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楽天、じゃらん、i.JTBのトップが語る戦略と競合対策、国内3大OTAを比較してみた

電通観光ユニット会OTA分科会「オンライントラベル最新動向セミナー」で、i.JTB代表取締役社長の今井敏行氏、リクルートライフスタイル執行役員の宮本賢一氏、楽天執行役員トラベル事業長の山本考伸氏が、各社の戦略や、競合サイト等との対策について語った。

それぞれの方針や戦略はメディアで取り上げられる機会が多いが、今回は3社が一堂にそろい、限られた時間内でコンパクトな議論が行なわれたため、比較がしやすい。市場環境が変化するなか、各社の強みを生かした戦略はさらに差別化されているようだ。


JTBはオムニチャネル化で差別化

i.JTBでは、JTB全体の戦略として今年を「オムニチャネル元年」とし、オンラインとリアル販売の融合を推進。店頭やネットで検討した商品を相互購入できるようにするなど、2017年までに完成させる予定だ。


i.JTB代表取締役社長の今井敏行氏

今井氏は、「旅行は簡単なものばかりではなく、店頭相談が必要な複雑なものやオンラインで完結する簡単な販売もある」と強調。総合旅行会社の強みを生かしたオムニチャネルの推進で「他のOTAとの違いが明確に出る」との考えだ。

ちなみにJTBの今年の取扱目標額は、日本人の国内・海外旅行とグローバル事業を含む全体で1兆8000億円。個人需要はその65%の1兆500億円の見込みで、オンライン販売は2000億円超。2014年の16%から、さらにシェアを広げている。

セミナーではi.JTBの取扱額・年間予測も公開された

リクルートは需要創造から旅行プロセス一連でアプローチ

リクルートライフスタイル執行役員の宮本賢一氏

リクルートが特徴的なのは、需要創造の取り組み。その一つ、若者の行動支援プラットフォーム「マジ☆部」は将来の需要を育てる活性化策として注目されている。宮本氏は、リクルートが3つの方針「需要に応える」「需要を創る」「地域を創る」で事業展開をしていることを説明。このうち国内市場に対しては「訪日消費が増える以上に国内が減っている」ことから、需要創出を特に重視しているという。

また宮本氏は、旅行先から宿泊選び、現地での体験まで、旅行プロセス全体をサポートするサービスに進化する方針も強調。従来の情報誌「じゃらん」、じゃらん.net、週刊じゃらんアプリに加え、今年7月には旅ナカのアクティビティサービスも開始している。

ちなみに今回の発言にはなかったが、旅行プロセス全体という点ではBtoBも推進。決済支援の「AirREGI」や順番待ち管理の「AirWAIT」など、旅ナカの事業者に対する業務支援構想「Air Maket」を掲げている。


楽天はグループIDデータ活用で満足度向上へ

楽天執行役員トラベル事業長の山本考伸氏

楽天は、「予約のプラットフォームから、宿泊施設とユーザを結ぶマッチングプラットフォームへの進化」(山本氏)。正確で安全な予約が当たり前になった今、「OTAに求められるのは、自分にぴったりの旅行を探してくれること」とし、よりパーソナライズした予約サイトを目指そうとしている。

その強みとするのが、グループ共通のIDプログラム。「アクセスした時点で、その人の嗜好やセグメントが把握できる世界でも珍しい予約サイト」とし、物販などを含む利用傾向や属性データからその人にあった施設をマッチングできる仕組みにする方針だ。

加えて山本氏は「クチコミは宿の評価と思われるが、紹介した楽天の評価でもある」と述べ、評価が2以下の人と3以上の人とでは、その後1年間の予約率において30%の差が生じることを紹介。「いかに満足度の高い旅行となる予約をしてもらうか」を重視しているという。

参考>>

楽天トラベルに統合後の動きを聞いてきた、拡大する楽天経済圏の中で目指すものは?(2015年 1月 14日)

メタサーチや直販サイトをどう見てる?

ディスカッションではモデレーターから、メタサーチや宿泊施設サイトの直販など、オンライン上の競合対策について質問が及んだ。

これについては今後、宿泊料金は「宿泊施設が最低価格になるのが当然」というのが3者共通の認識。それを踏まえて、JTBの今井氏は「連泊や近郊の観光など、単品ではない商品構成にメリットがある」とし、「ダイナミックパッケージ戦略を強めていくことが大切」との考えだ。

リクルートでは、じゃらんならではのプラン作りをカギとする。宮本氏は、各宿泊施設の売上げ最大化を目的に、「いかに独自の取り組みができるか。特別な旅行体験を施設や地域とともに提供できるか」が勝負になるとする。

楽天の山本氏はこの点においても、パーソナライズ化が対応策になるとの考えだ。宿泊施設のサイトに対しては、「毎回同じ宿を希望する人もいるが、もっと自分にあう宿を求める人もいる」とし、「正しい提案ができる機能強化を継続していく」方針。

メタサーチに対しても、「価格などカテゴリの比較になりやすいが、宿泊はそんなに単純ではない」とし、さまざまな部屋タイプやプランがあることが優位になると指摘。「単純な価格比較では追い付けないサービスに注力していく」と語った。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田紀子