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楽天が描く「ふるさと住民」の新たな経済圏、関係人口と「旅行」「ふるさと納税」をつなぐ戦略を責任者に聞いてきた

2027年度から国が関係人口の促進を目的に本格的に始める「ふるさと住民登録制度」に向けて、楽天グループは、関係人口や地域の担い手を創出する取り組みを積極的に展開している。

パートナー企業との連携で担い手を求める地域を支援するほか、賛同企業や全国の自治体とともに設立した「ふるさと住民応援コンソーシアム」を通じて、ふるさと住民の普及と拡大を進めている。2027年春には、楽天会員と全国の自治体をつなぎ、地域との継続的な関係を育てる目的で関係人口プラットフォーム「楽天ふるさと住民」を開始する。 

楽天が目指す地域創生のカタチと事業を通じて描く未来の姿とは?楽天グループ地域創生事業ヴァイスマネージャーで、ふるさと住民応援コンソーシアム代表の鳥海彩氏に聞いた。

「ふるさと住民登録制度」とは、専用アプリを通じて関心のある市区町村や都道府県に登録し、地域情報や活動サポートを受けられる仕組み。登録区分は関係性の深さに応じて「ベーシック登録」と「プレミアム登録」の2種類が設けられている。ベーシック登録は要件なしで誰でも登録可能で、自治体から観光やイベント、ご当地ニュースなどの情報が提供される。プレミアム登録は、「年3回以上、自治体が指定する担い手活動を実施すること」を必須要件とし、地域に継続的に関わる人を対象とする。総務省が推進する関係人口を促進する目的で準備を進めているところだ。 

地域創生事業、「ふるさと住民」でフェーズ3に

2027年に開始する「楽天ふるさと住民」とは、自治体の魅力発信からふるさと住民登録支援、地域への来訪、担い手活動への参加、ふるさと納税や地域産品の購入までを一気通貫でつなぐプラットフォームだ。「楽天市場」で産品を購入した人、「楽天トラベル」で旅行した人、「楽天ふるさと納税」で寄付した人など、これまで個別のサービスごとに存在していた地域との接点を統合し、一過性で終わらない継続的な関係人口へと発展させることを目指している。

鳥海氏は、楽天における地域創生事業の歩みを振り返り、「各サービスにおいて地域との共創なしに楽天経済圏は構築できなかった。地域に対して貢献してきた自負もある」と話す。

同社における地域創生は、楽天市場での特産品流通や楽天トラベルによる観光振興を主軸とした「フェーズ1」から始まった。その後、約1100万人規模の市場へと成長したふるさと納税を通じて、自治体に対するダイレクトな寄付支援と広範な行政ネットワークを構築した時代を「フェーズ2」と位置づける。そして現在、制度化が進むふるさと住民へのアプローチを「フェーズ3」と捉えている。

鳥海氏によれば、制度の具体化に伴い自治体からの関心は急速に高まっているという。「従来は楽天側から自治体に提案する形が多かったが、現在は自治体側から積極的なアプローチがある。グループ全体で約3万人いる社員に『まずはふるさと住民になってもらいたい』という相談も増えている」と明かす。

「ふるさと住民の発展には受け入れ地域の熱量も大事」と鳥海氏

実際に世田谷区の本社内では山梨県甲州市や北海道上士幌町などの産品を販売する物産展が開催されるなど、社内リソースを直接地域に還元する取り組みも始まっている。

地域とのつながりを旅行、ふるさと納税、買い物のサイクルで

ふるさと住民登録制度の開始に向けたロードマップについて、鳥海氏は2026年を「新しい領域に対して不安を抱える自治体と伴走し、ゼロイチから立ち上げる共創の年」と位置づけた。楽天市場での物販や楽天トラベルでの宿泊促進とは異なり、ふるさと住民登録制度は前例のない取り組みであるため、参画自治体とともに手探りで体制を整えてきた。

2027年について、鳥海氏は「初期段階で参加を表明した自治体に向き合い、確実に結果を出す1年にしたい」と意気込む。

「単に『ベーシック登録』や担い手活動に参加する『プレミアム登録』の数を集めるだけでなく、登録者が実際に楽天市場で特産品を購入し、楽天トラベルで現地を訪れ、ふるさと納税で寄付を行うという経済流通の実績を作ることが極めて重要になる」との考えだ。

