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北海道・ニセコの倶知安町、2026年度の宿泊税収は8億円の見込み、無料バスから住民優待まで、DMOが進める住民への還元

北海道・ニセコエリアでDMO(観光地域づくり法人)として活動する倶知安観光協会は、宿泊税などを財源に、域内交通の整備や住民向けサービスを進めている。鈴木紀彦事務局長は、DMOについて「Mはマーケティングよりも、マネジメント」と強調する。観光客を呼び込むだけでなく、観光で得た財源を地域課題の解決や住民生活に還元する考えだ。

このほど、ALL-JAPAN観光立国ファンドを運営する地域創生ソリューションが開催した「第10回観光立国ミートアップ」で、鈴木氏がその実践と目指す地域づくりについて講演した。

宿泊税を3%に、年間8億円規模を見込む

倶知安町の人口は約1万5000人。一方、町内の宿泊施設は約2万7000ベッドを擁し、世界110を超える国・地域から旅行者を迎える。ピークとなる冬季には、欧米やオーストラリアなどからの旅行者が大きな割合を占める。

現在、倶知安観光協会の事業規模は約4億5000万円。スタッフは鈴木氏の着任時の3人から5年を経て、現在は7人に増えた。

理事会の構成にも地域の国際性が表れている。理事20人のうち4人が外国人だ。外国人枠はなく、正会員なら国籍を問わず立候補できる選挙で選ばれる。業務執行理事は7人を置き、二次交通やサステナビリティ、MICEなどの部会を運営。スタッフと担当理事が連携して事業を進めている。

会員数は約400社。町外企業の参加も増えているという。

DMOの活動を支える最大の財源が宿泊税だ。倶知安町は2019年11月、宿泊料金に一定割合を課税する定率制の宿泊税を導入した。当初の税率は2%で、2026年度から3%に引き上げている。

鈴木氏によると、2025年度の宿泊税収は6億4000万円に拡大し、2026年度は約8億円を見込む。定率制のため、宿泊単価が上昇すれば、税収がさらに上振れる可能性もある。

無料バス運行で宿泊税の使途を見えやすく

鈴木氏は、小規模な自治体にとって宿泊税が持つ意味は大きいと強調する。導入によって観光関連予算が拡大した一方、倶知安観光協会への補助金は、税収の一定割合を自動配分する仕組みではない。事業を積み上げて予算要求した結果、税収の40~55%程度に相当する規模で推移しているという。

なかでも大きな支出となっているのが二次交通だ。観光協会の補助金の半分近くを交通関連事業が占める。旅行者が増えれば必要なバスやドライバーも増えるため、鈴木氏は「なかなか歯止めが利かない状態」と説明した。

宿泊税を活用した事業の一つが無料バス運行だ。赤色に統一した車両を5台、約4カ月間、町内を無料で循環させる。旅行者や住民に宿泊税の使途を見えやすくする狙いもある。

一方、自主財源の確保にも取り組む。旅先納税、デジタルサイネージの広告収入のほか、地元キーパーソンによる講演や現地視察受入れも有料化。DMOの収益を確保し、スピーカーにも還元する仕組みを設けている。

観光収益を住民にも還元

観光客の増加に伴い地域への負荷が高まるなか、力を入れるのが住民への利益還元だ。その代表例が、町民向けデジタル認証サービス「住民優待サービス KUTCHAN ID+」。マイナンバーカードとスマートフォンで町民であることをデジタル認証し、地域内の店舗などで割引を受けられる。

着想のヒントは、ハワイの「カマアイナ・ディスカウント」だという。居住者がID/身分証明書を提示すると店舗などで割引を受けられる、現地で広く利用されている仕組みだ。

鈴木氏は、ニセコ地域で価格転嫁による物価上昇が続く状況を踏まえ、「マイナンバーを利用して、デジタル認証と組み合わせれば居住者認証ができるのではないか」と考え、約2年をかけて仕組みを構築したという。

現在、町内の約7000世帯に対し、登録は約2500アカウント。約3分の1の世帯が利用する規模に広がった。

スーパーでも利用でき、日常の家計を支える。鈴木氏は、子育て世帯では食費の割引が年間5万~6万円程度の給付金に相当するケースもあると説明した。

スキー場でも住民向け価格を設定。通常1万1000円の1日券を、町民は3000円で購入できる。一部に宿泊税を投入する一方、その他の割引は加盟店舗などが負担。行政支援に過度に依存しない運営を目指している。

さらに、住民が宿泊や飲食などを体験する「Kutchan Magical Experience(マジカルエクスペリエンス)」も展開。1万円で2万円分のクーポンを購入でき、その差額は宿泊税で賄う。観光施設を住民自身が利用する機会を増やし、観光への理解や満足度を高める狙いだ。加盟店と利用者の双方から「来年もやってほしい」との声が上がっているという。

2つの取り組みは、2026年のジャパン・ツーリズム・アワードの経済産業大臣賞を受賞した。観光への理解や共感を広げるとともに、需要の平準化や雇用の継続にもつなげる仕組みが評価された。

ジャパン・ツーリズム・アワード授賞式で喜びのコメントをする鈴木氏

「声が上がってからでは遅い」、DMOが課題を先読み

急速なリゾート開発が進むニセコでは、住宅不足や物価高騰など、観光成長に伴う地域課題も顕在化している。

ホテルなどが従業員向けの寮やシェアハウスを用意する一方、住宅コストの上昇で従来からの住民が町外に移るケースもあるという。現在はスタッフ向けの大規模住宅の整備が進んでおり、鈴木氏は、将来的には中心部から離れた比較的安価な住宅地とリゾートを交通で結ぶ形も想定している。

こうした課題に対するDMOの姿勢について、鈴木氏は「声が上がってから行動するのでは遅い」と指摘する。

鈴木氏は約10年間、米国で暮らし、ハワイで勤務した経験を持つ。ハワイのような国際観光地で起きた課題が、数年後にニセコでも発生することがあるという。

「過去のトレンドを読み返していくと、ここで住民との問題が起きた、その翌年に何が起きた、ということがわかる。問題が大きくなる前に、先手を打って解決する」。海外事例をそのまま導入するのではなく、地域の状況に合わせて「ニセコモデル」にカスタマイズすることが重要だと考えている。

課題発見には、組織内の多様性も生かしている。観光協会の職員は約8割が女性で、子育て中のスタッフもいる。生活者の視点から、物価高など住民生活の変化を捉えているという。

外国人理事の視点も欠かせない。「日本人だけで決めない。外国人の目線で見てどうか、アメリカ人の目線ではどうかということを参考にしている」と鈴木氏。「自分たちの視点だけで見ると、失敗することもある」と話す。

観光の成長を支え、その収益を交通や住民生活へ還元する。倶知安観光協会は、地域の課題を先取りして解決する「マネジメント」をDMOの役割に据えている。

取材・文: 鶴本浩司