホテルや航空会社のような単一の業種セグメントではない。140以上のビジネス・カテゴリーと344種類の体験タイプ(アライバルの分類による)が集まっており、気球から美術館、料理教室からカヤックのレンタルまで非常に幅広い。その中には、観光客からの需要がとても高く、OTAが取り扱うのに適しているものもあるが、そうではないものが大半を占めている。この市場の将来性について、投資、ビジネスプラン、市場参入戦略などを評価するならば、市場全体に関する数字よりも、その内訳の方がずっと重要になる。
これが、OTAの取扱いのシェアが比較的少ないままとなっている大きな理由だ。長年続く成長、数十億ドルの投資、そして巨大な消費者ニーズにもかかわらず、OTAが総予約に占める比率は8%ほどにとどまる。問題は、需要の有無だけでなく、対応可能かどうかだ。体験ビジネスの大多数は、ローカル事業者や地域事業者が手掛けており、OTAとの取引関係はない。最新の予約システムなど使っておらず、旅行者向けの営業にそこまで積極的でもない。その多くは旅行流通のエコシステム外にある。
一つのマーケットを詳しく見てみると…
この点について詳しく見るために、私は地元アトランタおよび周辺地域で催行している体験アクティビティを分析してみた。まず、トリップアドバイザーに掲載されている同市内または車で行かれる距離圏のもので、半日で楽しめるアクティビティやツアーを約1000件選び出し、そこから以下のような、あまり旅行者向けではなさそうなところを除外した。
- ボウリング場
- アートギャラリー
- 醸造所やレストラン(予約可能なテイスティングや見学ツアーを実施していないところ)
- 一部の家族客向けエンターテインメント・センター
- チケット不要のランドマークや歴史的建造物
- ネイルサロン、多くのスパ(予約可能な観光客向け商品を提供していないところ)
除外した結果、有効なリストは当初の半分以下である450件弱にまで絞り込まれた。
だがこの段階でも、OTAで取り扱い可能なところは皆無に等しかった。地元の観光アトラクションや体験アクティビティなど、小規模な事業者が無数に並んでおり、このうちOTAに掲載されていたのは、わずか11%だった。これが、市場全体の大きさを示す数字の裏側に隠れたリアルなストーリーだ。提供されている体験の全体像だけでなく、その中で旅行チャネルを通じて販売できる形になっているもの、旅行者が関心を持ちそうなものについて、把握する必要がある。
アトランタ周辺での体験アクティビティ:フォーカスワイヤより
これがマーケットサイズの内訳だ。体験アクティビティは、カテゴリー別では掲載件数が最大になるが、OTAでの取り扱いはほとんどない。同様に、アトラクションも市場に占めるシェアは大きいものの、OTAとの関わりは限定的だ。対照的に、現地ツアーは流通への対応が進んでいる。つまり、机上の議論では有望そうでも、旅行プラットフォームで本当に取り扱うべきカテゴリーであるとは限らないのだ。
次に、「博物館」など、サブカテゴリーの中身についても詳しく見てみよう。アトランタの場合、計75の博物館やギャラリーが掲載されていたが、このうちOTAに掲載されているのはわずか3つだけ。大多数は、地元や近隣地域からの来場者を対象にしている。子供たちの親が、地元の科学博物館や子ども向け博物館に出かける際、グローバルOTAを利用することはなく、その必要もない。要するに、規模が大きく、価値も高い事業や研究機関は多数あるが、グローバルな旅行流通システムを使う必然性がないのだ。
体験領域における分断がなぜ大きいのか、これで少し、理解いただけたのではないか。アライバルの「グローバルオペレーター・ランドスケープ調査」では、当社独自のチャネルに加えて、OTAや予約システムなどの旅行業パートナー、旅行業界団体などと連携して市況を調査しており、OTAが売上高に占めるシェアはだいたい30%前後だ。しかし、マーケット全体で見ると、OTAのシェアははるかに少なくなる。
