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AI時代の旅行ビジネス、日本の強みをどう表現するのか? 旅行テックの国際会議「WiT Japan 2026」の議論を聞いてきた

旅行とテクノロジーの国際会議「WiT Japan 2026」が2026年6月1日と2日、東京で開催された。今年はメインテーマ「The Next 20(次の20年)」に加え、日本が持つ精密さや文脈を読む力、「Quiet Power」に意識を向ける日本独自のサブテーマも設定。AIを前提に、日本の事業者や地域の特性を踏まえた具体的な議論が交わされた。

※冒頭写真:WiT Japan共同創設者である浅生亜也氏(左)と柴田啓氏

特に象徴的だったのが、JTB代表取締役 社長執行役員の山北栄二郎氏がAI時代における「おもてなし」と旅行会社の役割を語ったセッションだ。山北氏は「AIやテクノロジーが、日本のおもてなしを高めることができる」と話した。

「AIなしに未来を語ることはできない。すべてのプロセスにAIが実装される。誰もがAIとともに暮らし、AIがお客様とのインターフェースになる」(山北氏)。だからこそ、人と人の接点が生み出す価値が重要になるとする。「AIは1対1の顧客接点を作ることが得意。一方で、旅行の価値を生み出すのはデスティネーションであり、人と人との接点」。これが、JTBが2026年1月に、10年後のありたい姿を描いた長期ビジョン「OPEN FRONTIER 2035」の根底にある考え方でもある。

山北氏はAIを、日本の弱点を補う存在とも捉えている。例えば、日本人の海外旅行は現在、業界全体で苦戦しているが、その背景には「今、人はデスティネーションへの興味を失いつつある。その理由には、私たちが魅力や価値を十分に表現できていなかった側面もあるだろう」と指摘。「従来のプロモーションではなく、よりパーソナライズされた価値中心の発信が必要。AIはその表現を支援できる」と話した。

さらに、旅行の価値が「見る」から「体験する」へ移行した今後は、「感じる」ことが重要になるとの見方も示した。「AI時代が来ても、人はやはり人でありたいと思う。調和を作る精神など、日本は世界に貢献できるところがあるのではないか」と、AI時代の日本の強みを展望した。

(左から)WiT創設者のイェオ・スーフン氏、JTB代表取締役 社長執行役員の山北栄二郎氏

AI時代に持つべき考え方とは?

WiT Japan 2026の開幕直前、Roktの協賛でおこなわれた招待制キックオフセッションでも、旅行業界の実務家がAIの業務活用に対する認識を語った。

WiT Japan共同創設者の浅生亜也氏は、「旅行者の情報収集や比較検討の入り口がAIになり、AIに見つけてもらえない事業者は、消費者に認知されない現実が起きている」と指摘。これを踏まえ、ZIPAIR Tokyoの関克哉氏も、AI活用はもはや前提条件だとしたうえで、「AIが拾ってくるのは魅力的なコンテンツ。そこを各社が突き詰めていかなければ、お客様に選ばれない」と話した。

リクルートの平栗瑞穂氏は、日本人が「言わなくても伝わる」と考えがちな文化的背景に触れながら、AI時代には価値を適切に言語化し、発信していく重要性を指摘した。この言語化の部分については、WiT Japan 2026の多くのセッション内でも「日本の弱点」と指摘され、AIで補完し、適切に表現していく重要性が議論された。

WiT Japan2026 招待制キックオフセッションの様子Rokt日本法人代表の三島健氏はさらに解像度を上げ、AI時代は技術そのものよりも「変化に対応するスピードが競争力になる時代だ」との認識を示した。AIの進化によって、これまで専門知識や経験が必要なことが誰でも実現できるようになり、「数週間、数カ月で同じようなサービスが立ち上がる時代になった」と説明。「考えてから動く」のではなく、「試し、学びながら改善する」姿勢の重要性を強調し、事業者側の対応の遅れが、そのまま競争力の差につながると警鐘を鳴らした。

日本のOTA(じゃらん、楽天、JTB)が登壇したセッションでも、次の20年に向けた再構築や精度向上の必要性を意識する声があがった。楽天グループのトラベル&モビリティ事業 事業戦略部ヘッドの皆川尚久氏は「AIがなかった時代の仕事のやり方や、ユーザーへの提供価値の考え方は、このタイミングでリセットしなければならない」と話した。

日本のOTA3社(じゃらん、楽天、JTB)が登壇したセッション「The Great Japan Travel Reset」

AI時代に、日本の「力」をどう生かすか

WiT Japan 2026の各セッションで語られたのは、AIの導入の是非ではない。AIを前提に、自社や地域の価値をどう生み出すか、再構築するかだ。

日本が持つ「おもてなし」や地域の魅力、人と人とのつながりといった強みを、AIを使ってどう表現し、届けるのか。そこに次の競争力があるとの考えが、多くの登壇者の発言からうかがえた。

エクスペディアグループ APACマーケットマネジメント バイスプレジデントのマイケル・ダイクス氏がモデレータを務めたセッション「Rewriting Japan’s Travel Playbook」では、人手不足や生産性向上、デジタル化の遅れに直面する日本の観光産業の変革について議論。少子高齢化が進む中、日本がAIやテクノロジーを用いて、世界に先んじて課題を解決することで、その解決手法をソリューションを輸出可能な製品として開発できる可能性が示された。

セッション「Rewriting Japan’s Travel Playbook」。パネリストには航空会社や滞在型宿泊事業者、日本の高齢化社会を研究してきたコンサルタントなど、多彩な顔触れが参集WiT Japan 2026の冒頭、共同創設者である柴田啓氏と浅生氏は、今年、「Precision(精密さ)」「Reinvention(再発明)」「Quiet Power(静かな力)」を日本独自のサブテーマとして掲げたことについて、AIと自動化が加速する世界で、日本とこの地域が持つ独自の視点に着目したものだと説明。日本が磨いてきた職人技術や規律、長期的な思考は、単なる“日本の良さ”で終わるものではなく、“競争優位性になり得る”という見方でAI時代となる今後20年を考えていく目的を示した。

日本で開催するWITは、今年で12回目。本拠地・シンガポールでの開催は20年目の節目でもある。WiT創設者のイェオ・スーフン氏は、“Web in Travel”がたどってきたインターネットの登場からモバイルの到来を含めて振り返り、「(テクノロジーによる変化は)加速している。人間はこのスピードについていけるのか。だからこそ私たちは、より緊密な人間関係を築く必要がある」と話し、ライブイベントであるWiTの重要性を強調した。

WiT創設者のイェオ・スーフン氏