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地域交通を「個別最適」から共同化へ、バス3社が語るダイヤ編成と安全管理の課題、データとAIを生かした構造改革の議論を聞いた

テクノロジーを活用して地域交通インフラの課題解決に取り組むWill Smart(ウィルスマート)は、2026年10月、国土交通省との共催で「地域交通DXフォーラム2026」を開催した。全国の自治体や交通事業者、関連企業など多数の地域交通関係者が集結。深刻化する人手不足や人口減少に直面する地域交通の維持に向けて、国主導の共通モビリティ基盤づくりや業務の標準化、データ・AIの活用、さらには事業者の枠を超えた共同化の可能性について議論された。

国交省「COMmmmONS」、自動運転量産化を見据えた基盤連携

基調講演に登壇した国土交通省モビリティサービス推進課長の星明彦氏は、同省が立ち上げた地域交通DX推進プロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の進捗と今後の方向性を説明した。コモンズは、デジタル技術によって誰もがアクセス可能な共通モビリティ基盤を整備する構想であり、「共同化・標準化」「輸送資源の有効活用とマッチング」「経営体の削減と効率化」の3本柱で実証事業(PoC)を進めている。

星氏は、MaaSやキャッシュレス決済が全国に普及しつつある一方で、各地でシステムや運用の「個別最適化」が生じている現状を指摘した。そのうえで、2028年度頃から大型バスを含む自動運転車両の量産化が迫る中、自動運転と既存の有人運転が立体的に連携できる共通基盤の構築が急務であると強調した。

バス事業のみならず、タクシー分野でも同様の標準化に着手している。地方の中小事業者では、運行管理者をはじめとするバックオフィスの人材の高齢化と担い手不足が進み、業務の属人化や紙とデジタルの混在による作業負担が安全運行を脅かしかねない状況にある。国交省は、コストや工数の削減効果が高い領域を特定し、業務プロセスとシステムアーキテクチャの標準化を進めることで、事業者が段階的に共通基盤へ移行できる枠組みを整えている。

さらに、介護施設や病院、学校などの送迎リソースを地域交通に活用する新システムの基本技術仕様を2026年度中に公開する予定であることも明らかにした。介護施設側の送迎負担を年平均99時間削減しつつ、地域の移動手段を補完する狙いだ。加えて、人口5万人未満の自治体の8割以上で交通専従職員が不在という実態を踏まえ、非専門家でもデータに基づいた交通網を設計できる「地域公共交通計画」の策定支援ツールの実証・改善も進めている。

星氏は、交通空白が家族の送迎負担(特に女性の就労制約)を生み出し、世帯所得や地域経済に与える損失が年間10兆円規模に及ぶ試算があると説明。交通政策を単なる移動手段の確保にとどまらず、可処分時間の創出とウェルビーイング向上に資する「成長投資」と位置づけ、予算措置を含めて強力に推進していく姿勢を示した。

国交省の星氏は「COMmmmONS」について説明

バス3社が直面する現場課題、ダイヤ編成の脱属人化と安全管理のテクノロジー活用

パネルディスカッションには、バス会社3社の幹部が登壇し、現場が抱える構造的課題とデジタル活用の現在地について意見を交わした。

長崎自動車(長崎バス)自動車本部自動車部業務担当部長の江川正樹氏は、コロナ前までの10年間で輸送人員が2割減少し、コロナ禍でさらに2割減少したまま回復していない厳しい経営環境を説明した。運転手不足と需要減少の双方が進む中、最大の課題として挙げたのが「ダイヤ編成の属人化」だ。長年の歴史の中で蓄積されたノウハウや地域事情が担当者個人の頭の中に依存しており、DXを進める上での壁になっていると指摘。「運行管理の定義を再整理し、人が担うべき部分とAIやシステムで省力化できる部分を切り分ける必要がある」と語った。

しずてつジャストライン常務取締役の藁科孝佳氏も、ダイヤ編成の難しさに同意。鉄道との接続調整や学校・工場の始終業時刻への対応など、複雑な地域特性を踏まえた作業は未経験者への引き継ぎが極めて困難であるとし、担当者に不測の事態が生じた際に対応できないリスクを抱えていると述べた。また、事業者間の連携について、「バス業界は営業面での横のつながりはあるものの、バックオフィスに関しては各社が独自仕様にカスタマイズしてきたため、共通の土台で議論する機会が少なかった。コモンズの取り組みを通じて基底部分が標準化されれば、業界全体の効率化が一気に進む」と期待を寄せた。

高速バスを運行するWILLER EXPRESS代表取締役CEOの平山幸司氏は、安全運行におけるテクノロジー活用の重要性を訴えた。同社では10年以上前から運転手の耳たぶにセンサーを装着し、バイタルデータを取得することで居眠り事故ゼロを達成している。精神論ではなく、自覚症状が出る前の疲労データを検知してリスクを予見・回避する運行管理の仕組みを構築してきた。一方で、他社からの転職者がシステムに適応しにくい実態に触れ、「運行管理者が書類作成などの事務作業に追われ、本来注力すべき安全管理に時間を割けていない。入力作業や管理プラットフォームを業界全体で標準化し、誰でも扱える環境を整えるべきだ」と提言した。

(左から)長崎自動車の江川氏、WILLER EXPRESSの平山氏、しずてつジャストラインの藁科氏、Will Smartの石井氏

Will Smartの戦略、バス基幹業務システムを公開

フォーラムを共催したWill Smart社長の石井康弘氏は、交通事業者が進める共同運行や共同経営を実効性あるものにするためには、現場の手間を増やさずに迅速な実行を支えるシステム基盤が不可欠であると説いた。

まず、バス事業者向けには、「バス基幹業務システムパッケージ(Will-MoBi)」を新たに公開した。国土交通省の「バス業務標準仕様」に準拠したマネージメントサポートシステムとして、路線、ダイヤ、人員をデータで把握し経営判断を支える。石井氏は、「車両や乗務員の共同化を進めていくうえで、実行精度を上げるためのシステムが大事」と話し、このシステムの意義を強調した。

また、同社は「地域鉄道の販売業務DX」にも注力している。世界中からの誘客を図る上で、自社窓口や直販ウェブサイト、各種OTAなど販売チャネルが多様化する一方、各チャネルに個別対応するオペレーションは現場の疲弊を招く。石井氏は、航空業界のGDS(国際予約流通システム)や宿泊業界のサイトコントローラーのように、中央のデータベースで在庫を一元管理し、複数の販売チャネルへ自動連携する仕組みを地域鉄道向けに構築していると説明した。

石井氏がWill Smartの取り組みを説明あわせて石井氏は、旅行者の情報探索行動における「生成AIの急速な浸透」に危機感と好機を見出す。AIを経由した旅行情報の収集や予約導線へのアクセスが急増する中、従来の特定プラットフォームへの掲載依存から、事業者自らが保有する料金、在庫、サービス情報をAIに正しく学習・認識させる体制へとシフトする必要性を指摘した。事業ロジックと販売チャネルをつなぐデータベースをAI連携に対応させることで、小規模な事業者であっても世界中の消費者とダイレクトにつながる商流を支援していく考えだ。

また、バスターミナルのDXに関しても、羽田空港やバスターミナル東京八重洲(第1期・第2期)、大阪・関西万博などの大規模拠点に情報配信・運行管理システムを導入してきた実績を踏まえ、今後は関西圏をはじめとする地方中核都市のターミナルへも横展開を進めていく方針を示した。