それはなぜか? 当社の調査サンプルは、世界の旅行産業の中から、デジタル化と旅行ビジネスに積極的なところを重点的に選んでいるからだ。あらゆる体験をすべて含めたマーケット規模にすると、大多数を占めるオフラインおよびローカル向けの様々な事業者が対象になってしまう。例えば、特定のコミュニティを対象とした博物館、地元向け観光アトラクション、習い事の教室、小規模の体験アクティビティ・ビジネス、その他、色々な「体験」を提供してはいるものの、OTAの世界とは関係がない、あるいは現時点ではないところだ。
本当のチャンスとは
では、現実的に見た時、チャンスはどうなのか? 実は、それでも非常に大きい。ただし、2710億ドル規模と見込まれる体験マーケットのすべてが、あらゆる人にとって、今すぐ対象になる訳ではない。本当にチャンスと呼べるのは、取り扱い可能な体験マーケットの一部分のみであり、各プラットフォームの準備状況にも左右される。具体的には、(オンラインで)接続も予約も可能で、観光客向けの内容があり、デジタル流通によるビジネス拡大にも対応できる催行会社やアトラクション施設ということになる。こうしたところでは、予約システムへの対応が進み、オンラインでプランニングが可能になっており、OTAでも供給側との接続改善を進めているため、ビジネスは拡大している。
とはいえ、もともと観光客向けではない体験のなかにも、OTAが対応できるものは結構、ある。中には、旅行系ではない別のプラットフォーム経由ですでに流通しているものもある。例えば、地元住民向けやギフト関連のプラットフォーム、海外旅行ではなく近場のレジャーを扱うプラットフォームなど。これは重要なポイントであり、旅行業界が見落としがちな点だ。以下に4つの例を挙げる。
- グルーポン:体験アクティビティのオンライン販売事業者では、米国最大手の一つで、ローカル需要のあるもの全てを取り扱う。映画のチケット、ボウリング、スパ、ファミリー向けエンターテインメント・センター、観光アトラクションなど。
- GetOutPass:「ジョージア・パス」掲載の40以上のアトラクションやアクティビティは、いずれも地元客やドライブ客向け。ごく一部のみ、旅行者向けでOTAにも掲載あり。
- Days Out With The Kids:イギリスのプラットフォーム。地元および近隣からの家族客を主な対象とし、面白いアトラクションやアクティビティを紹介している。
- Virgin Experience Gifts、Adrenaline、Tinggly、Xperience Daysなど:いずれもギフトに特化したプラットフォーム。旅行者より地元向けで、お祝いなど特別なイベント、贈り物などを中心に揃えている。アドベンチャーや料理体験など、没入型でインタラクティブな内容にフォーカス。
そしてもちろん、Airbnb Experiencesでは、ローカル・ホストやエキスパートたちによる非常にユニークでパーソナルな体験提供に力を入れている(ただし最近は、従来型のツアー、大手オペレーターや観光施設とのビジネスにも積極的だ)。
このようにチャンスは大きく広がっているが、無限ではなく、市場全体の規模と同じでもない。表面的な数字だけを見て、すべてが同じ方向に向かっていると考えるのは、よくある間違いのパターンだ。体験に払う消費額の大半は、ローカル需要によるもので、その内訳は多岐に渡り、デジタル対応が遅れていたり、そもそも旅行流通には無縁のものも多い。
以上が、タビナカ市場の規模を語る上で知っておくべき真実の一つだ。数字のインパクトは大きいが、市場全体のサイズ感より重要なことは、その中で取り扱い可能なものはどれぐらいあるのか、そして誰がやるのか、という問いになる。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
※ドル円換算は1ドル157円でトラベルボイス編集部が算出
オリジナル記事:Why OTA share of experiences is so low
著者:アライバル共同創業者/シニアアドバイザー ダグラス・クインビー氏
