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2年ぶりのツアーグランプリ、国土交通大臣賞は「ランドクルーズJTB」、オンラインツアーやSDGsなどの新時代の企画も

日本旅行業協会は2021年6月21日、「ツアーグランプリ2021」の受賞者発表と表彰式を開催した。

ツアーグランプリとは、旅行業の企画力とマーケティング力の向上、「観光立国」の施策に寄与することを目的に、優れた旅行企画を表彰するもの。コロナ禍で2020年の実施が中止となったことから、2年ぶり28回目の開催。今年は、この10年で最多の173作品(海外旅行85作品、国内・訪日旅行88作品)の応募があった。

選考対象は、特例として2019年4月~2021年3月末までの2年間に催行された企画旅行(海外・国内旅行)と企画提案(訪日旅行)のほか、海外旅行はオンラインツアーも対象に加わった。また、コロナ禍を反映し、国内旅行が増加したことも、応募総数増加の後押しになったという。

今年の国土交通大臣賞は、JTBの「ヨーロッパから参加する現地発着周遊バスの旅『ランドクルーズJTB』」が受賞。個人旅行化や航空環境の変化が進むなか、欧州周遊コースの新たなビジネスモデルを構築し、収益面のリスクを抱えながらも事業化に踏み切った点が評価された。

賞を受けたJTBのツーリズム事業本部海外仕入商品事業部欧米部、池亀朋子氏は「乗降自由で日本語案内があり、観光と宿泊がついた路線バス。当社だけでなく、他社ツアーにも利用される観光インフラとなることを念頭に開発した」と商品概要と開発背景を説明。初年度の2019年の参加人数3000名には、他社ツアーの参加もあったという。「欧州周遊旅行は1社では成り立ちにくい状態になっている。当バスが活用されることで、旅行業界全体の復活と活性化に貢献していきたい」と話した。

プレゼンターとして登壇した観光庁参事官の奈良和美氏(左)とJTBの池亀氏(中央)

新たな時代を拓く

今回のツアーグランプリではコロナの影響を受けながらも、これから時代に向けた可能性を感じられる企画が多く表彰された。

例えば、国内・訪日旅行部門の観光庁長官賞は、エイチ・アイ・エス(HIS)の「手話対応添乗員と手話が出来る登山ガイドが同行する国内トレッキングツアー」が受賞。聴覚障害のある旅行者が、安心安全にトレッキングが楽しめるように山の魅力や情報を伝えるツアーだ。旅行中も手話を取り入れたバリアフリー型の主催旅行である点が新しい試みであり、身体の不自由な人に旅行を楽しんでもらえるプログラムであることが高く評価された。

賞を受けたHISユニバーサルデスクの片桐幸一氏によると、同ツアーの開発は2018年に岐阜で発生した聴覚障害者の遭難事故がきっかけとなった。同事故は、山に関する正しい情報が理解されていなかったことが原因と言われているが、片桐氏は「(聴覚障害のある人は)山の正しい情報を得られる術がない」と説明。一方で、聴覚障害のある方からの登山中に花や鳥などの自然の名前を知りたいという要望もあった。これらを踏まえ、「聴覚障害のある人の声なき声を汲み取らなければならないと思って企画を作った。素晴らしい賞をいただいたが、これは必要で当たり前のツアー」と訴えた。

さらに、自身も聴覚に障害がある片桐氏は、「国籍や障害をこえた人がもっとこの会場にいていいと思う。これからの時代、旅のカタチも多様であるべき。これを機に、旅の多様性が広がることを期待している」と話した。

左から、プレゼンターの観光庁参事官・奈良氏とHISの片桐氏

また、今回初めて海外オンラインツアーが対象となったが、リアルとリモートのハイブリット型を含め、オンラインを活用した企画で4つの作品が選出された。

このうち、海外旅行部門のデジタル活用部門グランプリは、ベルトラのオンラインツアー「憧れの美食の町!サンセバスティアンのバル巡りツアー」が受賞した。ベルトラ・オンライン・アカデミーの黒木泉氏は表彰式後の記者会見で、オンラインツアーをしたことで「旅行に行けない人がこんなに多いことに気がついた」と述べ、「アフターコロナに向けてオンラインツアーの役割が変わる。旅行の体験・下見のほか、海外にいる旅行者と日本にいる人とのハイブリッド型ツアーも検討している」と話した。また「オンラインツアーは採算をとるのが難しい」と述べ、複数の会社での共催する可能性にも言及。今後のツアー実施では、協業的な考えが重要になることを示唆した。

今年のツアーグランプリでは、日本作家協会が創設した「第1回兼高かおる賞」の表彰式も開催。「テルマエ・ロマエ」で知られる漫画家・随筆家のヤマザキマリ氏が受賞した。故兼高かおる氏が、長年ツアーグランプリに審査委員長として深くかかわってきたことから、同じ場での表彰式を行った。

なお、ツアーグランプリの審査委員会は、審査委員長を松本大学名誉教授の佐藤博康氏が務め、委員には観光庁参事官(旅行振興担当)の奈良和美氏やJATA副会長の菊間潤吾氏、読売新聞東京本社常務取締役の南砂氏など、観光関連分野の様々な重鎮が名を連ねる。トラベルボイスの鶴本浩司代表も審査委員を務め、表彰式当日は国内・訪日旅行部門のデジタル活用部門のグランプリを受賞した近畿日本ツーリスト首都圏の「持続可能な新しい学びの提案・リモート修学旅行および日本初SDGsマップを用いた修学旅行」のプレゼンターとして登壇した。

ツアーグランプリ2021受賞ツアーは、以下の通り。

グランプリ2021 受賞者

【国土交通大臣賞】

JTB:ヨーロッパから参加する 現地発着 周遊バスの旅「ランドクルーズJTB」

【観光庁長官賞】

(国内・訪日旅行部門)

HIS:手話対応添乗員と手話が出来る登山ガイドが同行する 国内トレッキングツアー

(海外旅行部門)

ワールド航空サービス:日本初 直行チャーター便特別企画 初夏の南西フランスへひとっ飛びA~Iコース

【海外旅行部門】

(グランプリ:企画創造部門)

ジャルパック:雄大なメコン川1泊貸切クルーズとラグジュアリーホテルステイを愉しむ 悠久のメコンデルタ&ホーチミン5・6日間

(グランプリ:市場開発部門)

フィンコーポレーション:フィンランドサウナ旅

(グランプリ:デジタル活用部門)

ベルトラ:憧れの美食の街!サンセバスティアンのバル巡りツアー

(審査員特別賞)

ユーラシア旅行社:チェルノブイリ原子力発電所訪問

【国内・訪日旅行部門】

(グランプリ:企画創造部門)

近畿日本ツーリストコーポレートビジネス:ふじみの救急病院 検査してGoTo 社員旅行!!

(グランプリ:市場開発部門)

読売旅行:三セク鉄道のオリジナル印“鉄印”がもらえる「鉄印帳」付ツアー 9つの列車をツナグ!みちのく鉄道周遊

(グランプリ:デジタル活用部門)

近畿日本ツーリスト首都圏:持続可能な新しい学びの提案・リモート修学旅行 および日本初SDGsマップを用いた修学旅行

(審査員特別賞)

日本旅行:Real Web Tour 外国人旅行者に向けたリアルウェブツアー