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タイ国政府観光庁が描く観光戦略とは? ウェルネスと地域住民参加型の観光を軸に、BtoB商談会開催で高付加価値化を訴求

タイ最大の旅行商談会「タイランド・トラベル・マート・プラス(TTM+)」が2026年6月10日~12日にかけてパタヤで開催された。中東情勢が世界経済と旅行市場に影響を及ぼすなか、世界中から前年を上回る429人のバイヤーが集まった。主催するタイ国政府観光庁(TAT)は、新たなコミュニケーションコンセプト「Healing is the New Luxury」のもと、ウェルネスとサステナビリティを軸としたタイのユニークな体験を世界に向けて訴求した。

心、体、そして魂に響く体験を

開幕に先立っておこなわれたウェルカムレセプションで、TATのターパニー・キアットパイブーン総裁は「世界的に不確実性が増すなかでも、タイの観光は回復力を持つだけでなく、未来の観光を再構築する力がある」と強調。そのうえで、「今の旅行者は、単なる休暇を超えた、真の繋がり、真の価値ある体験を求めている。旅行者にとって、タイはそのニーズに応える価値創造の場になっている」と続けた。

ウェルカムレセプションでタイの観光の力を強調するTATキアットパイブーン総裁

また、スラサック・パンチャルーンウォラクン観光スポーツ大臣は、タイ政府は引き続き観光を経済成長のキードライバーとして位置付けているとしたうえで、「TTM+での商談は実質的なビジネスの創出だけでなく、地域コミュニティの成長と繁栄に繋がるもの」と期待を込めた。

パンチャルーンウォラクン観光スポーツ大臣はTTM+の意義を強調

TATマーケティング・コミュニケーション担当副総裁のニティ・シープレー氏は、TATが打ち出す「Healing is the New Luxury」について、「真のラグジュアリーとは、単に目に見えるサービスだけでなく、心、体、そして魂に響く体験」と説明。そのうえで、「タイは、ホスピタリティ、自然と文化の癒しの力を通して、有意義な体験を提供していく」と付け加えた。

タイのウェルネス経済は年々成長しており、2024年にはその経済規模は前年比10%増の427億ドル(約6.8兆円)に拡大。世界でも最も急速に成長している市場の一つとなっている。シープレー氏は「癒し、長寿、予防医療などへの関心の高まりは、人々のライフスタイルや旅行のスタイルを変化させている」として、観光コンテンツとしてのウェルネスに期待を寄せた。

TATの方針は「規模より価値」

TATによると、2026年1~5月の外国人旅行者数は前年同期比2.3%減の約1400万人、観光収入は約6793億バーツ(約3.4兆円)となった。このうち、日本人旅行者数は同2.09%減の約43万7000人。タイにとって日本は世界第6位の国際マーケットとなっている。TAT東アジア局長のシリゲートアノン・トライラッタナソンポン氏は、中東情勢の影響を受けるなか、「この減少は誤差の範囲内。ほぼ前年と同水準を保っている」と評価した。

2025年の日本市場の傾向を見ると、平均滞在日数は6.85日、1日の平均支出は4452バーツ(約2万2000円)。滞在期間の1人当たりの支出を見ると、宿泊費が最も多く1万340バーツ(約5万2000円)、ついで買い物が6011バーツ(約3万円)、体験が4199バーツ(約2万1000円)と続いた。

日本人旅行者の内訳を見ると、タイを初めて訪れる旅行者が48.4%を占め、リピーターは2~4回が28%、5回以上が23.6%となった。TATインターナショナル・マーケティング(アジア・南太平洋)担当副総裁のパッタラアノン・ナ・チェンマイ氏は「以前は都市に滞在するアクティブな旅行者やビジネス旅行者などリピーターが多かった。現在では、市場は変化しており、タイを初めて訪れる若い旅行者が増えている」との認識を示した。特に女子旅、一人旅、友人や家族との旅行が増えているという。

そのなかで、ナ・チェンマイ氏は、日本市場でも、これまで訴求力が強かったタイ料理や歴史文化などに加えて、ウェルネス体験を打ち出していく考えを示す。「現代社会では誰もがストレスを抱えて過ごしているなか、心身ともリラックスできる癒し(Healing)体験を提案していきたい」と意欲を示した。

ナ・チェンマイ氏(左)とトライラッタナソンポン氏は日本市場について説明

そのうえで、TATとしては、「Retreats」「Rituals」「Reels」「Rhythms」「Relations」の5つのRを柱として癒し体験とその価値をアピールしていく。

Retreats(リトリート)では、森林保護区から高級ビーチリゾートまで自然に囲まれた静かな環境での安らぎを提案していく。Rituals (儀式)では、何世紀にもわたるタイの文化的・精神的な慣習に焦点を当てる。Reels(リール)では、SNSストーリーテリングを取り入れ、旅行者が感動的な瞬間を捉えて共有することで、個人の旅と世界中の人々とのつながりを生み出していく。Rhythms(リズム)では、タイ独自の音楽やダンスなどを表現。Relations(関係性)では、旅行者と地域社会との真の交流を深め、両者のつながりを築いていく。

TATは、2026年通年について、外国人旅行者数を前年比2%減の3232万人、その観光収入を同1.4%減の1兆5150億バーツ(約7.6兆円)と予想している。トライラッタナソンポン氏は、日本市場について「結果的に人数は減少するかもしれないが、支出は増えると予想している」と話し、引き続き高付加価値観光を目指していく考えを示した。

TTM+の会場では「癒し」をテーマにしたデモンストレーションもコミュニティ・ベースド・ツーリズムで地域活性

タイ政府は、国家観光開発計画のもとで、「コミュニティ・ベースド・ツーリズム(Community Based Tourism: CBT)」を推進している。

CBTは、全国の地域社会に収入を分散させるとともに、地域住民の生活の質を高め、地域社会を強化し、文化や伝統の保存を促進することを目的としたもの。タイ政府は、天然資源の保護と国の観光産業全体の持続可能性につながる取り組みとして力を入れている。

持続可能な観光のための指定地域管理局(DASTA)がCBTをマネジメント。地域住民が自ら観光に参加・管理することで利益を得られる仕組みを構築している。観光収入は地域住民にも分配されるとともに、収入の5~10%はCBT基金に充てられ、社会福祉、文化遺産保護、自然保護に活用されている。

CBTでは、旅行者に地元の人々との交流を通じた本物の体験を提供。現在のところ、外国人旅行者の受け入れが可能なCBTはタイ全土で31ヶ所あり、それぞれ地域のユニークな体験を旅行者に提供しているという。

TATは、CBTの啓発やコミュニティへの送客推進の役割を担う。トライラッタナソンポン氏は「特色を持ったコミュニティに足を踏み入れて、そこで人間同士の交流を深める。そこには観光の大きな可能性がある」と期待を込めるとともに、「国の観光収入が増えても、地域にその恩恵が行き渡らないと意味がない」として、観光による地域活性化の重要性を強調した。

一方で、TATの役割として、「住民たちが観光客を迎えることが、彼らの生活や文化を守っていくうえで重要だと理解してもらうことが大切」と話し、コミュニティとのコミュニケーションも積極的に進めていく考えを示した。

CBTコミュニティは、地方に点在するため、アクセスが一つの課題となっている。トライラッタナソンポン氏は「だからこそ、旅行会社の介在が必要になってくる」と話し、旅行会社の手配力に期待を示した。

※バーツ円換算は1バーツ5円、ドル円換算は1ドル160円でトラベルボイス編集部が算出

取材協力:タイ国政府観光庁

取材・文: トラベルジャーナリスト 山田友樹