2027年4月にスタートする「楽天ふるさと住民」では、まず、先行自治体で確実な成果モデルを確立し、同年7月以降に連携自治体を順次拡大していく道筋を描いている。

オフィシャルパートナー制で外部連携を強化

担い手不足に悩む自治体を支援するにあたり、楽天単独ではカバーできない領域を補完するため、同社は「オフィシャルパートナー制」を導入する方針だ。

たとえば、北海道上士幌町では、楽天グループ、タイミー、日本航空(JAL)の4者が共同施策を開始した。酪農や農業、林業などの基幹産業における担い手確保を目的に、楽天のEコマース・旅行ノウハウ、タイミーのスポットワーク導入支援、JALのマイルを活用した移動促進を掛け合わせ、関係人口の拡大と人手不足の解消を図っている。

「働く場や就労機会の創出は楽天単体では完結できない。担い手活動を求人という形で設計する場合はタイミーにユーザーや自治体を紹介し、ユーザー獲得の面でも相互送客を進める」。

また、プロジェクト型滞在やリゾートバイトの分野では「おてつたび」と連携。楽天市場内に「甲州市ファンクラブ」特設ページを開設し、地域で働く体験を通じて関係人口を創出する取り組みを展開している。さらに、旅行会社である日本旅行とは、福井県の関係人口受け入れプロジェクトにおいて県内4市町村の担い手活動造成や県外からの誘客事業を受託するなど、マーケティングデータを活用した官民共創の輪を広げている。

楽天は、2025年9月に「ふるさと住民登録制度」の社会実装を支援する目的で「ふるさと住民応援コンソーシアム」を設立した。日本旅行、タイミー、おてつたび、LIFULL、ふるさと住民登録制度に積極的な自治体なども参画している。鳥海氏は「コンソーシアムは、ふるさと住民に出会う入口として、企業と自治体をつないでいる」と評価する。

宿泊キャパシティと移動コスト、制度普及を阻む「構造的課題」

順調に連携が進む一方で、制度の実効性を高めるための構造的な課題も浮き彫りになっている。そのひとつが「宿泊施設の広域連携」と「移動の壁」だ。

鳥海氏は、ふるさと住民が現地で活動するためには「良質な滞在体験」の確保が不可欠であると指摘する。しかし、担い手活動の現場と宿泊施設が離れているケースは少なくない。

「理想を言えば、近隣自治体に宿泊しながら活動先自治体へ通うような『人材シェア』の仕組みがあれば、宿泊キャパシティの制約を克服できる。しかし、現行の政府の特別交付税措置は自治体ごとの予算執行を前提としているため、自治体域内でのみ使えるクーポン発行にとどまり、広域的な周遊設計に至りにくいのが実情だ」。

現在、楽天は複数の都道府県と連携し、2027年3月までに広域連携による宿泊促進と各地域のアイデンティティを生かした担い手活動創出の両立に向けた仕組みづくりを進めている。

もう一つの課題は、都市部から遠隔地への移動コスト(費用と時間)だ。しかし、鳥海氏はその発想は都市部を中心とした考え方だとし、「大都市圏だけでなく、例えば上士幌町であれば札幌もターゲットとなり得る。県内の人材流動を視野に入れている県もあるようだ」と話す。

さらに、地方路線やインフラの維持という観点からも、「遠い地域だから選ばれない」と捉えるのではなく、「地域のインフラを維持し、住民の生活を守るために都市部のふるさと住民が航空路や鉄道を利用する」という逆算の発想が必要であると強調。企業側の柔軟な休暇取得制度やテレワーク環境の整備も含め、社会全体で移動と時間のハードルを下げていく必要性を訴えた。

「細く長くつながる」新しい住民票へ

楽天ふるさと住民の事業における直接的なビジネスモデルについて、鳥海氏は「目先のプロモーション収益を求めているわけではない」と話す。

「年間365日のうち、仮に3日間を地域での担い手活動に充てたとしても、残りの362日は都市部で生活している。その日常の中でふるさと納税を行い、限度額に達した後は楽天市場で特産品を購入する。ふるさと住民登録制度を通じた副次的な効果として楽天経済圏を利用してもらうことに本質的なメリットがある」という。

鳥海氏は、地域と能動的につながるユーザーはロイヤルティが極めて高く、物価や利便性などの変動に対しても許容度が高いとみている。さらに、自然災害などの有事においても地域を能動的に支援する強固な関係性を築くことができると期待する。

「旅行や食、ふるさと納税は本来楽しいエンターテインメントであるはず。ふるさと住民としての活動も、気負うことなく『楽しさ』や『新しい発見』を原動力にしてほしい。1年目は3日間、2年目は寄付だけ、3年目に再び訪れるといった形でも構わない。『細く長く』つながり続けられる、もう一つの変わらない住民票のような存在として、このライフスタイルを定着させていきたい」と先を見据えた。

人口減少が進む地域社会において、関係人口を実質的な担い手へと変えていくための挑戦が本格化しようとしている。